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銀の裏地

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絵本の紹介と読み聞かせのヒント満載(?)育児録
幼児から高校生の4児の母、内職編集者でブックトーカー。子どもと本をつなぐ活動を市内各所で展開中。
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カテゴリ:絵本
 クェンティン・ブレイクの絵本『みどりの船』における発見…というと大げさ、気づきは「水夫長!」という船長夫人の台詞がきっかけだった。庭に忍び込んだ子どもたちの探索へ網を投げかけるようなこの呼びかけ、この本の読み聞かせの成否はここにかかっているといっても過言ではないひとことだ。舞台ならヒロイン登場でスポット、お客が拍手で迎えるところ。
 学校での朝の読み聞かせの帰り道で、私はまだ口の中でこの一言を繰り返していた。本を読みきった感がまだなかったからだ。まだ、何か足りない。水夫長、という名詞を口中で転がすうちに、きざす既視感。あれ?
 そして聴こえてきたのはジョン・ギールグッド卿の声だった。高く低く強く優しく厳しくそしておごそかに。あらゆる調子で繰り返すその一言は「ボウスン(水夫長)!」。ピーター・グリーナウェイ監督のもっともきらびやかな映画「プロスペローの本」における開巻第一声だ。サー・ジョンが演じるのはもちろんプロスペロー元大公、つまりこれはシェイクスピアの公には最後の戯曲である「テンペスト(あらし)」の映画化であり、この映画におけるプロスペローは万能の魔術師であるばかりか芝居「テンペスト」の執筆者であり演出家という仕掛け。だから繰り返される「ボウスン!」はつまり、芝居の調子を決めるためのプロスペローの調音なのだ。
 サー・ジョンとあの映画に思い至ることでやっと気づく。『みどりの船』はその土台に「テンペスト」を置いているのだと。「水夫長!」という呪文で魔法の時間ははじまり、出会いと冒険、嵐、そして魔法の終わり。ああ、そうだったのか。ひと晩中みどりの船を操舵して嵐の海をくぐり抜けた奥方は、明け方、目を覚ました子どもたちに「よくやったわ、水夫たち」とねぎらった後、もやい綱を手にして船を港へ停泊させる。航海の終わり。夏休みの最後の一日というだけではない、奥方が魔法を手放した瞬間。
 次の夏、その次の夏と季節がうつろうにつれ、「みどりの船」は水夫長こと庭師が老いて体がきかなくなったこともあり、次第に元の木としての姿へ還っていく。夫人の精神の衰えをそこに読む人もいるだろう、私も、だとすれば寂しいなと思っていた。たしかにさびしい。しかしこれは「テンペスト」だったのだ。彼女はしがみついていた夫の思い出を手放し、今を生きる命そのものの輝きを受け入れたのだ、プロスペローが魔力を手放し、エアリエルたちを解き放ったように。子どもたち二人は「なんて素晴らしき新世界!」と歩み出すミランダ、だからこの船のことはいつか遠い先で懐かしめばいい。

 文庫でNさんにこの「あらし」という枠、についてお話しする。『みどりの船』はNさんも推しの本なのだ。「Tちゃん、気がついたとき嬉しかったでしょ」はい、でも悔しい気持ちの方が強かったかな。もう、なんのために大学でシェイクスピアを習ってたのよ、という感じ。読み聞かせする時に子どもたちにここまで解説する必要はまったく無いけれど、わかってるのとわからないのとでは読みが全然違ってくるでしょ、とため息つけば、「向こうの人はこういうの、説明しなくても肌でわかるんだしねえ」。
 原文にない一行が、訳者によってラストに付け加えられている、という説をネットで見かけ、しかもロストしたままよそではまったく見かけない。Nさんもこの件についてはご存じなかった。図書館の洋書コーナーにリクエストをかけてみようという話になる。

 NHKが全面協力したハイビジョンも当時話題になった映画「プロスペローの本」は、しかしながらDVD化されておらず、VHS、LDはもちろんサントラも絶版。これに比肩する夢幻性を有し、とにかく豪奢なものを観たという感覚を得られる映画といえば、セルゲイ・パラジャーノフ監督の「ざくろの色」くらいという特異な傑作なので、ブルーレイ化してもらえないものかと期待しているのだが。グリーナウェイ好きもマイケル・ナイマン好きも、もちろんシェイクスピア好きも絶対観ておいたほうがいい。ちなみに我が家にはLDがあります。今、ハードがご機嫌斜めなのでなかなか観られないけれど。サントラも基本的に買わないのだが、これは持っている、というかミュージカル以外では最初に買った1枚。大学生協でたまたま見かけて。豊穣の女神たちのアリアがとにかくものすごい。

 そして原作、「あらし」と言えば私はどうしても福田訳。坪内版、小田島版、松岡版、を持ってはいるけれど。

   私たちは夢と同じ材料でできていて、私たちのささやかな一生は眠りで仕上げられる
                 ―――ウィリアム・シェイクスピア「あらし」福田恒存訳


  ウィリアム・シェイクスピア 作

  福田恒存 訳

  新潮文庫




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最終更新日  2012.05.21 20:34:35
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