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カテゴリ:園芸
中日春秋 (書写) 震災の痛み抱えてなを芽吹く 『審判』などの作家、フランツ・カフカがある日、公園で泣いて いる少女に出会った。大切な人形をなくしたという。一緒によく捜 したが、見つからなかった▼翌日、カフカは人形から預かったと一 通の手紙を女の子に手渡した。「悲しまないで。世界が見たくて旅 に出ました。また手紙書きますね」。別の日には「学校に入って、 いろんな人と出会いました」。また、別の日には「あなたが大好き です」―。もちろん手紙はカフカが書いていた。カフカと交際のあ った女性の回想に基づく物語だそうだ▼東日本大震災から13年とな った。ハクモクレンが真っ白な花弁を広げるころだった。震災の日 にカフカの手紙の温かさを思う▼真偽は分からないが、カフカは作 品の執筆以上に手紙に熱心だったそうだ。何かを失う。誰かと別れ る。女の子の悲しみが寂しい幼少期を送ったカフカにはよく分かっ ていたのだろう。あの手紙のようにわれわれは震災の痛みの背を今 もさすり続けているか。もう大丈夫と決めつけてはいないか▼現地 の痛みは歳月の分、薄らぐことはあっても帰らぬ人、かつての故郷 を思い出せば、その悲しみは何年たとうと消えることはあるまい▼ 遠ざかる記憶に被災地への関心や思いやりまで遠ざけたくない。わ が身に置き換え、あの日起きたことを思い続ける。それは決して災 害への備えとも無関係ではあるまい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024.03.12 05:13:19
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