|
カテゴリ:1978
そこには心優しき少年少女たちの思いが、ぎっしりと詰まっている。 「たむたむたいむ」は1973年4月17日~1979年6月29日まで深夜12:10~12:30に放送されていた番組で、かぜ耕二が放送開始時から1978年6月までパーソナリティを務めていた。全国のアマチュアから自作自演の歌を吹き込んだカセットテープを募集し、放送するというコーナーだ。そこに一体いくつの自称シンガー・ソングライターの歌が投稿され、いくつがオンエアされたかわからないが、5周年記念に制作されたこの音源に刻まれた歌たちは、あまりに目映い。 かぜ耕二のナレーションに続いてまずは"ハックルベリーフィン"による「流れ星」(篠根丈二作詞・作曲)から。 初オンエア以降、毎週リクエストの絶えなかった曲と紹介されている。いわゆる男性フォークデュオで、ママがお星様になってしまうという悲しい寓話だ。だがその曲はあまりに優しく、美しい。"風"のファーストアルバム「風」に収録された「星空」(1975.6 伊勢正三作詞・作曲)を彷彿とさせる世界だが、時期的には「流れ星」のほうが先になるのだろうか。 続いては"メロン・ジャム・バター45円"による「教会のある街」(牛崎勇一作詞・作曲)。 これもとてもアマチュアらしい楽曲とハーモニーなのだが、とても心に沁み入る佳曲だ。 番組一周年記念にゲスト出演しているというから、1973年の曲になるのだろうか。 "ハックルベリーフィン"も"メロン・ジャム・バター45円"も、声やテイストは違えど、その世界から思い浮かべるのは1975年にアルバム一枚を残して解散(のちに未発表のセカンドアルバムを発売)してしまった"銀河鉄道"だ。フォークをベースにしながらも多少のポップさが加味されているように思える。 3曲目は"汽車ポッポ"による「港」(八木原規江作詞・作曲)。 これが素晴しくポップなメロディラインと、キュートなガールスボーカルによる独自世界を展開している。 これを聞いて思い浮かべるのは、天才姉妹デュオと呼ばれた"チューインガム"だ。 この曲はアルバム用に再録音されたようだが、声質が当時と変わってしまったため1973年8月のテープが収録されている。ウィーン少年合唱団が一瞬のきらめきのボーイソプラノであるために、一定の年齢期間しか在籍できないように、この録音も少女のある一定期間にしか見せることのできないきらめきにあふれている。 レコードは男女デュオ"ピエロのR"による「まってます」(流合孝一作詞・作曲)、"菅谷雄一+アルファ"による「手紙」(菅谷雄一作詞・作曲)と続く。きわめて叙情的なフォークの世界だ。 A面最後は"たまにーず"による「星の首飾り」(藤森利彦作詞・作曲)。放送された回数が一番多かったという曲だ。 これは"ハックルベリーフィン"の「流れ星」に近いテイストを感じさせるが、どちらの曲も聴いていて本当に心地いい。やさしいやさしい世界。 B面は"卒業生と在校生"による「面影」(小島伸夫作詞・作曲)から。 いかにもアマチュアらしいテイストにあふれた静かなナンバー。しかし"ハックルベリーフィン"といい、"メロン・ジャム・バター45円"といい、"たまにーず"といい、この"卒業生と在校生"といい、歌声が実にやさしい。歌もやさしい。そういう時代だったのであろうか。いや、プロの世界は決してそうではなかったと思う。果たして・・・ 次は"平田達也バンド"による「嘘でもいいから」(平田達也作詞・作曲)。 楽曲がなんとなくプロっぽいのだが、手作り感がにじみ出ていて、それがこのアルバムにはとてもフィットしている。 3曲目は"ク・ソンタ"による「お盆」(上田茂雄作詞・作曲/甘利真澄・甘利栄夫補作)。 学校の先生によるグループというこの曲はちょっとポプコンっぽい。こういう感じでポプコンからデビューした人いましたね。名前が出てきません。 4曲目は"WITH"による「ウェディングベル」(佐藤永子作詞・作曲)。 女性デュオによるこの曲、飛び抜けて歌がうまいし、楽曲の完成度が高い。この声聞き覚えがあるなぁ、と思ったら佐藤永子とは後のEPOさんなのですね。さすが、と唸ってしまった。 続いて"虞美人草(ひなげし)"による「道草」(市川恵子作詞・佐藤貢作曲)、"鈴木和"による「勿来の浜」(鈴木和作詞・作曲)。 いずれも日本情緒あふれる楽曲だが、「勿来の浜」は他に比較するものが見当たらない独自世界を展開していて、とてもオリジナリティを感じさせてくれる。 最後は"デビラ"による「OTOBAI SHONENDAN(オートバイ少年団)」(岩田博作詞・渡辺行雄作曲)。この曲のみいわゆるロックナンバーなのだが1973年の異色作とも言える出来映え。素晴しいオリジナルだ。 この番組に続き深夜12:30からは大石吾郎の「コッキーポップ」が放送されていた。それは言うまでもなくポプコンという全国組織の、アマチュアによる自作曲の甲子園(というよりも、自作曲版スター誕生といったほうが当たっているかも知れない)の紹介番組で、数えきれないほどのプロを生み出していった訳だ。いわばプロを目指すためのコンテストであり、番組であったと思う。 それとは対をなすように、この「たむたむたいむ」の自作自演のコーナー」は、アマチュアによるアマチュアのための発表の場であり、リスナーのリクエストにより再びオンエアされるというものであった。 限りなくピュアな創作を、限りなくピュアなリスナーが受け止め、そこに心の交流が生まれていく。 そこには心優しき少年少女たちの思いが、ぎっしりと詰まっているのだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[1978] カテゴリの最新記事
|