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カテゴリ:連載小説
「菫ちゃん。少しでもいいから呑みなさい。力がつくから。」
黒沢さんは知らず知らず、猫の名前を菫とつけていた。 やっと獣医につれていくと、菫は車に轢かれたのではなく、病気にかかっていると言った。皮膚病のようになって汚くなったから、捨てられたのだろうと言った。 「野良猫じゃないんですか。」 「うん、人に慣れているから、飼い猫だろう。もう、一才近いと思うが、成長が悪くて、ほんの子猫のように見えるね。」 可哀相にと黒沢さんは思った。注射も打って、たくさん薬も貰った。医者の掛かりも馬鹿にならなかった。その日から菫は黒沢さんの猫になった。病気がなおるときれいな烏猫になった。体もすこし大きくなり、すっかり黒沢さんに懐いてしまった。片時も黒沢さんの側を離れなくなってしまった。この話が町で話題になり、知らぬ人までが黒沢さんは猫好きと噂がたち、飼いきれなくなった猫を門の前に捨てていく人までが現れた。基本的に今でも黒沢さんは猫が好きではない。死にそうな子猫を捨てておけなかっただけであった。たまたま菫色の瞳をしていたから菫と呼んで飼ってはいるが、今でも、余所の猫は側によってほしくなかった。姉さんの所の猫が庭に入ってくると血相替えて追い払っていた。 それからは黒沢さんの家には菫以外にいつも大きな猫が一、二匹いた。数カ月、一年程いると何処に行くのか、姿を見なくなったり、死んでしまったりしてそれ以上増えることはなかった。近頃も年老いた猫が死に、菫だけが家に残っていたのだが、また黒犬のBが来てしまった。黒沢さんは犬もそれほど好きではない。動物を飼いたいと若い時から一度も思った事がない。それなのに、動物好きの噂がたったお陰でまるで猫屋敷のようになってしまった。近頃は犬まで捨ててあることがある。これでBが増えると、もっと多くの犬が庭先に捨てられるかもしれない。そう思いながらも、結局Bを引き取ってしまった。今度はわざわざ自分の方から貰いに行ってしまった。やれやれと黒沢さんはため息をついた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.10.08 17:25:27
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