医療でミスがあると、個人の不注意のせいにして、システムとして改善しようという観点が以前は無かった。そのために同じミスが何度も続いた。麻酔関連では純酸素を投与するつもりで100%の亜酸化窒素を投与して死亡させることが続いた。その後、フェイルセーフ機構として、麻酔器は酸素無しに亜酸化窒素を投与できない構造になった。それでも、誤薬を防ぐシステムは構築されてこなかった。
遺族に謝罪、5200万円払い和解 聖隷三方原病院誤投薬訴訟
記事:毎日新聞社【2007年6月9日】
聖隷三方原病院誤投薬訴訟:遺族に謝罪、5200万円払い和解 /静岡
浜松市北区の無職男性(当時66歳)が同区の聖隷三方原病院に誤った薬を投与され死亡したとして、男性の妻ら遺族4人が病院を経営する社会福祉法人聖隷福祉事業団などに約8000万円の損害賠償を求めた訴訟は7日、地裁浜松支部(酒井正史裁判長)で和解が成立した。被告が和解金5200万円を払い、原告に謝罪するなどの内容。
訴状によると、男性は03年10月、自宅で胸の痛みを訴え、救急車で同病院に搬送された。急性心筋梗塞(こうそく)と診断され投薬治療などが行われたが、1時間後に死亡した。男性医師から指示を受けた女性看護師が、本来なら静脈注射用の抗不整脈薬剤を投与しなければならないのに、同成分を高濃度に含む点滴用の薬剤を誤って静脈注射したことによる中毒死だった。医師は薬剤を商品名でなく一般名で指示したため看護師が誤解した。
同病院は「亡くなられた患者様のご冥福をお祈りする。今後もより安全な医療を提供すべく、取り組んでいく」とコメントを出した。【平林由梨】
想像するに、心室性不整脈を治療または予防するために、2%リドカイン(キシロカイン)を静注する指示だったのだろう。ところが、本来は薄めて点滴静注する薬である10%のキシロカインを静注してしまった。よくあるミスだ。よくあるのだが、当事者の不注意を責めて終わりにしてきたので、いつまで経ってもよくあるミスであった。
最近になって、医療安全はシステムの問題だと言うことが理解されるようになってきた。医療の世界では、危険を少なくするための改善が行われるようになってきた。危険な薬は容易に手の届かないところに保管するようにしたり、注意を喚起するデザインにしたりするようになった。けれども、メディアや患者、司法の世界では、未だに個人の責任に矮小化したがっているように見える。そうしなければ、政治が一番悪いことが明らかになるからだろうか。ある程度豊かな国の中で、日本の医療システムは、少なくとも行政レベルでは最低だ。現場の努力で何とかなっているだけなのだが、その現場に責任を丸投げしているのが実情だ。
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