運動会
良江はバットの上のトンカツが冷めたのを確かめると、まな板に移し包丁で切っていく。サクサクと小気味良い音をたてて2cm幅に切られたそれは、重箱の中、卵焼きの横に収まる。砂糖だけで味付けされた卵焼きはケンタロウの好物だ。手の込んだものよりもそういう素朴なもので喜ぶ我が子のあどけなさに自然と笑みがこぼれる。「そろそろ、起こしてこないと」この物語はフィクションであり. 登場する人物、団体名称は実在のものとは一切関係ありません。 こんな時はトンカツ揚げるんやろな、と思いつつ、我が家のキッチンではフライドダンプリングが揚がってる。ジャマイカ料理の朝の定番である(数少ないボンの好物)。運動会ではおやつが支給されないため、ここで胃袋を満たすか否かが、この後の運命を左右する。半ば強引にミロのカップを彼の口に押し付ける。飲んでくれた!と思った次の瞬間シャツの胸元が褐色に染まる・・。ゼッケンをつけかえる猶予は残されていない。晴れの日を、染みの付いたTシャツで迎える運命を呪いながら出発。起きてきたばかりのオトンを背に。並べられた小さな椅子に鎮座する子供たちの隣には、年少さんたちのテント。この非日常性を対処すべくそれぞれのリアクション。泣く子。先生にすがる子。先生にボンを引き渡す。クラスメイトに会えたせいか、泣かなかった。ホッ(てか、うち最後やんか)。この日のためにフンパツしたビデオカメラを回す。「エイエイオー!」家であんなに練習してたお歌が、本番では耳に入ってない様子。キョロキョロ。フラフラ。隙を見ては脱出をはかる我が子をただカメラで追い続ける現実・・。後半やっと調子が戻り大はしゃぎ。クラスメイトと顔を見合わせ笑顔。あぁ、あんな小さくても自分の社会を築きつつあるんや・・。クラスの出し物が終わり父との再会を喜ぶ。オトンはなぁ、アンタの晴れ舞台に遅れてきやがったんやでぇ。同じクラスのハーフちゃん親子とご対面。Tom, Mike. Mike,Tom. とやるのかな、と思ってたがママ同士の世間話に終始してしまった。ラスタマン、社交性ゼロやんけ。オルタナ系若者が相手じゃ接点がないのも無理ないか・・。ラスタマン、玉入れで、子供たちが玉をかご持ちのパパにぶつけてるとこで爆笑。日本の運動の祭典に娯楽性を見いだしたようだ。見渡せば親もいろいろ。デューク更家か山本寛斎か、派手なおっちゃん。ウッドストックを彷佛とさせるヒッピー父ちゃん(何の仕事してるか非常に気になる)。人間ウォッチングも楽しや。ビデオカメラのテレビCMは、決まって子供の運動会や入学式。田中律子なんかが演じるうそっぽい家族に、欺瞞を感じずにはいられなかった。でもそれは、内心うらやましかったからかもしれない。最後にそんな普通の家族の仲間入りさせてくれて、ありがとボン。