この件についてはいつも情報源とさせていただいている「ロハス・メディカル・ブログ」に、いつものように傍聴記が載っている。今までの証人尋問では検察側の作戦などで、門外漢には分かりにくいものにされてしまっていたが、今回はとても分かりやすい。是非
福島県立大野病院事件第10回公判(1)の全文を読んで欲しい。
特に重要だと思うところを引用する。
この辺からメモが追いつかなくなったので要約する。
特に本件と関係のない一般論の話が
ほとんど独演会を聴いているような心持ちにさせた。
・婦人科の手術と比べる帝王切開手術の方が出血量がヒトケタ多いと言ってもよい。
・通常の手術で1000cc出血したら輸血を行うと思うが、出産の場合は2000ccの出血でも輸血しない。
・なぜならば、元々妊娠中は体内循環血液量が通常の1.5倍まで増えているので、出産が済めば増えた分の血液が出てしまうのは、ある意味正常なことである。
・一般の手術の場合、出血は血管が切れるためのもので、止血もその局所に対するアプローチとなる。しかし子宮と胎盤との間はまったく異なる。胎児側から臍帯を通じて胎盤内部へ血液が流れ込んでいる。胎盤へは、そこへ子宮からシャワーのように母親の血液が吹きつけていて、胎盤を通して成分交換を行っている。その血流量は、毎分450~600ccである。胎盤を外すと、血液を受け止める壁のなくなった子宮は、ちょうど「シャワーヘッドがオープン」になったようなもので出血し続ける。
・局所の血管が切れているわけではないので、出血を止めるにはシャワーの根元の部分を押さえつけるしかない。通常は胎盤が外れたところで子宮筋層の収縮が始まり血管を押しつぶすので流れが穏やかになり、そのうちに血液が凝固して止血される。
・前置胎盤の場合、筋層が薄い子宮頚部に胎盤が付着しているため、胎盤剥離後に筋層収縮が十分でなく出血量が多くなる。癒着胎盤の場合、胎盤が食い込んでいるために筋層が薄くなっており、同じことが言える。
・胎盤剥離後に子宮の収縮が悪い場合、医師が行う処置は、まず子宮マッサージと筋収縮剤の投与、それでも状況が改善しなければシャワーヘッドの面を手で押しつぶす双手圧迫やガーゼを用いての圧迫、筋層に糸をかけて人工的に寄せ集めるZ縫合、子宮に血液を供給している血管をケッサツすることなどがあり、どうしても止血できない場合には出血の根本原因となっている子宮摘出ということになる。
・ただし出血量がある閾値を超えると血液凝固因子が足りなくなり、どんなに血管を押しつぶしても血が止まらなくなり、さらに他に傷があるところからもジワジワ出血するようになる。これがDICとその後に起こる血液凝固障害である。
もし何を書いてあるか分からないとしたら
私の要約の仕方が悪いのであって、当日は非常によく理解できた。
そして愕然とした。
私は知らなかった。
胎盤を剥がした後の子宮が
傷をつけなくても1分間に500cc出血する臓器であるということを。
おそらく多くの方が同じでないか。
検察の見立ても、大量に出血したからには傷をつけたに違いない
というものであっただろう。
医療者にとっては常識なのかもしれないが
誰かが最初からそのことを説明してくれていれば
話がここまでややこしくなることもなかっただろうと思うのである。
おそらく検察側も
自分たちの見立てが根本からナンセンスであることに
間違いなく気づいたと思う。
そして、そのメカニズムを知ってから
改めて加藤医師の当日の行動を眺めると
まさにするべきことをし尽していることに気づく。
すでに多くの医師が述べているごとく、被告は医師としてなすべき事はしていた。それでも医療の限界として、残念ながら時には亡くなる方もいる。それは医師のせいではなく、あくまで
病気のせいなのだ。はじめからこの「事件」は、素人の思いこみによる
言いがかりだ。今回の池ノ上教授の証言で、裁判官も納得してくれることを望みたい。