カテゴリ:薬科大学
さえ:
薬学日語三年の学生に日本語で分子生物学を教えていて、試験シーズンがやってきました。 ○×式などの選択ですと採点は楽ですが、学生は大して考えることもなく答を選んでしまいます。それでは、ためにならないから、ぼくの出す問題はほとんどが説明を求める設問です。 5年くらい前に「ある細菌のゲノムが初めて読まれた。10の9乗個のDNA配列の中でタンパク質の配列をきめるDNA配列である遺伝子が何処にあるかをどうやって推定したらよいか」という問題を出しました。 細菌などの原核生物では、RNAの転写の多くはTATAを多く含むPribnow Boxが目印となってここにRNA Polymeraseがくっついて転写が始まります。 翻訳を考えると、細菌などの原核生物のmRNAにはShine-Dalgano配列というのがあって、これが30S Ribosome の16SrRNAにあるAnti-Shine-Dalgano配列と結合するので最初のAUGが決まります。 どれも、それぞれのところで教えていますが、5年前にこの問題を出したときは、教わったこれらの知識を総合して、この問題に結びつけて解が得られるかどうか、言ってみれば試したのです。日本の学生なら、これだけの知識があれば、答を導き出せます。 すると90人中、3人の学生が正解を書きました。そのうちの一人がうちの研究室の修士の学生になった朱さんですよ。今は日本の岡崎にある分子研の博士課程に在学中です。 その後は毎年学生の学力が落ちてきているみたいなので、それからはこの問題を出すどころか、転写のところでは、Pribnow boxが遺伝子の始まりの目印になるのだよと教え、翻訳のところでは、その先のAUGから翻訳が始まるよう、mRNAにあるShine-Dalgano配列もDNAに書かれているわけで、これも遺伝子の目印になるのだよと、丁寧に教えてきたのですよ。 ですから今年は、理解力を試すのではなく、どれだけちゃんと講義を理解して覚えているかを調べる問題として、同じ問題を出しました。ちゃんと勉強していれば、お茶の子さいさいの問題ですよね。 Pribnow boxとか、Shine-Dalgano配列を頼りに探せばそれが遺伝子だと書いたのは二人だけ。62人中、たった二人ですよ。 「ほかの似た種類の細菌で分かっている遺伝子の情報を元にして調べる(いわゆるホモロジー検索ですね)」と書いてくれたって良いのに、これもなし。 こちらの求める答でなくても何か工夫していれば、たとえば、「DNAを切ってベクターに入れて発現させて、タンパク質を作っていたら、そのDNAを解読すれば遺伝子が分かる」と書いていた人には、そんな面倒なこと出来ないよなあ、と呟きつつ4点、 「mRNAを作らせて翻訳されればそれが遺伝子」と書いていれば、どうやってmRNAやタンパク質を作らせるんだい、DNAが長いままじゃ困るんだよなあ、だけど、ま、いっか、と3点、 「イントロンとエクソンが、、、」と書いている人には、細菌じゃそういうことはないんだけどなあ、それに大体、真核生物だってGU・・・・・AGの配列なんて至る所にあるんだよね、でも、ま、いっか、と2点、 という具合に大盤振る舞いをしましたが、この問題の平均点は5点満点で1.4点でした。 私たちのような真核生物のmRNAには、5'末端にキャップ構造、3'末端にはPolyA tailが付いていますよね。真核生物のmRNAの特徴を話すときには、それじゃ、RNAの中で1%くらいしかないmRNAを集めるためにはどうした良いか、と質問して、先ず学生に考えさせた上で答を話しているのです。 DNAあるいはRNA配列の相補性が分子生物学の原理のすべてなのだというのがぼくの口癖ですが、学生が何時も直ぐに考えられるように、こうやって刺激をしているのですよ。 ところがこの設問に答えられたのは62人中、たったの7人。5点満点で平均点は1.7点。 ほかの問題すべてを含めて、平均点は48点。ぼくは採点途中から、すっかり気力を失ってしまいました。 それで相棒の王老師に、もう来期は講義をしないと宣言したのですよ。学生に理解させられない教師は失格です。学力が落ちてきたと感じられたのでこの二三年ずいぶん工夫を凝らしてきたけれど、効果なしですもの。 でも、強く慰留されてみると、いきなり辞められたら困る事情もあるでしょう、100点満点で92点を取った学生もいるんだし、今回出来なかったのは、分からなかった学生のせいにして、来学期は焦点をうんと絞って、そこは噛んで含めるようにゆっくりと話すことにして、続けてみることにしました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2013.07.09 07:41:36
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