|
カテゴリ:読書
これは、「詩人警視」ダルグリッシュの2作目。装幀は勝呂忠。
<あらすじ> 「富裕層を対象とする精神病専門のスティーン診療所で殺人事件が発生した。殺害されたのは、事務局長のエニッド・ボラム。地下の記録保管室で、胸にノミを刺された姿で発見されたのである。一思いに心臓を突き刺す手口から、犯人は解剖学の知識があるようだ。要請を受け、ロンドン警視庁犯罪捜査部のアダム・ダルグリッシュ警視が捜査に当たることになった。犯行後の状況から見て、所内の人間の犯行であることは間違いないと思われる。尋問を開始するダルグリッシュだが、ボラム事務局長を快く思わないものが多いことが判明する。所内に勤務するすべての人に、殺害のチャンスはあった。果たして、彼女を殺害するまでの強い動機がある人物とは、一体誰なのか?ダルグリッシュ警視が、病院を舞台にした難事件に挑む!」 P・D・ジェイムスが描くアダム・ダルグリッシュ警視の別名といえば、「詩人警視」。そう、彼は詩人として本を出版しているのだ。最初に出した詩集が第三刷りとなるのだから、そこそこ売れているようだ。今回は、彼の著書の出版社主催のシェリー・パーティーに出席しているときに、スコットランド・ヤードからの呼び出しを受けている。 事件は精神病専門の診療所で起きているので、まあ、犯人はどう考えても病院内の人間なのだから、医師、看護婦、職員、それぞれの人物がとても細かく描かれている。もちろん、人間関係もちょっと複雑。それが、堅苦しい文章で展開されるのが、P・D・ジェイムスの特徴だと思う。そして、人間の愚かしさ、邪悪さがキー・ワードかな。 そう、ドキドキ・ワクワクのミステリーっていう感じではないので、彼女の作品を昔は敬遠して読んでいなかったのだけれど、今、改めて読んでみると、普通の小説として筋もしっかりしているし、人間の心理描写を含めて、なかなか味のある文章がたくさんあるのに気付かされた。まあ、それが分かるくらいに、私も大人になったってことなのかな。 さて、このミス・ボラムというのは、同僚からは煙たがられていたようだ。心理学者のフレデリカ・サクソンは、ダルグリッシュ警視にこう語る。 「.....あの人は、自分は正しいことと、まちがっていることのちがいを知っていると信じて少しも疑わない、めったにないほど幸福な人たちに属しているんです。あの人は想像力がないので、他人の気持ちのなかに入ってはゆけないんです。.........」 こんな人物では、みんなから嫌われるのは当たり前。でも、彼女の何がこれほどまでの殺意を起こさせたのだろうか?また、殺害される数時間前に、ミス・ボラムが病院運営委員会事務長のラウダーに、病院内で起きたあることについて相談したいという電話をかけていたことが判明する。ダルグリッシュ警視は、殺人事件の捜査と平行して、「あること」の謎を追いかけるのだが、これが終盤にかけて捜査を大きく動かすことになるのだ。 最後にちょっとしたどんでん返しがあるのだけれど、ちょっと弱いかな。初期の作品だけあって、荒削り感は否めませんね。とはいうものの、ストーリーをよぉ~く読んでいれば、犯人の手がかりはちゃんと書いてあるので、まあ、納得かな。でも、この手がかりに気付くには、きちんと読んでいなければ駄目ですよ!! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[読書] カテゴリの最新記事
|