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「共生」を英語でシンビオシス symbiosis という.語中の sym は「共に」,bio は「生きる」とか「生物」を意味する.だから共生とは「共に生きること」を意味する.これが語源.
生物学では,共生とは生物種間の「密接な関係」を意味する.2種の生物が密接な関係をもって生きているとき,その関係を「共生」と言う. 共生には次の3つの場合がある.共生している両者が,その関係によって共に利益を得ている場合,これを双利共生(mutualism)という.一方のみが利益を得て,他方は得も損もしてないとき,これを片利共生(commensalism)という.そして一方が得をして他方が損をしているとき,これを寄生(parasitism)という. この生物学的な「共生」の定義とは別に,日本で最近とみに日常語化している「共生」がある.人と自然との共生,などというふうに使われる.いつも思うのだけど,これを英語でどのように表現するのだろう.人と自然とのsymbiosis などと言ったら,何だか気持ちが悪い.それに symbiosis は日常の語感としての「共生」とは上記のとおり意味が違っている.しいて言うならば mutualism が,日常語としての「共生」に近い.人と自然との互恵関係(mutualism)である. しかし「自然との共生」の具体的な中身を考えると,mutualism もまた不適切であるように思う.人が自然から恩恵を受けていることは確かであるが,自然が人から恩恵を受けている訳ではない.いろいろ考えても,結局のところ「人と自然との共生」とは,人と自然との co-existence(共存)程度の中身なんだろうと思う.飾らず素直に表現すれば「人と自然との共存」というのが,正しい言葉の使い方だろう. 少し戻って話を蒸し返す. 自然を大切にせねばならない.人は自然によって生かされているのだ.自然がなければ人もまた生きて行けない. これは本当だ.しかし,さらに進んで次のように主張する人もいる. 人だけでなく,すべての生物は,他の生物の存在に依存している.地球全体で,ひとつの「共生系」をつくりあげているのだ.と,まあそのような議論である.「人と自然との共生」というアイデアは,このような意味での「共生」から出て来たのだろう. この説の震源地は,こともあろうに生態学者,しかもかなりの有名人である某先生ではないか,と私は疑っている.いやしくも生物学者のハシクレが,いやハシクレではない大物学者が,このような誤用を普及させてはいけないでしょう? こういう人を誤用学者という(笑え!). 思うに某先生は研究費が欲しかったのでしょう.そのためチョイと気をきかせて,意表をつく表現を思いついた.それが「共生」という語であった.私はそのように理解している.最近の科学者は研究費を稼ぐために作文をよくする.私腹を肥やすためではない.某先生については知らないが,一般的に言えば,作文を書かなければ研究そのもののランニングコストさえ確保できないだろう.そういう時代である. 研究施設の生き残りがかかっているのだから,この程度のウケ狙いは許容範囲内と言うしかない. ところが,この機知をきかせた表現が,官僚やマスコミにウケた.それで日本全国,津々浦々,ど田舎の片隅に至るまで,今や「自然との共生」の大合唱が起きている. 言葉は生き物であるから,その意味内容は人々の発想や嗜好により千変万化する.と同時に,周囲でよく使われている言葉を,意味を深く考えることなくイメージだけで採用してしまう人も多い. 「進化」という語について,以前に書いたことがある.これも日常語として近年めざましく普及してしまった誤用の一例である.「天敵」という語の使われ方も変だ.どうも生物学の用語は直感的に理解し易いぶん,誤用も多いように思う.「間伐」という語についても以前に書いた.この場合には,良いイメージの言葉を使うことで悪事を隠蔽しようとする意図が見えるだけに,いっそうの注意が必要である.気のきいた単語,良いことのように聞こえる悪事,こういうゴマカシに日本人はもっと敏感にならねばならない. 「共生」の話であった. 「自然との共生」という表現は生物学的には不適当であり,「自然との共存」という通常の表現に戻すべきだと私は考えている.意味内容が同じなのに新奇な表現を採用するのは,プロパガンダの常道である. そういえば,「共生社会」という表現も最近よく聞く.競争原理というか弱肉強食というか,そういう社会のあり方を反省し,弱者にも優しい社会であって欲しいという願いが込められているようにも感じる.しかし本当の「定義」を私は知らない.「共生社会」という言葉によって,具体的に何を目指すのだろう.響きの良い言葉を採用することで,そこで思考停止してしまって,さっぱり具体化が進まないということになっているのでないかと危惧している. お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
November 20, 2010 09:26:31 AM
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