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aituに乾杯

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2019.02.03
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カテゴリ:おもひでぽろぽろ

                                                              
福豆を食へば砕ける鬼の骨

父が亡くなってから、
ひとり暮らしの母の所へ、
時々、自分一人で様子を見に帰る。
たいていは夕方ごろ行って一晩泊まって帰る。
母は夏は焼肉やら、冬は鍋物を用意して待っている。
他人じゃないんだから、そんなごちそうせんでもいいと言うのに、
いつも山盛りの料理を作る。

十五年くらい前だったか、
当時はとても仕事が忙しいころで、やっと合間をみつけて、
久しぶりに母の所へ帰った。
一晩泊まって、
翌日は早めに帰って家で仕事を片付けようと思っていた。
が、久しぶりに帰ってきた息子は、
うれしそうな母の顔に、なかなか明日は早く帰ると言い出せなかった。
とうとうその晩は言えずじまいで床についた。
明日中に仕上げようと思っていた仕事のことで頭はいっぱいだった。


翌朝、
朝食もすんで新聞を読みながら、
今日は早く帰るからと言いかけた時、
母が先に言った。
「昼は何が食べたい?」
その言葉に僕はカチンときてしまった。
今、朝飯を食ったばかりだ。
夕べから言い出せずにいたイライラのようなものがいっぺんに噴き出した。
「いらん!今日は早よ帰るから!」
つっけんどんな言い方だと自分でもわかった。
「えっ、もう帰るのか?」
驚いた後に一瞬、母の見せた淋し気な表情がなおさら火に油を注いだ。
「俺も忙しいんや!」
そんな言葉を吐き捨てて、僕は鬼のような顔をして母の家を飛び出した。

人の心には、
何かの拍子に鬼が棲む時がある。

今日は節分。

豆を食えば、いまだに、
あの時の鬼の骨の砕ける音がする。





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最終更新日  2019.02.03 06:00:06
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