装幀は勝呂忠。
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あらすじ>
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英文学の教授ポーラ・グレニングは、友人フランシスの家に向かっていた。彼女の家に到着したポーラは、庭の石段の下に倒れているフランシスを発見する。何者かが石段に細工をしていたのである。怪我をした彼女の代理として、ポーラは富豪の未亡人レディ・ヒンドンの住むマール・ハウスで行われる創作講座の講師を務めることになった。テーマは、「家庭内の殺人」。参加メンバーの作品中に階段から落ちた事故死が扱われていたのは、果たして偶然なのか?そして、代理講師を無事に終えたポーラは、レディ・ヒンドンがある目的のために、この講座を主催したことに気づくのである。メンバーの中に過去に殺人を犯した者がいるとでもいうのだろうか?そして、実際に犠牲者が出るに及んで、ポーラは事件に巻き込まれていく!」
舞台は、ストーンヘンジ近くにある谷間の小さな村。そして、マール・ハウスは、どっしりとした石造りの館で、正面には広々とした緑の芝生の庭があり、裏手は森になっている。レディ・ヒンドンは、わがままなお金持ちの未亡人。その使用人ブルース・ワイリーは、どことなく得体の知れない怪しいやつ。そして、お約束の「書斎の死体」。もうこうなると、昔懐かしいオーソドックスなイギリス・ミステリーといった感じが満載のお話ですね。
この物語のキーポイントは、「一見平和な村に潜む悪意の数々が悲劇を生み出していく」っていうことかな。イギリスの平和な村で起こる殺人と言えば、クリスティのミス・マープルを思い出すし、ちょっとした思い込みが悲劇的展開へとつながっていく、ルース・レンデルの作品群を思い出してしまうのだが、これはちょっと違う味付けがなされている。解説にも書かれているが、この作者アンナ・クラークの特徴は「きっちりとした端正な描写」だという。確かに、主人公のポーラをはじめとして、各登場人物の特徴がていねいに描かれているので、周りの人たちの感情の動きを追っていくと事件の核心に迫ることができる。ただ、きっちりしすぎて、あまり遊びがないのが玉に瑕か。
かなり地味目のストーリーなのだけれど、ページ数も少ないから、ちょっとした時間に気軽に読むには良い本かな。