無登録農薬問題(3)
※これは完全にフィクションであり、実際に存在する団体や組織とは一切関係がありません。高度経済成長に取り残された日本農業は依然として一人当たりの面積は狭く、高齢化と後継者不足は深刻な問題になっていた。さらに、日本農業の中核として育成しようとした専業農家は、近年の農産物価格の低迷でこの先農業を続けていく気力を失いかけていた。このように日本農業が崩壊寸前の瀬戸際に立っていた頃、農林水産省○○局○○課では、連日熱い討論が繰り返されていた。テーマは「いかにして日本農業を再生するか」だった。「今は遠い将来の問題をとやかく議論している時ではない、猶予期間は長くて5年しかないんだ!」興奮したチーフの声だった。スタッフの皆がそう思っていた。しかし5年以内に世界に通用する競争力を日本農業に持たせることは、ほとんど不可能に挑戦するようなものだった。狭い耕地面積と世界一高い人件費で作られる農産物は、どんなに合理化を進めても国際価格には太刀打ち出来ない。「WTOの農業交渉でも、輸入をこれ以上食い止めることはおそらく出来ないだろう」「こうなったら、逆転の発想で行きましょう!日本の農産物はどうやってもコストが高くなるのなら、それを国民に納得してもらうんです」「なるほど。幸い今は中国野菜の残留農薬問題で、国民は食品の安全性に大いなる関心を持っている」「レモンのポスト・ハーベスト問題で、消費者は値段が高くても国産レモンを買うという前例もある事だし・・・」「日本の農産物は新鮮で安全。国産の農産物なら安心して健康な食生活を保証します。だから高くても国産を買いましょうという意識を国民に浸透させるということだな」チーフが言った。「そうだな。それ以外に方法はないだろう、よし!そのセンで行こう」これは輸入品と国産品の二重価格制度の導入だった。もし、国民が値段よりも安全・新鮮に価値を見出せば、どんなに低価格の輸入品の洪水からも日本農業を守る事が出来る。これは最後に残された実現可能な選択だった。しかしWTOに加盟している以上、二重価格制度を法制化することは出来ない。頼みの綱は国民の意識変革だけだった。これを実現させるには気の遠くなるような努力が必要だ。スタッフの全員がそう思った。スタッフは、この方針に添って考えられるあらゆる施策と問題点を検討する作業に入った。ある日、スタッフの1人(※仮に「日本」のNと呼びます・・・笑)が言った。「チーフ、問題があります。無登録農薬です」