「やはり新築・持ち家?」神戸大大学院教授・平山洋介氏、住宅ジャーナリスト・山本久美子氏に聞く・9日朝日新聞・「ニッポンの宿題」欄
私:驚いたね。 日本、米国、英国、フランスの4ヶ国の「新築住宅と中古住宅の割合」を比較すると、日本は既存住宅取引戸数は14.7%、ところが、米国は83.1%、英国は87.0%、フランスは68.4%と、日本人の住宅についての価値観は異常だね。 A氏:平山洋介氏によると、戦前の都市部では住宅の8割が借家だが、現在、日本の持ち家率は6割強。 住宅政策が「持ち家」一辺倒になったのは1970年代。 俺達が、マンション住まいから、大手デベロッパーが、開発した一戸建て団地に大移動した頃だね。 私:俺のいた横浜の戸塚区は、最初、山林が多かったのが、一挙に一戸建て住宅が増加し,住宅地に変貌したので。区を分け、栄区という新しい区を作ったほどだね。 民族の大移動だ。 平山氏は、同じ先進国のドイツやスイスなどでは持ち家率は低く、日本の「持ち家」一辺倒は政策的につくられたという。 A氏:政府が持ち家建設を重視した理由の一つは、経済刺激で、73年の第1次オイルショックで高度成長が終わると、住宅建設で景気を浮揚しようとした。 それ以来、第2次オイルショック、プラザ合意、バブル崩壊と、景気が傾くたびに持ち家建設を拡大するという政策パターンが定着。 私:70年代後半、国家ではなく家族と企業を福祉の柱とする「日本型福祉社会」をつくり、社会保障の水準を抑える構想が示されたが、公的年金は住居費を考慮していなかった。 国民は家を買い、高齢期までにローン返済を終えておかないと生きていけない、と考えざるをえないと平山氏はいう。 企業の福利厚生でも、持ち家への融資があり、社員に資金を貸し付けて家を買ってもらうことは、終身雇用制度度に適合し、労使協調の企業コミュニティーを強固にする意味をもっていた。 しかし、俺は会社に縛られるのが嫌で、あえて、銀行から借りたね。 A氏:70年代以降、景気対策のため、当時の住宅金融公庫の融資供給が増大し、銀行の住宅ローン販売も増え、家は貯蓄ではなく借金で買うものになり、持ち家は「金融化」した。 私:しかし、90年代から、合理性が揺らぎ、所得が減ったことから大型の住宅ローンを組む世帯が増え、返済の負担は重くなる。 ローン負担の増大は、消費低迷の一因で、退職金が減り、定年後も返済が必要になるケースが出ていて、しかも、かつては増えていた住宅の資産価値は、たいていの場合、どんどん減っている。 それでも家を買おうとするのは、高齢期の不安に対処するためだと平山氏はいう。 戦後、膨大な住宅投資をしたが、成果の大半は「私物」の持ち家で、中古住宅の市場は小さく、家を買った人は住みつぶすしかない。 長くなった高齢期に、体調や家族の都合で引っ越す必要があっても、持ち家の売却は難しい。 A氏:新築促進による経済刺激の効果は減り、欧米に比べ、日本はいまも人口あたりの新築戸数は多いが、住宅への投資の総量は小さい。 私:最近、俺の近所の空き地に新築の一戸建ての家が何軒かできているが、いずれも、せまいね。 1970年代の俺達の一戸建ての坪数が80坪くらいで、庭が広かったのが、最近の新築はその半分くらいの広さで庭も狭く、隣の家との間隔も狭いね。 新築の規模の質が低下しているように思う。 これは、平山氏は指摘していないね。 A氏:平山氏は、既存住宅の修繕や維持に力を入れ、中古市場を育ててきた欧米のシステムの方が、住宅投資を持続する効果をもっているという。 いま、日本で新築は年100万戸にとどかないが、既存住宅は5200万戸以上あり、中古住宅をもっと動かし、社会としても使えるようにするべきだという。 私:中間層が減り、低所得の高齢者や非正規労働者が増え、公的な低家賃住宅は欧州諸国では2~3割を占めるのに、日本では3・8%。 公的な家賃補助制度がないのは、先進国では日本くらい。 「私物」の住宅ばかり積み上がり、住宅困窮者が増え、社会や経済が停滞する状況から、抜け出さないといけないと平山氏はいう。 A氏:住宅ジャーナリスト・山本久美子氏は、日本人は欧米と比べて、新築好きで、リクルート住まいカンパニーが、住宅を購入または建築を検討している人におこなった調査(16年度)で、新築希望が76・7%、中古希望が7・3%。 山本氏は、望ましい住宅の選択は、ここに住みたい、こういう暮らしがしたい、というのがあって、結果的に新築だった、中古だった、という姿だという。 それが、新築がいいというイメージが先行し、早い段階から新築か、中古かを決めてしまう人が圧倒的に多いのがいまの状態だという。 誰もが中古住宅を買いやすく、売りやすい市場にすることが大切だという。 私:国交省は06年に新築の大量供給から、中古の質の向上にかじを切り、中古流通とリフォーム市場の活性化に乗り出した。 その一つが中古住宅の「インスペクション(住宅診断)」で、中古住宅を買いたがらない理由の一つである、質の不安、の解消を狙ってガイドラインを策定。 建築士ら専門家が第三者的立場で住宅の状態を調査するもので、米国では一般的な仕組みで、給排水管の漏れや詰まり、建物の傾きや亀裂などをチェックし、売り手は、手入れやリフォームしたことを価格に反映させやすくなる。 4月からは、「インスペクション」の実施の有無や、その診断結果を、仲介業者が、売買契約の前に買い手に説明することが義務づけられていて、これをきっかけに普及が期待される。 A氏:新築でも中古でも、むやみに信頼して任せるのではなく、自分で良しあしを判断し、わからない場合は専門家に相談するなどで家を選ぶ必要があり、制度や市場ができても何より買い手の意識改革が大切で、その方向に進めば、新築至上主義から解き放たれ、選択肢が広がると山本氏はいう。 私:1970年代以降、大量に供給された一戸建ての「持ち家」が少子高齢化で、「空き家」も増えている。 少子高齢化対策の見地からも、その効果的な再利用が必要だね。