テーマ:お勧めの本(7395)
カテゴリ:手に取った本
最近、生活が不規則です。皆さんもブログの更新時間が深夜の3時、4時と妙な時間だな、とお思いでしょう。実は此の頃、家に帰宅した後、湯浴みと夕食を済ますと何故か睡魔が襲って来て、そこで仕方なく長椅子に寝転んで寝てしまうのです。そして目を覚ますのが大体深夜の1時ごろ、そこから書を書いたり、本や論文に目を通したり、雑用を片付けブログを書いてベッドに入るのが4時半ごろ、という非常に不規則な生活を過ごしています。これは、学部・院時代からの習性で何故か集中力が高まり、インスピレーションが沸くのが深夜、人が寝静まった頃なので、真剣にモノを書いたりする時は、このような不規則極まりない生活になってしまうのです。
さて、今日は昨日の続き「あ~ぁ、やっぱり。アカデミー賞・・・」に関連して1冊の本を紹介したいと思います。ただしこの本、私は宮崎駿監督の大ファンだ~(傍から見れば「信者」)という人にお勧めできない内容です。しかし、これまで私が実際に読んだり書評などで目を通した中で、宮崎駿監督とその作品群に対して、最も辛辣(シンラツ)に論評しているかなり読み応えのある本でもあります。 その本とは、久美薫著『宮崎駿の仕事』(鳥影社、2004年)です。 著者の久美薫さんは、外国のネットや雑誌に寄稿するアニメの評論家さんだそうです。その久美さんが書いた、「宮崎駿」という日本最強のアニメーション映画ブランドはどのようにして創設されたのかを、そして『カリオストロの城』から『千と千尋神隠し』までの作品遍歴をたどり、それが善悪含めてどんな現象を巻き起こしていったのか、という命題を「宮崎作品」以外のアニメーション作品との関連やその時の社会情勢等を絡めながら解説されています。 具体的には、個々の作品の分析に始まり、日本のアニメ史における宮崎作品の位置づけを再考しつつ、これまで指摘されることばかりでその「宮崎作品」の圧倒的な影響力により正面より論じられることは実はほとんどなかった作者のアノマリーを追い、海外進出の難しさ、そして「宮崎ブランド」の弊害にまで論評した、恐れ知らずの一冊です。 この本についてアレコレ書いてみたいのですが、それをやるとまた昇天しそうなので、読んでいて面白かった部分を抜粋して取り上げてみます。 まずは、海外での日本のアニメの捉え方についてです。実は、海外では日本製アニメーションは学校図書館でもウルサイ「性的描写と暴力的表現」に満ちた危険な代物、という印象が強いのです!私も、この話は聞いていましたがこの本を読んで、まさか『鉄腕アトム』でさえ暴力的である、と非難されていたとは驚きでした。<西洋諸国では子ども番組への規制が素晴しいほど厳しくて、「子どもへの多少の刺激物は多めに見るべきだという日本的な考えは通用しない」のだそうです。宮崎監督自身も、「ジャパニメーション」は海外では大して売れてなく、「暴力行為やいやらしい描写、いらんことくっちゃべっているようなビデオ」ばかりで、日本のアニメーションが世界に広がっていったら、恥をかくだけですよ、という発言をされています。これについては、スタジオジブリの鈴木プロデューサーも「ジャパニメーション」は海外では実はSEXと暴力の代名詞のなのですよ、と語られています。では、『もののけ姫』のあの過激さはと言いますと…。 久美さんによりますと、実は外国の評論家たちは『もののけ姫』が自分たちの理解を超える「ブッ飛んだ代物」だったのでよく解からないが、日本では売れている映画だし、これは日本の歴史と文化に密接に関わっていて日本人ではないときっと解からないのものだ、だから日本人ではない自分たちがわからなくても当然なのだ、でも兎も角誉めておこう、という形で評価されていたらしいのです。これは、『千と千尋の神隠し』でも同様で、「アニメ=子ども向け」という概念をぶち壊して実写の劇映画なみの意欲に溢れた作品という評価と、欧米人の描くエキゾチック・オリエンタリズム(これは、『エマ』のヴィクトリア朝時代から始まり現代に至っている風潮です)に上手くマッチした上に、良く解からない部分は『もののけ姫』』の「日本の文化と歴史論」で誤魔化されたためだとしています。その上、これが面白いのですが、久美さんは『千と千尋の神隠し』の「準拠枠」が『不思議の国のアリス』や『ゲド戦記』(おや!スタジオジブリの次回作ではありませんか!)などの西洋ファンタジーから持ってきているので、欧米の批評家には『もののけ姫』とは異なり「取っ付きがよく論じやすかった」と述べられています。 つまり、『千と千尋の神隠し』がアカデミー賞でオスカーを取れたのは、欧米諸国と日本とのアニメーションのギャップ、認識の違いの溝に上手く滑り込んだだけだったのです。そのような理由があったので、今回の『ハウルの動く城』がオスカーを逃したのは当然だったのでしょう。今回は、欧米人にすんなりと感情移入できる舞台設定だしたからね(原作者は英国人、ダイアナ・W・ジョーンズ女史で、劇中の街並みや風景はドイツ・フランス国境地帯のエルザス・ロートリンゲン地方、シュトラスブルグ周辺をロケハンしたそうです。ちなみに、劇中で出てくる兵隊の軍服はケピというフランス式軍帽にこれも19世紀末のフランス陸軍の軍服にソックリ!軍艦もその時期のフランス艦の特徴を際立たせデフォルメした船体です)。 もっとも、宮崎監督はさすがと言いますか、この辺の事情は良くご理解されているようです。ですので、今回のアカデミー賞に対しても冷淡だったのでしょうね。もっとも、深い情報分析もせずただ外国で有名な賞を取ったぞ~!と無責任に煽り立てるマスコミや、それに便乗して利益を上げようと画策する出版社などの関連企業の対応が問題なのですがね(映画創りは金がかかりますからね~。実は宮崎さんは、自分の作品がDVDになるのをすごく嫌っています。『となりのトトロ』を日に3回も見ている間に子どもは、どれだけの体験が出来るのだ!と言ってね。これには深く共感します。映像は固定化された概念を植え付け、想像力の幅を狭めてしましますが、読書から得られる想像は無限大ですからね)。 このような辛口の「宮崎アニメのガイドブックではない。むしろ「宮崎さん」と私たちとのこれまでを振り返る旅。これが本書の目指すものである」と「まえがき」で書かれている意欲的な社会の常識に対する挑戦作。ひとつ、「客観性」という言葉を頭に置いて、大らかな心を持って読んでみられたらいかがでしょうか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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