続 Mt. McKinley
続 Mt. McKinley昨日のブログでMt.McKinleyでの遭難事故と関連して記したおり、資料として1995年にDenali 国立公園に行った時手に入れた冊子を取り出して眺めた。 思えばそれに先立つ1968年、当時ソ連上空は飛行できないため日本とヨーロッパの空路はアンカレッジで給油し、北極上空を飛ぶ北極航路(polar route)だった。ハンブルグからアンカレッジに着く前マッキンレ―の横をかすめる、陸地から直接海に流れ込む白夜の北極圏氷河に興奮していたら今度は白い山地にそそり立つマッキンレ―を見た時の感激は今でもよく思い出す光景である。 前ブログにも記したが南北アメリカ大陸の最高峰であるこの山は北極圏に近く麓からの標高差が5500mもあること(cf エヴェレストの場合3700m)、極地に近いため酸素濃度が薄く、気温も初期の登山隊ががキャンプに残してきた温度計は‐73.3℃を記録している。これらから赤道に近いヒマラヤ以上に厳しい山とも言われている。 1903年から1913年の間に少なくとも8隊が登山を試みている。・1903:アメリカの弁護士Wickersham が 約2500mまで・1906:ニューヨークの極地探検家Frederick Cook が約3600m(?)まで・1910:三つのパーティーがアタック、そのうち ”Sourdoughs” 隊は地元 Fairbanksが御当地の威信をかけて編成した”鉱夫”チームである。 この時代もうアラスカのゴールドラッシュは過ぎていたと思うが今度は 石油採鉱が盛んだったのだろう。 隊員:Peter Anderson, Billy Taylor, Charles McGonagahall, Thomas Lloyd(隊長)彼らは3600m地点にベースを置き4月3日隊長を残して自作の登山着・登山具を身につけ暖かいココアの入った魔法瓶とドーナッツ、そして星条旗を掲げるため5メートルのトウヒ(spruce)の旗竿を持って頂上をアタック、途中6000m付近でMcGonagallは離脱したがPeterとBillyはこの日登頂に成功し、3600-6194mの間 、約2600mを往復している。現在の登山家でもこの往復には2週間近くををかけるそうである。隊長のLloydは帰還後Fairbanksで大げさに伝えたが他の隊員は沈黙を守ったそうである。結果は誰もこの話を信じようとはしなかった。・1912: Fairbanksの新聞社が編成した隊は難しいルートを選び3000mに至る前に敗退している。そしてもう一つのBelmrore Browne率いる隊は頂上直下100ft(33m)まで達しながら悪天候に阻まれ登頂出来なかった。・1913: カナダの聖公会神父のHudson StuckがHarry Karstens, Robert Tatum,Walter Harperを隊員とする登山隊を結成してアタックした。そして隊が15000ft(4920m)に達した時、隊員の一人がマッキンレ―北峰を覗き見ると頂上すぐ近くにトウヒの旗竿が風に揺れているのをはっきり認めた。Lloydの報告談にはかなり粉飾があったとしても1910年Sourdoughs隊の登頂は事実だったことが判明したのである。北峰(5934m)は南峰(6194m)よりも少し低いためこの山の最初の登頂者はStuck隊と言うことになっているが。1910年犬橇で出発した ”鉱夫隊”の業績はそれにも勝るとも劣るものではない。その後よく示される登頂証拠としての写真には色々問題もあった、現在では頂上から発信すればGPSで即確認がとれるようであるが、昔の登頂記録には問題が残されている。上の例のように信じがたいような大きな業績は信じてもらえない。それは山に限らず科学や芸術の世界によくあることである。------ 今回の遭難は下山中に雪崩で氷河のクレバスに落下したことによる。下のような光景が目に浮かぶ。前記冊子の写真からロープに繋がった5人、そして下の写真のようにクレバスを飛び越えるのは文字通り命がけだろう。 もちろんマッキンレ―山を毎日遠望し至高の時を過ごしたが、私のしたことは山容に似合うような大それたことではない。ツンドラの大地が真っ赤に紅葉した、 のを眺め、ナキウサギからグリズリーベヤーと大小の動物を目で追い、 タイガとツンドラの境界に茂る真っ赤に紅葉したベヤベリー(Bearbery)の下に左手の掌を広げ、右手でゆさぶると甘い実がボロボロと落ちる、それを頬張ると実に旨かった。 脚が悪く、ドライブも辞めた身とあればもう思い出すだけのことであるが、思い出は結構良い味がするし栄養にもなる。バクは夢を食べて生きていると聞いたことがあるが、人間も思い出は老後に役にたつ。若いうちにせいぜい旅の思い出を作っておくことである。今回の遭難者のご冥福を祈ります。