カテゴリ:オーディオ
たまたま新聞を見ていると,耳には聞こえない高周波音が人間の脳に与える影響についての記事があり興味深かった。以前触れたことがあるが,人間が聞き取ることができる音の高さの上限は若い人でもせいぜい20kHzあたりまで。しかしバリの音楽で使われるガムランの音色には50kHzを超える高周波音が含まれる。そこで,ガムランの音を録音し,聞こえる音(可聴音)と聞こえない高周波音とに分け,12人に可聴音のみと可聴音+高周波音とをそれぞれ聞かせながら脳活動の様子をPET(陽電子断層撮影装置)などで調べた。その結果,可聴音のみの場合と比べて可聴音+高周波音の方が,脳幹や,感覚情報にかかわる視床,自律神経やホルモン調節の中枢である視床下部における血流が増え,アルファ波が増大したという。人の脳は,聞こえていない音にも反応し,内分泌や免疫を活性化させていることになる。 さらにおもしろいことに,この高周波音の刺激は耳から脳に伝わっているわけではないようだ。可聴音+高周波音をイヤホンで聞いても効果はなかったが,可聴音をイヤホン,高周波音をスピーカーで聞くと効果が出た。しかし体を遮音材で覆うと効果が下がった。つまり,高周波音は体全体で感じられ,脳基幹部を活性化させているものと思われる。ただ詳しい仕組みはまだ解明されていない。 実験を行ったのは国際科学振興財団理事の大橋力氏と国立精神・神経センター研究所部長の本田学氏で,彼らはこの現象を「ハイパーソニック・エフェクト」と名づけた。記事にはこの実験がいつ行われたものかは明記されていないが,彼らのハイパーソニック・エフェクトの論文は2000年6月に米国生理学会の脳・神経科学論文誌Journal of Neurophysiologyに掲載されているようなので,専門家にとってはそれほど新しい情報というわけでもないようだ。ちなみに大橋氏は音楽家としても活動しており,芸能山城組を主宰し,アニメ映画『AKIRA』の音楽も担当している。 20kHzを超える音でも直接的・間接的に聴覚に影響を与えるという話は昔からよく聞くが,それが具体的にどのような作用なのかを科学的に説明した例はあまり見たことがなかった。またその高周波音が,耳ではなく体全体を通して脳に伝わっているなどと言われると,ヘッドフォンで音楽を聞くことの多い私などは色々と考えさせられる。 しかし注意すべきは,PETで観測された血流の変化やアルファ波の増大と,私たちがオーディオからの音を「良い音」だと感じることとが,必ずしも結びつくとは限らないということ。今回の実験によれば,SACDや24bit/96kHzの音源ならともかく,通常のCDは22kHz以上の高周波音がカットされているので,CDを聴いてもこのハイパーソニック・エフェクトの発生は期待できないことになるが,実際にはCDの音でも録音によっては十分に「良い音」だと感じることは多くの人が経験しているだろう。ヘッドフォンからの音だけでまるでそこにいるかのような存在感を感じることもある。 もっとも大橋氏は,脳基幹部の不活性が生活習慣病や発達障害などのいわゆる「現代病」の原因になることを引き合いに出し,CDなどに代表される現代都市の乏しい「音環境」が現代病を引き起こす一因になっているのではないかと指摘している。現代の都市環境の音が熱帯雨林のそれと比べて「乏しい」とは具体的にどういうことかを説明し,音環境の変化が本当に現代病を引き起こしていることを証明するのは困難だろう。ただ,生演奏よりも理想的な演奏を追求して録音された音源を,反射音をコントロールし定在波を抑えた理想的なオーディオ環境で聴いた時に作り出される音環境は,極めて人工的なものであることは間違いない。もっとも私などは,そういった人工的な「良い音」にこそ生演奏にはないオーディオ独特の魅力を感じているのだが(かといってオーディオが原因で現代病になりたくはないが・・・)。 いずれにしても,人は耳以外でも音を感じているのかもしれないというのはおもしろい。骨伝導を体験してみれば,十分ありうる話という感じもする。よく植物は音の刺激により成長の度合いが変わるなどと言われるが,そのあたりにつながる話なのかも。 ただ,この実験結果はSACDやDVD-Audioには有利であるためそれらの普及に利用されたりしているようだが,まだ議論されている分野であるということもあり,かつての「マイナスイオン」のように都合の良いところだけを取り出され曲解されていないか気を付ける必要がある。すでにTBSのバラエティ番組で,大橋氏らの論文を引用して高周波音を「頭の良くなる音」として取り上げたことがあったらしい。TBSはやたらとこういったことが目立つような・・・ 大橋氏らに断られたにも関わらず論文を無断で引用し番組に説得力を持たせようとしたのは悪質だ。川口浩探検隊のようにシャレで済むような作りであれば問題なかったのだろうが(笑)。 こだわりのオーディオアイテム スピーカー新製品情報 いつもよりちょっと贅沢に:高級ホテル予約は楽天トラベル「ゴールドプレミアム」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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