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カテゴリ:絵本
「橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻」シリーズ1冊目。大ファンです、治ちゃん。特に古典に関する随筆が大好き。『源氏供養』全2巻は無人島に持ってく1冊は源氏と決めている私が、付録として携帯を許されないかと思っている解説本。本篇たる『窯変源氏』も現代文学の精華と思ってますが。ハードカバーで全14巻、私の本棚のいちばんいい場所にずらりと並んでます。
卒論は南北、その後も歌舞伎雑誌でイラストの仕事をしていたりと、有吉佐和子亡き後の日本の作家の中では間違いなく歌舞伎に最も造詣の深い彼が、若い人のために歌舞伎の精髄を絵本化したのが「歌舞伎絵巻」シリーズ。岡田嘉夫のイラストも常のように耽美へ流れ過ぎず、しかし絢爛豪華の度は増しているので、絵巻本としてもう素晴らしい出来です。著者は絵コンテきったりしたのかな。 プロローグの「いざというときにちゃんと輝いて美しく見えるのが、本当に立派な人なのです」エピローグの「死んだあとで『立派』と言われるようになった人たちも、生きている時は、みんな苦しんでいたのです」は、じわじわしみて来る言葉。この絵本を手にとってもらえればわかることだが、実は主人公は加古川本蔵だったりする。花形役者は勘平なんだけど。地道に誠実に生きること。恥ずかしくない自分になって死ぬこと。生を全うするということ。 知識人の評論は大抵市井の人から一歩離れた高所から書かれるものだけれど、橋本治のそれは半歩、しかも同じ地面から足を離すことはない。町の牛乳屋兼駄菓子屋の店番をしていた男の子の視線というものを、橋本治はけして忘れない。市井の人々の生き方の、太陽のまぶしさにくらんで見えない真昼の星のような輝きに注がれる優しい視線は、地道に商売に打ち込んでいた父親母親、一緒に店番をしていた祖母へのそれだ。明晰すぎるほどの理性的な文章で綴られるから「三丁目の夕日」的な感傷に思いきり振った郷愁とは遠いところにあるけれど。 町人の心をぐっと掴んだ娯楽の王様だった歌舞伎のいちばん良いところを磨き上げてさしだしてくれるこの絵本、図書館はもちろん、中学高校の図書室には是非とも置いてほしいしアピールしてほしい。2巻目は千本桜なので、花の時期にレビューしたいと思います。 ちなみに討ち入り日である本日はわが祖母の誕生日。卒寿です、おめでとう。祖母の祖父にあたる人は新撰組で柔術を教えていました。そう考えると江戸時代って案外遠くはないものです。 仮名手本忠臣蔵 源氏供養(上巻) 源氏供養(下巻) 窯変源氏物語(1) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.01.03 18:34:18
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