テーマ:おもひでぽろぽろ(152)
カテゴリ:おもひでぽろぽろ
昔話の中では 「夜なきうどん」の話が好きである 高知の山奥の村に 秋の終わりごろになると 夜なきうどんを売りにやってくるおじいさんがいた 屋台にぶら下げた鈴がチリンチリンと鳴り それが夜なきうどんの合図になっていた いつもお稲荷さんの前の広場に店を出す その近くに寝たきりの母と暮らす かっちゃんという若者がいた いつも一番にうどんを食いにやってくる その夜もかっちゃんがおやじさんのうどんを食っていると この辺りでは見かけたこともない きれいな女将さん風の女性が うどんを食べにやってきた このうどん おいしい おいしいと3杯も4杯もおかわりをして 代金に小判を置いて立ち去って行く おじいさん家に帰ってみると この小判が財布の中で木の葉に変わっていた 次の夜から 同じように何杯もおかわりをする いろんな人間に化けた客が現れる やはりもらったお金は財布の中で木の葉になっていた この話 毎夜 寒い中 重い屋台を引いてやってくる正直じいさんを騙す性悪だぬきを かっちゃんがこん棒で懲らしめて たぬきは息絶えるのだが 残された6匹の小だぬきが鈴の音の真似をして鳴き 毎夜 母だぬきを呼ぶという話だ 子を育てるには腹がへる 腹がへっては乳も出ん 命がけだったんじゃろう 涙ぐむかっちゃんに寝たきりの母親が寝床から言う 子育て中の母だぬき だったという話 もう35年くらい前 テレビでやっていた「まんが日本昔ばなし」を毎週録画して 1本のテープにCMなどを飛ばし編集して録り溜めていた 1巻に24話ほど入れたものが30本くらいになっていた まだ結婚する前のことで 将来 子供でもできたら見せてやろうぐらいしか思っていなかった それがどういうわけか 子供たちはこのテープを小さい頃からむさぼるように見た 何かの話で あっ これは昔ばなしのあの話に似ているね とか あの話はかわいそうだったね とか 登場人物の名前まで出して言う このごろは 山里に熊や猪が下りてきて人を襲ったり 畑を荒らしたりするニュースを聞くと この「夜なきうどん」の話をしてくれる そうやって 昔 寝る前に祖母や母が語ってくれた昔話のおもしろさを 僕も知らず知らず子に伝えたかったのかもしれない 市原悦子さんが亡くなられた 小さいころ その昔ばなしをむさぼるように見たふたりの娘は 久しぶりに映したテレビの前で かっちゃんのように涙ぐんでいた 哀悼 市原悦子さま お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019.01.14 13:54:59
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