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カテゴリ:風力発電
風力発電事業が赤字だらけの理由 WEDGE2月号 第二特集 2012年01月23日(Mon) 斉藤純夫
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1674?page=3 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1674?page=4 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1674?page=5 本来は、手数料で稼ぐ販売代理店モデルから脱却して、薄利とはいえ売電に収益の柱を移すべきで、これが出来ていれば今の姿はなかっただろう。売電収入で利益が出なければ、販売代理店として風車をよりたくさん売る、新たに扱いはじめたナトリウム硫黄(NAS)電池販売など、販売代理店手数料で稼ぐモデルに依存していくしかなくなる。 補助金モデルからの脱却 同じような話は、ウェッジ編集部がCEF社長の鎌田宏之氏にインタビューをしたときにもあった。それまで黒字だったのが10年12月期の決算が赤字となった理由について「補助金がなくなったからだ。これまで国が推進してきたのに、急ブレーキをかけられたのだからたまらない」と話した。 本来プロジェクトごとにしっかりとした事業計画を立てていれば、初期投資を回収し、利潤は生まれる。補助金がなくなれば、新規プロジェクトを止め、既存のプロジェクトを続けていれば、いずれ全体としての収支は成立するはずである。補助金がなくなれば、急に赤字に転落するという鎌田氏のコメントはCEFのビジネスモデルに疑問を抱かせるものだ。 実はCEFは、日本風力開発に似ている部分が多い。CEFも10年に東証マザーズに上場する計画であった。過去を紐解けば、前身の北海道クリーンエナジーファクトリーは、日本風力開発の関連会社だった。その意味で開発手法、株主にゼネコンが控えるなど似ていることが多い。 各地で激しい反対運動を起こされ、敦賀市や南房総市などでは社会問題化した。乱開発の影響なのか経営的に問題が出たようで、ゼネコンで株主でもあるきんでんが、CEFが建設中の風力発電所2カ所(和歌山県3万kW、山口県5万kW)を子会社化するという異例の事態が発生した。さらには九州の玖珠ウインドファームを、伊藤忠系JENホールディングスに売却している。日本風力開発も建設中であった和歌山県のウインドファームを大阪ガスの子会社に売却している。 風力事業会社がビジネスの根幹をなす発電所を売却するということそのものが異常な事態を示していると言える。2社はこのまま破綻、解体に進むのではないかとの観測も業界内にはあり、予断を許さない状況だ。 初期投資に出されてきたこれまでの補助金制度では、長期の事業計画の策定が疎かになってしまう。そうした意味では、発電しなければメリットを享受できない固定価格買取制度のほうが有用だと言える。 固定価格買取制度は機能するのか? 7月からはじまる固定価格買取制度で、風力発電の買い取りもこれまでより条件が良くなるだろう。これにより、きちんと風車を回せばきちんとした利益が期待できる。 当然、この対象は新設の風力発電所に限るべきだ。現に経済産業省の資料『再生可能エネルギーの固定価格買取制度について 2011年10月』12ページにおいても「新たな再生可能エネルギーの買取制度は、これから設置される設備が対象です。約1400件ある既設の発電設備については、引き続き、RPS法の下、同様の環境で事業を行うことができます」と記載がある。 しかし、一部には、「既存風力発電所も対象にし、高く買い取るべき」という声がある。政治家へのロビー活動などをしているという話も聞こえてくる。確かにこれまでの風力発電事業は、黎明期で知見が少なかったために、事業が行き詰まった事例もある。それは確かだが、固定価格買取制度は国民に負担を求める制度だ。その買取価格を高くすることで国民にどんなメリットがあるのかを、きちんと国民の前で説明することなくして、政治家にロビー活動をする、そんな形で高い買取価格を求めるのはおかしいだろう。 これまでの風力発電には初期投資に補助金が出ている。この補助金の分を割り引いた形で既存風力も買取価格を高くして欲しい、そういう意見もある。しかし、繰り返すが固定価格買取制度は国民に負担をお願いする制度だ。 そうであるなら、既存風力を対象にするには、最低でも以下の3点を行うことが必要だ。(1)既存風力発電所の発電量や財務内容を完全開示すること。(2)買取価格を高くすることで、どれくらいの費用を風力発電のメンテナンスに充て、この整備改善で発電量がどれだけ伸ばせるのかコミットメントする。(3)補助金申請時は、事業が成り立つとして申請をしている以上、採算が取れないのは事業者側の責任でもあるため、国民に丁寧な説明を行うこと。 本来、税金である補助金を受けているビジネスであり、情報開示は必要なものだ。情報開示の好例としては、静岡県東伊豆町や鳥取県北栄町の町営風車がある。開示することで補助金の適正運用かもわかるし、緊張感を生み故障を減らす好循環も期待できるだろう。 なお、現在、日本には約240万kWの風力発電所がある。これを日本風力発電協会(JWPA)などの資料で示されている推定設備利用率18%とすると、年間発電量は約38億kWh。仮に既に入手した補助金の一部返還があったとしても、買取価格をkWh当たり5円高くすれば、年間190億円の国民負担が増えることになる。これは決して安価な負担ではない。 これからの風力発電に求められること 今必要なのは、自然エネルギーのなかでもポテンシャルと発電コスト面で競争力のある風力発電を、いかにして伸ばして今のエネルギー問題に寄与するかであって、風力事業者を救済することではない。 買取価格はまだ決まっていないが、価格が高ければよいというものではない。確かに固定価格買取制度は、高い買取価格で新規参入事業者を広く呼び込み、爆発的に普及させてコストダウンをするという狙いがある。ただ、国民負担という前提である限り『儲かる。しかし、儲け過ぎず、損もしない。』そんな価格設定が必要になるだろう。 世界の風力発電は、デンマークでは約20%を賄い、スペイン、ポルトガルでも10%後半になるなど準主力エネルギーになりつつある。さらにエコとは程遠い印象のある中国やアメリカが今は風力で世界1、2位になっている。これは風力発電は、経済性も備えつつあるエネルギーだということを示している。日本でもエネルギー不足という環境下、自然エネルギーの中でポテンシャルと経済性に強みのある風力発電はエネルギー供給の一翼を担うことができるはずだ。 そのためには、まずビジネスモデルの転換が必要になる。風力発電は「kW」で示される風車の発電能力が重要なのではない。いくら発電したのかという量を示す「kWh」こそが大切だ。特に出力が安定しない風力発電だからこそ、発電量を徹底的に追求すべきだ。つまり、建てることではなく、いかに風の良い場所で故障させず、たくさんの量を発電させるのか。これを徹底するビジネスモデルに転換を期待したい。 次に、資金調達の改善だ。風力発電は初期投資がかさむビジネスであるがゆえに、中小企業、ベンチャーにはハードルが高い。さらに「プロジェクトファイナンス」についても現在、多くの銀行が風力発電事業の失敗事例を見てネガティブになっている。筆者は多くの金融機関からこの問題の相談を受けているが、非常に根が深い問題になっている。しかしながら、金融機関が本格的に風力発電市場に資金を投入しない限り、風力発電事業は拡大しない。これまでの失敗を徹底して検証し、「風力発電はリスクが極めて低いビジネスモデル」であるということを実例で立証していくしかないと考える。 実績を出せない事業者は脱落していくかもしれない。しかし、この数年で逆に風車を大切に回す、メンテナンスを重視するという事業者も次々と頭角を現してきている。発電パフォーマンスは、企業の大小ではなく、その姿勢に関係していると深く感じる。 そのような事業者にプロジェクトファイナンスが適用されていけば、風力発電は活性化していくだろう。固定価格買取制度には新しい金融機関も強い関心を示している。ただ、このままではその資金はメガソーラーなどに流れていってしまうだろう。 最後に、地域と連携した開発だ。近年の開発は、やや強引なものが目立ちはじめている。結果として、各地で強い反対運動が起き、また稼働後も騒音、低周波音、風車の影の明滅(シャドーフリッカー)の問題も起きている。 筆者は低周波音の経験はないが、騒音被害の現地で実際の騒音を何度も確認している。大企業の風力発電所が、深刻な被害を出している事例も存在する。(特に愛媛県伊方町では、風車と民家の距離が200メートル前後に複数存在し、騒音が酷かった)。筆者は風力エネルギーは地域の資源であると考えている。地域主体の開発、そこに風力発電事業者がイコールパートナーとして共に開発していくようなビジネスモデルになることを切に願う。 WEDGE2月号 第二特集『風力発電 空回りの理由』
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最終更新日
2012.01.25 14:45:10
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