カテゴリ:健康
昨日参加した市民公開講座
「身体にやさしい 脳神経外科医療の今 ~脳腫瘍になったら?老いをサポートする低侵襲治療~」 とても興味深い内容だったので、紹介します。 ①「ここまでできる脳血管内治療」 福岡脳神経外科病院 理事長 風川 清先生 脳血管内治療とは、足の付け根から細い管(カテーテル)を挿入し、大動脈内を脳まで到達させ、 薬や「コイル」「ステント」を、カテーテルを利用して挿入し、脳の手術を行う治療です。 頭にメスを入れる「開頭手術」に比べ、手術時間が短く、患者さんへの心身への負担が少なく、 今まで開頭手術ができなかった高齢者に対しても、行うことができる方法です。 傷口が小さいので、回復が早く、元気な方は手術翌日に歩行でき、数日で退院できます。 使用するステントも改良され、安全性が高まってます。 動脈硬化で細くなった血管は、バルーン付きカテーテルで血管を拡張し、ステントを留置。 正常な血管の太さを維持し、脳梗塞を防止することができます。 脳動脈瘤(血管にできたこぶ)は、破裂するとクモ膜下出血になります。 開頭手術では、金属のクリップで動脈瘤をはさみ、瘤に血液がいかないようにしてきました。 脳血管内治療では、糸のように細いプラチナ製コイルを動脈瘤内に挿入します。 ただし、脳動脈瘤の入り口が大きいと、コイルが瘤に収まってくれません。 現在では、脳の細い血管に使える自己拡張力のあるステントがあり、 動脈瘤の入り口をカバーしながら治療できるようになりました。 海外では、メッシュのバスケット状のものを動脈瘤に挿入する手術が行われています。 日本でも2~3年後には、この方法で手術することができるようになると思います。 また、柔らかいプラークは、破れやすく、破れた破片が脳梗塞の原因になることがあります。 そのような場合でも、脳血管内治療で、治療することができます。 100ミクロンのフィルターをプラークより脳側に置き、つぶしたプラークの破片を回収。 そして、フィルターを回収すれば完了です。 脳血管治療では、ステントに血栓をからめ、回収することもできます。 適応:脳梗塞急性期、t-PA治療(血栓溶解)が行えない、広範囲な脳梗塞が完成していない場合。 この治療が行える医師は、現在44人です。 福岡脳神経外科病院では、手術の40%を脳血管内治療で行っています。 現在ハイブリッドオペ室は1つですが、1年後には2つになる予定です。 ※「ハイブリッドオペ室」とは 手術室と心・脳血管X線撮影装置を組み合わせた手術室 ②「脳を守る最新の脳腫瘍治療」 熊本大学附属病院 脳神経外科 准教授 矢野 茂敏先生 「脳腫瘍」と診断されたら、ショックを受ける方が多いと思います。 しかし、その三分の二は良性で、取り除けばよくなります。 なので、やみくもの怖がらないでください。 脳のどこの部分にできたかによって、様々な症状が出ます。 「手足の脱力・しびれ」「目のかすみ」「耳鳴り」「食欲不振」「足のむくみ」・・・ うつ病や認知症と間違われり、別の病気と診断されることもあります。 運転中にセンターラインがゆがんで見え、実は脳腫瘍だったという例もあります。 脳腫瘍はMRIで、診断できる病気です。 心配な方は、MRIのある、脳腫瘍専門医がある病院で検査するようにしてください。 脳腫瘍は、約150種類ありますが、主な脳腫瘍についてお話します。 1)髄膜腫 ほとんどが良性で、高齢者に多い。 無症状であれば、手術せず、経過観察することも。 頭痛・麻痺・てんかん発作などを起こす。 2)グリオーマ グリア細胞から、脳細胞にしみ込むように発生するので、全摘出は困難。 針生検で組織を調べ、薬物や放射線治療も行う。 「ノバリス」という、ピンポイントで放射線を照射する方法もあり。 3)下垂体腺腫 下垂体に発生し、視野障害・ホルモン産生以上を起こす良性腫瘍。 経鼻的内視鏡手術で、全摘出。 4)聴神経腫瘍 聴神経の付け根にできる良性腫瘍で、40~60代が多く、ゆっくり進行。 聴力の温存・顔面神経麻痺防止を目的に全摘出。 5)悪性リンパ腫 最近高齢者に増加している悪性腫瘍で、早期治療が大切。 主に認知症や麻痺が起き、再発率・死亡率が高い。 検査で偶然に発見される「無症候性脳腫瘍」についても、お話します。 30%は、大きくなりません。(特に石灰化したもの) 発見されてから3ヵ月後・6ヵ月後にMRIをとって経過を観察し、増大してるなら治療を考えます。 ただし、高齢者の手術は、避けたほうがいいと思います。 手術の方法についても、お話します。 なお以前は髪の毛をすべて剃ってましたが、今はオペする部位だけを剃ってます。 1)経鼻的内視鏡手術 鼻から管を挿入して行う手術。 顕微鏡よりもよく見えるので、安全に手術ができる。 患者さんの負担も少ない。 2)軟性鏡システム 頭蓋骨に小さな穴をあけて行う手術方法。 高齢者への負担が少なく、81歳男性の手術経験もあります。 3)覚醒下手術 言語中枢付近の腫瘍を摘出する場合に行う開頭手術。 患者さんの反応を見ながら、神経を傷つけないかを確認しマーキング。 それから手術を行う。 脳腫瘍の原因は様々で、予防は困難です。 脳腫瘍に立ち向かうには、「免疫力の強化」が大切です。 べランスのとれた食事・規則正しい生活・適度な運動・禁煙・飲酒を控える・・・ 「この症状は、脳腫瘍?」 気になるときは、一人で悩まず、脳神経外科専門医を受診されてください。 ③「老いをサポートする腰痛・首の最新治療」 うちかど脳神経外科クリニック 院長 内角 久明先生 人は二足歩行のため、首・腰に負担がかかります。 神経が通っている脊柱管という、骨の管にも負担がずっとかかっているのです。 年齢と共に、負担で脊柱管が変形し、脊髄や神経に障害が起きてきます。 今日は、患者さんによく起こる病気についてお話します。 1)変形性頸椎症 ①神経根症 神経根の圧迫や刺激により起こる。 肩・腕・手の痛み、しびれ。首の痛み、頭痛。 98%は自然に治る。(1~3ヵ月) 頸椎を後ろにそらせないよう注意(寝るとき、枕を高めにするなど) ②脊髄症 脊柱管内の脊髄が圧迫されて起こる。 手指動きのぎこちなさ、足のもつれ。両手のしびれ。底のしびれ・砂利感。 進行することが多く、早期治療が必要、手術対象(頸椎後方椎弓形成術) 2)腰椎椎間板ヘルニア 椎間板の一部が突出し、神経を圧迫。20代~50代が多い。 腰・臀部の痛み、下肢のしびれ。 痛みがひどい時は、安静にし、コルセットをつける。 痛みどめや神経ブロックで、痛みを軽減したり、腰を温める。 それでもよくならない時は、手術。 ※経皮的内視鏡下ヘルニア摘出は、技術認定医しか実施できない。 3)腰部脊柱管狭窄症 変形した椎間板と、背骨や椎間関節から突出した骨が神経を圧迫。 長い距離を、歩くことができない。 腰痛はあまり強くなく、安静にしていれば、症状はほとんどない。 背筋を伸ばして歩くと、ふともも・ひざ下にしびれ・痛み。 少し前かがみになったり、腰かけるとしびれ・痛みがやわらぐ。 麻痺や排尿・排便障害がある場合は、手術を検討。 手術では、原因となっている部分のみ除圧。 ただし、術後もしびれは残りやすい。 4)骨粗鬆性椎体骨折 高齢化により増加、寝たきりの原因に。(特に閉経後の女性) 認知症、水頭症などとも関連。 突然の腰や背中の痛み、下肢への放散痛、麻痺、足が動かない、尿がでないなど。 神経症状(足の痛み・麻痺)がなければ、保存治療(体幹ギブス固定・コルセット) 積極的な骨粗鬆症治療も行う。 それでも改善しない時は、手術。 経皮的椎体形成術(BKP)は、脊椎脊髄外科医指導医しか行えません。 ※BKPとは 骨折した椎体へ細い経路を作り、バルーンを挿入。 徐々に膨らませて、椎体を持ち上げ、骨折前に近い状態にする。 バルーンを除去し、そこへ骨セメントを充填する方法。 どの先生も、高度な手術方法を、わかりやすく動画で説明してくださいました。 なかなか目にすることのない手術技術の高さにも、驚きました。 高齢の方もたくさん来場されていて、熱心に耳を傾けていらっしゃいました。 私も、首の部分に柔らかいプラークがあるので、他人事ではありません。 脳内の柔らかいプラークの回収方法を聞いて、一安心しました。 経鼻的内視鏡手術と、普通の内視鏡手術の対比ビデオで、その差は歴然。 さらに、経鼻的内視鏡で、脳腫瘍を取り除く様子に、会場から感嘆のどよめきが起こりました。 覚醒下手術の様子も、ビデオで見せていただきました。 患者さんに確認しながらなので、とても安全だ思いました。 経皮的椎体形成術(BKP)は、なかなかユニークな手術法だと思いました。 外科のドクターは、たくさんのことが要求されます。 知識はもちろん、機械操作のテクニック・繊細な神経と注意力・とっさの判断力など・・・ とても凡人にはできないことです。 だからこそやりがいがあり、患者さんの喜ぶ姿に、達成感を感じるのでしょう。 手術のたびに、『ランナーズハイ』ならぬ『ドクターズハイ』を感じているのかもしれませんね。 こんな素晴らしい講演が無料で参加できたことにも、感謝です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.04.30 18:48:09
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