カテゴリ:サッカーの話
鹿島アントラーズが’16年1stステージ優勝を飾りました。
と言っても、まだ”1stステージ優勝”というだけで、本当の意味を持つ”年間優勝”ではありません。 アントラーズは、Jリーグ発足第一回の優勝をしたチームですが、それも”前期優勝”というだけで、チャンピオンシップで2nd優勝のヴェルディ川崎に負けたため(審判の偏向による?)、タイトルにカウントされませんでした。 そんなトラウマもあって半分優勝など本気で喜べないのです。 小笠原主将の優勝コメントも 「僕たちの目指していたのはここではないので。まだ1stステージを獲っただけ。本当の意味でのタイトルとはいえない。90分通していい試合ができているわけではない。これに満足することなく、もっと内容をよくして、これからも勝ち続けていけるように頑張りたい」 という、浮かれることのない〔勝って兜の緒を締める〕慎重な発言でした。
この最終節の福岡戦は、優勝が懸かった一番という意味と他に、もう一つ注目されていたことがありました。 契約が切れるブラジル国籍のジネイ選手と、鳥栖に電撃移籍が決まった青木剛選手の最終戦という試合でした。 引退試合ではないのですが、共に戦った仲間の最後のアントラーズユニフォーム姿が、ピッチで見られるのかどうか。 優勝決定戦となる大事な試合で、それが許されるかどうかが気がかりでした。 思えば昨年のチャンピオンシップガンバ大阪VSサンフレッチェ広島第2戦。 ガンバには、この試合を最後に移籍をするベテランの明神智和選手がいましたが、最期の交代カードで出場したのは同じポジションのルーキー井手口陽介選手でした。 明神選手のコンディションの問題もあったでしょうが、前年の三冠優勝にも大いに貢献した、日本代表でも活躍した大選手の姿が最終戦で見られなかったのは残念だったし、プロの世界の厳しさも感じました。
さて、わがアントラーズはどういう思惑でいるのかとメンバー表を見ると、ジネイ、青木共に控えに名を連ねているではありませんか。 ふたりとも前2試合(神戸戦・浦和戦)にはベンチに入っていませんでした。 メンバー表を見てサポーターは、ある期待を持ちました。 試合展開によって、二人かどちらかがピッチに送られると。 多分、3点差が付いた時。 サッカーにおいて、2点差というのはまだ危険な点差なのです。 5分で2点が入るなんて試合は珍しくはありません。 2点差が1点差になると、選手の心理状態が乱れ、守る方は不安に足を取られ、攻める方は居丈高に変身します。 アントラーズは勝たなくては優勝しません。 ”優勝”という実績は、チームのメンタリティを確実に挙げます。 若いメンバーの多い今のアントラーズには、是が非でも落とせない試合なのです。 それに大事な1stステージの賞金5000万円は、優勝チームのみ。 2位ではダメなんです。 5000万円が懸かった大一番に、甘い判断は許されません。
前半で2点を先取し、プランは上々の出来で進行しました。 後半はゲームをコントロールしつつ、すきを見て3点目を取ればよい。 そうなれば、残り10分ぐらいから二人を投入しても大丈夫。 多分そんな希望をみんなが抱いていたでしょう。 ところが、後半になってなかなか点が入らない。 66分に杉本太郎が決定的場面を迎えますが、ノーゴール。 これが決まれば万々歳でしたが、なかなかそうはいきません。 初めに交代カードで投入されたのが、守備力に秀でたボランチの永木亮太。 いつもの真剣モードの交代です。 そしていつもなら、前線で追いまわす鈴木優磨が控えているはずですが、石井正忠監督はその選択をしません。 じっと辛抱し続けます。 そして、ついにロスタイムに突入。 まず呼ばれたのがジネイでした。 最前線でターゲットになる役割のジネイは、その通りのミッションを果たし、なんとヘディングでゴールします。 この出来すぎの演出にスタジアムは湧きますが、なんとオフサイドの判定。 空喜びのパフォーマンスや判定に抗議したりでごちゃごちゃとなって、どんどん時間が過ぎていきます。 場内からは3万人の”青木コール”が響きます。 これには青木自身も驚きの表情を見せていました。 このショットが画面に映ると、思わず胸が熱くなるのでした。 そしてついに、声援にこたえるように青木がスタンバイします。 あと何分残されているかと、ロスタイムを確認すると、なぜか表示がありません。 まさかの審判も青木の投入を待っているではないか。 そこでようやくゴールキックとなりゲームが切れ、青木が交代出場します。 スタジアムの興奮は最高潮に達します。 青木がピッチに立ったことを確認し、曽ヶ端がゴールキック、ボールが流れ試合終了のホイッスルが響きました。 もう少しピッチ上の姿が見たかったけど、すでにロスタイムは5分以上が経過していました(とくにロスもなかったので通常なら2分程度のはず)。
青木剛選手は’82年生まれの33歳。 アントラーズには’01年に入団しています。 アテネオリンピック世代で、同予選も阿部勇樹(当時・ジェフ市原、現・浦和レッズ)、今野泰幸(当時FC東京、現・ガンバ大阪)鈴木啓太(浦和レッズ)森崎和幸(サンフレッチェ広島)らとボランチを争い、茂庭照幸(当時・FC東京、現・セレッソ大阪)、那須大亮(当時・横浜F・マリノス、現・浦和レッズ)、菊地直哉(当時・ジュビロ磐田、現・サガン鳥栖)とセンターバックのポジションを競っていました。 アジア予選では出場していたのですが、本番の年に田中マルクス闘莉王の帰化によりはじき出された格好で、残念ながらアテネオリンピックには出場できませんでした。 アテネ世代はこの他に大久保嘉人(川崎フロンターレ)、前田遼一(FC東京)、松井大輔(ジュビロ磐田)、駒野 友一(FC東京)等、現在も活躍中の選手が多数います。 人材豊富な当たり年でした。 アテネオリンピック予選もそうでしたが、所属の鹿島アントラーズでもポジション奪取には壁がありました。 大型ボランチとして期待されて入団したものの、本田泰人や中田浩二、小笠原満男、熊谷浩二などのアントラーズレジェンド的選手からポジションを奪取しきれず、いつしかCBとしての起用が増え、そこでも大岩剛、岩政大樹、中田浩二、イ・ジョンスらの牙城を崩せずにいました。 結果、ボランチとセンターバックと両サイドバックがこなせるというポリバレント(複数ポジションができる)な能力に磨きがかかり、緊急出動要因としてベンチを温めることが多くなります。 万能選手のジレンマに陥ってしまいました。 そして今年は、昌子源、植田直道のヤングコンビがCBに定着し、さらにブラジル国籍のブエノが急成長をしていよいよ居場所がなくなり、今年はJリーグの出場がまだありませんでした。
福岡戦を前にして、海外移籍をした大迫勇也と内田篤人が練習に参加していました。 インターネットを通じて青木の出場機会がゼロだったことを知っていた内田は、古巣のトレーニングに参加しながら素朴な疑問を青木に投げかけました。 「監督とは話をしているんですか?」 返ってきた言葉に、改めて青木への尊敬の念を深めたと言います。 「青木さんは『自分の力が足りないからであり、自分で乗り越えるだけだ』と言うんですね。やっぱり青木さんらしいなと思いました。多くを言う人でも怒ったりする人でもないですけど、常に自分に厳しくやっている。ああいう人と一緒にチームでプレーできたことを、すごく誇りに思います」 2人一組で行われた練習前のウォーミングアップで、たまたま青木と組んだ内田は、 「今日が最後の練習っすね」と話しかけました。 「青木さんが『そうだね』と言った瞬間から、俺、下を向いたままになっちゃって……。すごく寂しくなって、危うく泣きそうになった。俺もシャルケで7年目で、その前に鹿島に4年半いますけど、それを加えても青木さんの在籍年数にまだ足りない。それほどメディアで取り上げられる選手ではないし、プレーも相手を潰したり、ロングキックを蹴るという感じでしたけど、ああいう人が鹿島を支えていた。ボランチを含めていろいろなポジションができるし、タイトルを取るためには欠かせない人。試合の最後、サポーターの方々はよくぞ青木さんの名前をコールしてくれたと思います」 内田と大迫は、青木のユニフォームを着て最後の試合を観戦しました。
鹿島一筋15年半の選手が新天地へ旅立つ。 青木剛の鹿島アントラーズでの記録は、リーグ出場375試合8得点(ナビスコ杯・天皇杯計488試合10得点)、獲得タイトル10冠。 小笠原満男のような危機察知能力、統率力はない。 柴崎岳のような決定的なパスや果敢に攻めあがってゴールを奪うことはない。 昌子源や植田直道のような瞬間的スピードやフィジカルの強さはない。 それでも彼がベンチで待機する事で、チームの底力は確実に上がっていました。 中田浩二、本山雅志が去り、アントラーズ黄金期を知る選手は小笠原と曽ヶ端だけとなってしまいました。 しかし、黄金期が存在したチーム自体が少ないのです。 青木の実力は、他のチームだったら十分レギュラークラスです。 その上で身に沁み込んでいる鹿島のスピリッツは、宝物なのです。 前橋育英高校時代から目を見張らせたキック力が生かされれば、まだまだ活躍の機会はあるでしょう。 ぜひともサガン鳥栖で、才能を思い切り開花させてもらいたいと思います。 サッカー選手は、スター選手に注目が集まりますが(他のスポーツ選手もそうですが)、こういういぶし銀のような選手もチームには絶対必要で、チームを愛するサポーターはその価値を十分知っています。 頑張れ、青木剛。 ありがとう、青木剛。
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最終更新日
2016年06月29日 09時08分07秒
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