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東京今昔物語（写真の世界 http://wakowphoto.world.coocan.jp/ より）

[平成] カテゴリの記事

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都内に小川が復活している

写真１　音無親水公園写真２　木場親水公園写真３　横十軒川親水公園写真４　古川親水公園写真５　北沢川緑道東京が水の都と言われたのは江戸時代までです。水の都とは、隅田川とそれに連なる水路が広がる下町を指しました。しかし、それらの水路は、関東大震災と東京大空襲で大方が埋められ、残っていた水路も東京オリンピックの際の高速道路工事で埋められ、消えていったことは、このブログで既に何回か紹介したところです。しかし、その後これではいけないと、都や区では、東京の各地で嘗ての水路を復元したり、きれいな水を流す事業を行いました。偶々写真撮影に行って出会った復活水路の幾つかをここでご紹介します。先ず、北区の音無親水公園です。江戸時代から町民の花見の名所であった飛鳥山の裾を流れる音無川は暗渠になっていましたが、これを取り払って清流を流し公園にしました。起伏に富んだ小さな渓谷のような公園になっています。桜の季節には隣の飛鳥山より洒落た花見が出来ます。（写真１）次に、江東区の木場親水公園があります。江戸・東京の木材需要を一手に賄っていた木場も、昭和年代に手狭になって新木場に引っ越しました。その跡地を利用したのが木場親水公園です。広大な貯木場跡地は木場公園となりましたが、材木を運んでいた水路は残してそこに木場親水公園を作ったのです。頭上に高速道路が走っていたり、古い鉄橋が架かっていたり、爽やかな親水公園とは言えませんが、ここでは時に筏師（川並）の角乗り（かくのり）技が披露されるなど、江戸情緒を残そうとしています。（写真２）三番目には、同じく江東区の横十間川親水公園です。江戸時代の水路、横十間川の両岸を緑化して見事な親水公園に蘇らせました。ここは水路に蓋をされた訳ではありませんが、一時、工場用水や生活用水で汚染されていたのを改善したものです。公園の幅も長さも十分あり、自転車道路も整備され、川にはボートが浮かんでいます。（写真３）更に、江戸時代の旧下町とは言えませんが、荒川を東へ超えて行くと、荒川と新中川との間に小規模な親水公園がいくつも整備されています。古河親水公園、一之江境川親水公園、小松川境川親水公園などです。清流を新中川から取り入れて、荒川に放流する地勢になっているので、いずれも水は綺麗で子供たちのよい水遊び場になっています。親水公園の名前がふさわしい公園です。（写真４）下町だけでなく、山の手でも住民たちの努力で復元した水路があります。世田谷区の北沢川緑道です。赤堤から池尻付近までの暗渠化した小川を清流で復活させた散歩道です。嘗て、小学唱歌で歌われた「春の小川」は、当時は郊外だった代々木を流れていました。その近くの道路の電信柱には春の小川の水源は「こちら」と矢印だけ残っていますが、その水源は今はションマンの下です。東京の小川は復活したり潰されたり、今も盛衰を繰り返しています。（以上）

2009.08.25

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等々力渓谷　都区内に天然の涼風あり

等々力渓谷については、「東京にも渓谷がある」という書出しで既にご紹介済み（「等々力渓谷　東京都区内の渓谷」08.12.14）ですので、今回は、真夏に涼を求めて等々力渓谷を歩いた体験談です。連日真夏日が続く旧盆の頃、等々力不動尊にお参りして、その境内から渓谷に下りていきました。渓谷への階段は急で狭く、足許は雨が降らなくても濡れていて、上る人と下りる人がすれ違うとき危険な位です。渓谷に降りると気温は一気に下がり、地上の熱気は嘘のように涼しく感じます。渓谷の両側には樹木がうっそうと茂っていて、渓谷の冷気を逃がさないように覆っています。前回訪れたのは１２月でしたから、太陽の光が木々の合間から注いでいましたが、８月は木々の葉が茂り、太陽の光は谷底まで届かず薄暗い状態です。薄暗い階段を降りたところに等々力渓谷で唯一の茶屋があります。茶屋の前庭には、赤い毛せんを敷いた数個の椅子とテーブルがありましたが、全て満員でした。お盆休みの時期ですが、遠くまで出かけずに、手近な渓谷で涼をとる洒落た人々は意外に多いのです。そこから渓流沿いの小径を遡るように歩きます。すれ違うのがやっとと言う箇所が所々にあります。譲り合いながら川岸で待っている間、両側の岩肌を見ると何処も濡れています。武蔵野段丘を削って生まれた等々力渓谷は、その断層から清水が湧き出しているのです。その湧水が蒸発するとき周辺の熱を奪い、渓谷の空気を冷やすと云う訳です。小径のあちこちに水溜まりあり、足許が常に濡れているのも両脇の岩肌からの湧水の所為です。途中に縄文時代の古墳が何ヶ所もありました。縄文時代は地球の温度は今より高かったと云いますから、多分、古代人もこの等々力渓谷で涼をとっていたのでしょう。間もなく赤い橋桁のゴルフ橋をくぐり階段を上ると、地上は真夏の暑い太陽に照らされて、突然熱帯地方にきたような感じです。そこから大井町線の尾山台駅まで数分の距離です。もう少し長く渓谷にいれば良かったと思いながら電車に乗りました。（以上）

2009.08.19

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都市空間の装飾品　超モダンビル

写真１写真２写真３街を歩いていると上掲の写真のような特異の形のビルを見ることがあります。このようなビルが東京に現れたのは最近のことですが、都内のビルは大半が四角形のビルですから、大いに目立ちます。パリの旧市街地のように、似たような四角形のビルが高さや姿形を同じくして並んでいると、街路や街区はバランスよく調和していて美しく見えます。しかし、最近の西洋の大都市でも、その秩序を乱すように、巨大ロケットを垂直に立てたようなビルが出現しています。このような現代建築が現れたのは、コンピュータによる建築の構造計算が容易になったためだそうです。それに建築資材が丈夫で軽くなったことも理由の一つです。お陰でビル建設でも建築家がアートを試みることができるようになったのです。このような特異な姿態の現代建築は、ビルの利用効率からみると難点があり、かつ、建設コストが高くつきますが、ビルのオーナーが敢えて先端的なビルのデザインを採用するのは、伝統的なビル群の中で注目を引き、存在感をアピールできるからです。伝統的なビル街の秩序を重んずる人々には望ましくないかも知れませんが、都市空間にアクセントをつける意味で歓迎できることです。街に大きな飾りものを据えたと考えても良いでしょう。写真１は、南アフリカのダイヤモンド企業のデビアス（De Beers）ビルで、銀座マロニエ通りにあります。写真２は、スペインの皮革製品ブランドのロエヴェ（Loewe）ビルで、青山にあります。写真３は、東京モード学園ビルで、新宿西口にあります。路上からこれらのビルを見上げると、東京の都市空間は超モダンの装飾を取り入れ始めたと感じます。（以上）

2009.08.13

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東京は超高級ホテルの進出ラッシュ

世界的な不況で海外旅行する人は減り、国際的にホテル営業は冬の時代を迎えていると言うのに、東京では高級ホテルがまだ不足しているそうです。時差の関係では、東京はニューヨークとロンドンと程よく離れた位置にあり、世界を股に飛び歩く経済人にとって、東京滞在のためのホテルは未だ不足しているのです。そう言えば、東京に超高層ビルが建つと、そのビルの中に世界的に超一流と云われるホテルが必ず入居しています。まだまだ高級ホテルに需要があると云うことです。アジアのハブ空港を韓国の仁川の取られたとか、シンガポールは東南アジアの空路の要衝になったなどと、新聞テレビは騒ぎ立てますが、東京は、都市としての歴史的重みがあり、かつ、世界に展開する多くの日本企業の本拠地があるので、旅の目的地としての価値はそう簡単に揺らぐことはないでしょう。観光やビジネスで東京を訪れるお客さんを迎える東京の超高級ホテルは、どんなホテルがあるか、名前を挙げてみましょう。ホテルオークラ東京、帝国ホテル東京、ホテルニューオータニは御三家と云われる老舗のホテルで、立地条件と環境に恵まれています。写真１帝国ホテル（フランク・ライトの設計になる旧館は明治村に移設された）写真２ホテル・ニューオータニ（建設当時、曲線の新館はユニークであった）環境という点では、皇室宮家の跡地と明治要人の屋敷跡に建てたプリンスホテル赤坂とフォーシーズンズホテル椿山荘があります。写真３プリンスホテル赤坂（丹下健三設計になる近代的な建物。手前は弁慶橋）伝統や環境よりも機能や施設を重視するホテルは、再開発された超高層ビルの中に生まれます。新宿西口の再開発地区には多くのホテルが生まれました。中でも東京ガスビルの中のパークハイアット東京は超高級ホテルの始まりでした。写真４パークハイヤット東京（三つの峯を持つ超高層ビルの一つに入っている）　そのほかの再開発地区としては、恵比寿ガーデンプレイスのウェスティンホテル東京、汐留シオサイトのコンラッド東京、六本木防衛省跡地の東京ミッドタウン内のザ・リッツ・カールトン東京があります。写真５コンラッド東京（手前は浜離宮庭園。ホテルは無料で借景したが、江戸時代の庭園の雰囲気は壊れた）東京に進出するホテルは、西欧の高級ホテルチェーンのみならず、アジア資本の高級ホテルもあります。日本橋三井タワーに入居したマンダリン・オリエンタル東京、日比谷公園の近くで帝国ホテルとも並ぶ位置にできたザ・ペニンシュラ東京がそれです。これらの超高級ホテルは宿泊料金も５万円はくだらないとのことですが、業務用にも観光用にも便利な場所に立地しているので、繁盛しているようです。今回の金融危機で当面は客足は減っていると思いますが、ホテルもグローバル化の傾向には変わりはないのでしょう。東京に相応しい豪華なホテルの進出は歓迎です。（以上）

2009.07.17

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都市のスカイラインに関心を向けよう

写真１　横浜みなとみらい２１のスカイライン写真２　浜離宮庭園から見た汐留シオサイト写真３　新橋駅から見た汐留シオサイト東京に超高層ビルが建ち並ぶようになって十数年が経ちますが、その間に建築物群が都市空間に描く輪郭線は大きく様変わりしました。しかし、この都市のスカイラインの変化についての議論は余り聞きません。人々は都市ビルの中で仕事をして地下鉄で通勤するので、都市のスカイラインを見る機会が少ないからでしょう。しかし、世界の都市の美醜はそのスカイラインで論じられることが多いのです。西欧では、家を新築するとき、完成後の家の外形を予め丸太の骨組みで明示し、周辺住民から異論が出ないか猶予期間を置いてから建築に着手する地方があると聞きました。建物が構成する空間景観を大事にしている証拠です。日本では超高層ビルを建てる場合、土地の所有者や開発業者は、ビルが最も高く売れることに全力を上げます。そしてそのビルが都市景観に与える影響を予め検討して建設計画を変更したり、縮小したりしたと言う話は聞いたことがありません。しかし、横浜の「みなとみらい２１」の都市景観を見ますと、街全体としての景観を港町横浜に相応しい形にしようと言う意識が強く働いていることが分かります。（写真１）巨大な船体思わせる扇型のホテルは、決して経営効率のよいものではないでしょう。高さを逓減させて一列に並ぶ三つの高層ビルは、打ち寄せる波をイメージしていますが、容積率の効率的利用からはマイナスでしょう。しかし、こうして造られた「みなとみらい２１」を横浜港の海側からみると、街全体の景観に統一感があり、一度見たら忘れられない美しい景観となっています。横浜の人達はスカイラインの価値を認め、そこに都市の美醜を感じるセンスをもっています。嘗て横浜駅の海側には三菱重工業の造船所があり、国鉄の操車場がありました。「みなとみらい２１」は、その造船所と操車場の跡地を統合して建設されました。広い用地を一括して開発したから、統一感のある個性的な都市空間が可能だったと云う人がいます。それなら、東京の汐留操車場跡地を一括再開発した汐留シオサイト一帯の超高層ビル群の出来上がりは如何ですか？　二枚の写真を掲げました。海側の浜離宮から見たものと都心側の新橋駅から見た汐留シオサイト超高層ビル群です。（写真２、３）先ず、汐留シオサイトの超高層ビル群は各ビルの方向性がまちまちで統一していません。また、ビルの高さと形態もビル相互の関連性を考慮していません。汐留操車場跡地を購入した開発業者たちは、一つの組織を作って総合開発しようとせず、夫々の収益の最大を求めて、バラバラに超高層ビルを建てたからです。横浜では土地売却に際して、行政と土地購入者が開発主体を一社に纏めて土地を購入しましたが、汐留では国鉄という公的機関一者のの土地売却に際して、分割して入札に掛け、土地落札者たちの間で話し合いがつかずに、夫々勝手に開発することにななりました。公共の国鉄用地を利用するのに、非公共の精神の持主たちが開発すると、統一性の欠けた開発になる見本のような場所です。そのため、嘗て江戸幕府の迎賓館であった浜離宮は、背後に不規則で無粋なビルが建並び、その風雅な趣は台無しにされました。各ビルは只で借景を楽しもうとしただけで、浜離宮側から自らのビルが如何に見られるかについて想像する気配は全くありませんでした。逆に、新橋駅側から駅越しに見る汐留シオサイト一帯の超高層ビル群も乱杭歯が並んでいるようです。都市のスカイラインとして美しいとは全く云えません。おまけに、これら超高層ビル群は潮風を封鎖したので、背後の虎ノ門付近の夏の平均温度は２～３度も上昇したと云われます。都市のスカイラインを考えているうちに、都市開発では土地は公有にした方が良いと思うようになりました。（以上）

2009.07.05

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東京の悩み　止まらない集中をどうして止めるか

東京一極集中の現状東京に人口は集中し、地方は過疎化する傾向は一向に改まりません。一極集中を是正しようと、政府は何度も全国総合開発計画を作り直しましたが徒労に終わりました。大都市への集中には生産と消費の両面に原因があります。大都市は生産の面で効率が高く、消費の面でも選択肢が広いのです。それに対し、地方は生産、消費の両面で大都市とは逆なのです。生産と云いましても、大都市の生産は製造業ではなく、情報産業、サービス産業などの知的創造力を発揮する産業です。これらの知的産業は狭い地域に集約するほど効率が良くなるので、必然的にクリエイティヴな知的産業は大都市に集中するのです。他方、消費に関しては、大規模なレジャー施設などは地方分散が可能ですが、知的好奇心を満たす、芸術、娯楽、レジャーなどの消費産業は大都市に集中します。これらの消費産業はサービス産業ですから、生産即消費という性格です。知的生産者の住んでいる大都市で消費される仕組みになるのです。その結果、人々は益々都市の中心部に住みたがります。職住接近が推奨されて都心マンションが続々と建設されているのは、その人々の欲求を後追いしているのです。その結果、最近は都心から郊外へ住居を移す人より、都心部に回帰する人々が増えています。しかし、災害時の危険分散という観点から、また都市環境の悪化を防ぐ意味から云って、都心部へ過度に集積するのは好ましくありません。大都市集中から地方への転換を図るには、遅まきながら次の二つのことを考えたら如何でしょうか。一つは、東京、大阪、名古屋などの既成大都市から地方の有力中都市へ、都市集積を移転させる強力なインセンティヴを与えることです。都市集中には都市集中の手法で対処しようというのです。都市集中の根源的動向に逆らわずに、別の都市に都市集中を移す政策を採るのです。これを地方切捨てだと云って非難するのは現実を直視しない議論であって、国民全体の負担において非生産的な一部の地域への補助金を要求しているようなものです。今までの地方分散政策の失敗は、それをくり返していた結果なのです。それでは、分散させる先の有力中都市とは何処ですか？　かねてより地域開発の専門家の間では、地域新興の起爆都市として札幌、仙台、広島、福岡の中規模都市を挙げ、その頭文字を取って札仙広福（さっせんひろふく）と云っていました。これらの中都市が三大都市に肩を並べるよう強力な財政的、インフラ的サポートをすることです。もう一つは極めて難しい課題ですが、日本人が都市は働くところ、地方の田園は寛ぐところという価値観を持つようになることです。欧米先進国では、アメリカのフロリダ生活、イギリスのカントリー生活というように、大都市は一時の稼ぎ場所、成功しては一刻も早く、都会を離れたいという意識が人々の間にあります。勿論、欧米でも老後を贅沢に寛げる人々は現実には少数派です。しかし、かれら少数の存在が地方に冨をもたらし、同時に他方では若者に働く夢を与えているのです。日本のように金持ち優遇反対の嫉妬の声ばかりで、金持ち称賛の声が聞こえない社会では難しい課題ですが、地方再生のためには、そのような日本人の価値観を変える必要があります。最後に、成功した金持ち達も来ない過疎地方はどうするか？　そこは自然に帰すのです。日本全国を満遍なく使いこなす必要はありません。国土は人間のためにだけあるのもではないからです。そして、自然に帰す仕事も大事業になるでしょう。人間が利用するために壊した自然は、そのまま放置しても自然には戻らないからです。（以上）

2009.06.28

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一番美しい内濠は何処？

写真１写真２写真３写真４皇居の内濠をランニングする人々は、排気ガスにもめげずその数は減りません。理由は安全に走れる５キロ余りの歩道が皇居を巡っているからですが、特に都内では珍しく走るコース沿いに水と緑があるからです。江戸時代には水の都といわれた東京も、関東大震災と東京大空襲の後、水路が廃棄物処理場として使われ、外濠は殆ど埋め尽くされました。今は皇居のお濠と言えば内濠です。その内濠で何処が一番美しいと思いますか？お濠の表情は、その周辺の石垣や土手の松や草花で変わります。更には、皇居の外のビル街との関係でも変わります。皇居の位置は武蔵野台地の東端にあるので、西側が高く、東京湾に面する東側は低くなっています。従って、皇居の西側ではお濠を高い所から見ることになり、東側では水面に近い位置でお濠をみることになります。先ず、見応えのあるのは千鳥ヶ淵です。ランニングコースから外れますが、北の丸公園の田安門から千鳥ヶ淵を巡る桜の名所が、お濠を見下ろせる素晴らしい所です。桜のときが一番良いのですが、混み合うのが嫌なら、桜の葉が紅葉する秋もお薦めです。（写真１）次に、半蔵門から桜田門へ続く桜田濠が見所です。この辺りは、お濠から外縁の市街へ視界が広がり、お濠の水面も一番広く見えて、多分、内濠の中でここが一番美しく見える所です。お彼岸の頃には土手には曼珠沙華が咲いて、鮮やかな朱の色を添えます。（写真２）お濠と石垣のアンサンブルを眺めるなら、竹橋から北詰橋門の間の平川濠が最高です。関東一帯には築城のための石が少なかったので、家康が居城を築いたとき、わざわざ小田原辺りから大きな石を運ばせた位ですから、江戸城は大阪城に比べて石垣は貧弱です。しかし、平川濠の石垣はかなりの高さがあるので見応えがあります。（写真３）お濠の水面を身近に眺めるなら、日比谷通りに面した馬場先濠と日比谷濠が良いでしょう。皇居内は楠の巨木が濠の縁の並び、日比谷通りには丸の内のビル街が並んでいます。濠を隔てて近代的ビル群と緑の帯が並立する風景は、東京でもここだけでして、世界の主要都市でも余り例はないでしょう。（写真４）どこのお濠が美しいかは人それぞれですが、風景一般がそうであるように、私は高い所から見たお濠が好きです。世界の首都に比べて東京は公園が少ないと云われますが、街のど真ん中に、こんなに起伏に富んだ緑園を持っている都市は珍しいと、自慢できます。（以上）

2009.06.20

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道路沿いに伸びる街の高層化は没個性的

写真１　玉川通りの上を走る高速３号渋谷線とその周辺の低中高層ビル群写真２　世田谷通りの低中高層ビル街路ヘリコプターで上空から東京市街地を観察すると、都市の高層化は一様には進んでいないことが分かります。変な表現ですが、それは面としての高層化と、線としての高層化の二種類があるということです。ターミナル駅が集まる山手線の主要な駅周辺には、超高層ビル群が聳えています（東京駅、新宿駅、品川駅など）。それら主要駅からやや離れたところでも都市機能の集積が進めば、そこにも超高層ビル群が生まれます（六本木）。これらの超高層ビル群を東京市街地の中の山に喩えるならば、ほぼ同じ高さの山塊が、ある広さで街の一画を占めていると云うことです。これが面としての高層化です。もう一つ、線としての高層化は山手線の外縁部に見られます。都心部からやや離れて郊外に伸びる何本かの街道筋に沿って、線状に建ち並ぶ低中層ビル群です。北から中山道、川越街道、目白通り、青梅街道、甲州街道、世田谷通り、玉川通りなどの両側のビル群がそれです。これら道路の両側に壁のように建ち並ぶ一列の低中層ビルは、都心から離れるに連れて、用途もオフィスビルから住宅用ビルに変わっていきます。（写真２）更に、道幅の広い旧街道の上には高速道路が走ります。高速中央環状線が中山道の上を、高速５号池袋線は川越街道の上を、高速４号新宿線は甲州街道の上を、高速３号渋谷線は玉川通りの上を走ります。低中層のビル群の壁の間を走る高速道路は、まるでジェットコースターのように見えます。しかし、これら高速道路の下は、被さった高速道路のために半地下のように薄暗い街になりました。（写真１）低中層ビルの二、三階からは青空は見えませんし、路面には雨も降りません。このような街路は、おそらく世界でも余り例を見ない不思議な街路でしょう。東京の街の発展は、戦前戦後を通じて余り計画的ではありませんでしたが、都市周辺部に線として伸びるビル群も、伸びるに任せた発展です。漫然と発展した街は高層化しても個性的にはなりません。以上は、三軒茶屋の超高層キャロット・ビルから見て感じたことです。（以上）

2009.06.06

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スマートになったゴミ焼却場

嘗て東京都ではゴミ戦争なるものがありました。増大する都市ゴミの廃棄処分場所をめぐって杉並区と江東区が争った事件です。杉並区の住民は自分たちが排出したゴミを区内で焼却することを嫌い、ゴミを江東区の焼却場まで運ぼうとしました。江東区の住民は、自分の地区内で他の区のゴミまで焼却することを拒みました。当時の美濃部都知事は、地域住民のエゴを捌けず、長い間この問題を放置しました。その後、自分のゴミは自分で処理せよという当然の結論になり、各地区にゴミ焼却場を設置することでゴミ戦争は終わりました。都内を自動車で走っていると、所々でゴミ焼却場の高い煙突を見ます。嘗て見慣れた煤けた円筒形の風呂屋の煙突は消えましたが、代わりに生まれたゴミ焼却場の煙突は形も色もスマートです。潜水艦の艦橋を長くしたような洒落た流線型をしているものもあります。色も周囲の状況に合わせています。煙突も前より高くしてあるので、排気流も上空に拡散しやすくなりました。焼却炉は高温で燃やすので有害物も殆ど出ないそうです。平坦な住宅地では背の高い焼却場の煙突はランドマ－クとしての機能も果たします。ドライブする者には良い目印になり助かります。（以上）

2009.05.30

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みゆき通り花祭り

昭和の日（４月２９日）に、銀座のみゆき通で、路上にチューリップの花びらをカーペットのように敷き詰める祭が行われます。もう２０年余りも続いている行事だそうですが、今年、偶々傍を通りかかって初めて見ました。路上に敷かれた厖大なチューリップの花びらは、富山県から送られて来ます。富山県は日本での最大のチューリップ球根の栽培地です。販売用の球根を大きく育てるには、花びらが満開にならないうちに切り落として、花びらへの栄養を球根へ溜めるのだそうです。地面に花びらを敷き詰めて絵模様を描く祭りは、イタリアのフィレンツェが発祥の地だそうです。華やかで贅沢な祭りです。これを真似て小規模なものは横浜や神戸などで行われていますが、銀座の真ん中のみゆき通りで行うのは、狭い通路に多くの人々が集まるのでなかなか賑やかで豪華です。何故「昭和の日」を祭りの日にしたかは知りませんが、発足当時はその日は「みどりの日」でした。富山県での花びらの刈り取り時期もその頃だったのでしょう。花と緑は相性がよいということで、祭りは「みどりの日」にしたのでしょう。　しかし、４月２９日は昭和天皇の誕生日だと云うことで、祭りは「昭和の日」に変わりました。みゆき通りは漢字では「行幸通り」と書けます。明治天皇が皇居を出て海軍兵学校へ行幸（ぎょうこう）されたとき、この道を通られたことから名付けられたそうです。明治に劣らぬ困難な時代の治世者、昭和天皇の誕生日を華やかな花びらの絵で祝うことは、尚喜ばしい行事になりました。（以上）

2009.05.18

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焼け太る都市は変化も早い

写真１　１９８０年代の銀座中央通り写真２　現在の銀座中央通江戸時代、木造家屋が密集していた下町では出火すると大火事になりました。１６５７年の明暦の大火（振袖火事）、１６８２年の天和の大火（お七火事）、１７７２年明和の大火、１８０６年の文化の大火と、世界の大都市の中では江戸の大火の数は圧倒的に多いです。近代の明治に入ってからも、１８７２年の（明治５年）の大火、１９２３年の関東大震災による大火があり、これは戦争ですが昭和２０年の東京大空襲で東京は焼き尽くされました。火事に遭って産を成す者を焼け太りと云いますが、大火がこれだけ頻発すると焼け太りする前に次の大火が襲ってくるので、太る余裕がありません。石造りの西欧の都市が豊かな遺産を現代に残しているのに比べて、日本の都市資産が貧弱なのは、火災によるところが大きいのでしょう。しかし場所によっては何回も焼け太りをくり返す街もあります。銀座は明治５年の大火で京橋、銀座、築地の殆どが焼失しましたが、いち早く二階建ての煉瓦造りの洋風の街になりました。第一回の焼け太りです。続いて、関東大震災で銀座の煉瓦造りの街区は脆くも崩れ落ちます。すると煉瓦造りの古風な西洋風から近代風の西洋式建築で復活します。第二回の焼け太りです。その銀座大通りも昭和２０年の東京大空襲で瓦礫の街になりました。戦争直後の写真を見ますと、銀座４丁目の和光ビルだけはその姿がはっきり分かりますが、そのたのビルは無惨な姿です。しかし、戦後の日本で最初に街路として復活したのは銀座でした。忽ち鉄筋コンクリートのビルが建ち並び、賑わいを取り戻しました。その後、銀座は幸いにも大災害には遭いませんが、自ら変身するエネルギーは衰えていないようです。毎日見ているとその変化に気付きませんが、少し古い写真と見比べてみると、銀座大通りの活気はかなり変わりました。（写真１、２）火災は変化するエネルギーを産み出すようです。考えてみると、銀座だけでなく国際的に見たら東京の都市全体も激しく変化しているのでしょう。やはり、歴史的に大火災の多かった東京は変化のエネルギーを秘めています。（以上）

2009.04.19

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都心部の安らぎの寸景

写真１　市ヶ谷・飯田橋付近の外濠通り写真２　市ヶ谷・飯田橋付近の外濠土手写真３　お茶の水駅から見た神田川崖写真４　お茶の水駅から見た神田川崖東京の街は年々コンクリートで固められてきました。嘗て水と緑の都だった江戸も１４０年を経て、東京はコンクリートとガラスの都になりました。都会人の安らぎの場は、江戸時代から受継がれた幾つかの名園と神社仏閣が残っているだけで、都心部は高層のビルが林立する街になりました。映画「男は辛いよ」で寅さんが路端で商品を売るとき客に話しかける啖呵売（たんかばい）のセリフでは、「四谷赤坂麹町、チャラチャラ流れるお茶の水」と云って、この地域をひとまとめにしています。この地域は、江戸時代は武家屋敷でしたし、明治以降は公共施設と高級住宅地の地域となりました。寅さんのセリフは続けて「粋な姐ちゃん立ち小便」ときますから、上流社会のお嬢さんの枕詞としてこの地域の名前を挙げたのでしょう。この地域の中程をJR中央線が走っていますが、しばらくの間、電車は外濠と神田川沿いを走ります。車窓の風景は東京の中心部にもこのような心安まるところがあったのか、と思うような場所です。これらの風景がある空間は、人間が使い残した余地としての空間ですが、ギリギリまで使い切らなかったことに安堵の気持ちになります。春に花が咲き、夏に緑陰をつくり、秋に紅葉が落ち、冬の雪景色も眺められます。（以上）

2009.04.07

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都心部のボート乗場

１．千鳥ヶ淵ボート乗場２．ボート乗場から見た千鳥ヶ淵３．弁慶濠ボート乗場４．弁慶橋周辺の風景都心部で手こぎボートに乗るとすれば皇居のお濠しかありません。そのお濠もどこでもボート乗りができるわけではありません。いま都民が楽しめるボート遊び場は、千鳥ヶ淵と弁慶濠の二ヶ所です。皇居を巡る濠の中でも千鳥ヶ淵が一番幅広く、昔はその南の半蔵濠と繋がっていた長大な濠でした。弁慶濠は江戸時代に巨大な貯水池であった溜池に繋がる大きな濠でした。ボート遊びには水面の広さと見晴らしが欲しいですから、この二ヶ所にボート乗場が置かれたのは尤もなことです。千鳥ヶ淵は桜の名所でもあります。桜の咲く頃には、濠沿いの歩道は混雑で一方通行になり、立止まり禁止となる程です。その歩道の終わるところに千鳥ヶ淵ボート乗場があります。今年３月、このボート乗場は舟着場が改修され、コンクリート造りの立派な建屋ができました。その屋上に上ると千鳥ヶ淵の全貌が眺めることができます。（写真１、２）弁慶濠のボート乗場は、弁慶橋の袂にあり、地下鉄赤坂見附駅の近くです。ホテルニューオータニとグランドプリンスホテル赤坂から歩いて１～２分のところです。仰ぎ見ると首都高速の高架道路が頭上を走っているのがつや消しですが、ホテルでお茶をしてボートで二人だけになるには格好の場所です。（写真３、４）それでも都心部でボートに乗れるとは、東京という街にはまだ余裕が残っています。（以上）

2009.04.01

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駅前の猥雑さを解消しよう

写真１　下北沢駅出入口写真２　下北沢駅前食品市場　写真３　下北沢南口商店街写真４　新宿東口駅前写真５　八重洲口駅前駅前は地方都市の顔であり、最も賑やかな繁華街です。高度成長の真っ盛りの１９６０年代には、鉄道駅を拠点に地方都市は発展しました。井伏鱒二の小説「駅前旅館」は文芸映画として成功した後、１９６０年代に地方都市を舞台としたご当地映画としてシリーズ化されたので記憶している人もあるでしょう。しかし、そこに登場する地方都市の駅前の街は、自然発生的に生まれた街であり、殆ど街としての計画性は感じられませんでした。それでは、大都市東京ではどうでしょう。少しは街としての計画性があるかと云えばそうではありません。例えば私鉄最大の繁華街、下北沢は小田急と井の頭線が交差する街です。初めて街に入った人は、歩いている内に自分の居場所が分からなくなる位無秩序です。各商店が夫々の宣伝に夢中で、前後左右の店々と調和する姿勢が全くありません。店の形態も色彩も自分勝手で目立てばよいという感覚です。駅前の街を全体として快適にする意識が、もともとないのです。そして猥雑という程に無秩序なことが、街の売り物のようです。（写真１、２、３）それでは、都心部の環状線の駅前なら自慢できる秩序があると思って、代表的な新宿、渋谷の駅前を眺めてみました。しかし、ここでも猥雑で清潔感のない街並みを発見するのに苦労しません。新宿、渋谷の駅前の建物は殆どビルですから、街路としての秩序はあります。しかし駅前を歩いていて、雑然としていて落ち着きのない街です。清潔感があるとは言い難い雰囲気です。その最大の原因は、過剰で過大な広告物の所為です。広告掲示の酷さは日本の表玄関の一つ、東京駅八重洲口でも同じです。（写真５、６）公共空間における広告掲示については、殆どの先進国で制限が課せられていますが、日本では落下などの危険がなければ何をどう掲示しようと自由です。経済的自由に加えて、それは表現の自由だそうです。大都市であれ地方都市でれ、駅前は商店街の人々全員の共有の空間です。同時にそこを通行する人々のものでもあります。夫々の敷地は商店主個々人の所有物であっても、それらが構成する駅前空間は公共物なのです。駅前を美しくすることは、各商店にとっても利益になる筈です。駅前の商店主たちが公共の空間を美しく保つことが利益になると理解している所もあります。銀座中央通はその典型です。それでも偶には秩序を破る出店があるそうです。しかし、やがて商売が巧く行かずに閉店します。銀座に来るお客さんが買わないからだそうです。地元の人々は、これを銀座に不釣合いな商店を排除するフィルターと云っています。しかし、今、駅前に蔓延している猥雑さを解消するには、銀座のフィルター効果では間尺に合うないでしょう。駅前商店街の美意識に期待していては改善は無理です。手始めに公共空間の広告制限から始めては如何でしょうか？　公共の空間は公共の手段で規制してもよい筈です。（以上）

2009.03.14

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東京の料亭にはピンからキリまである

料亭　新喜楽料亭　金田中料亭とは高級な日本料理を提供するところで、屡々政治家が密談するところと人々は聞かされています。格式ある料亭は一見さんお断りであり、お客の秘密を守ることが固いので政治秘密や企業秘密を話し合う政治家や財界人に利用されると云うのです。そのような高級料亭として、東京では新喜楽、金田中が知られています（写真）。その他にも関西系の料亭、吉兆、辻留、美濃吉、なだ万などが東京に進出していますので、今では一般の人々も美味しい日本料理を楽しむことが出来ます。日本橋人形町にある料亭、玄冶店濱田家がミシュランで最高ランクの三つ星を獲得したと騒がれたのは二、三年前ですが、美味しい日本料理を提供する料亭は国際的にも注目を集めています。しかし、そもそも料亭とは、自前の板前が料理を作り、座敷で芸妓を呼んで客をもてなすところでした。料理も大事ですが、同時に日本的接待の様式を大切にしました。料亭の建屋は、日本式に造られていて、外見は簡素であり、看板などは表札程度に小さく掲げて、ひっそりとした佇まいです。本来ならば、建屋は庭園の中にあって静かな環境が望ましいのですが、都内では無理です。大抵は通りに面したり、ビルに囲まれています。中に入ると屈曲した廊下があり、部屋の出入りの客が直接出会わないように工夫されています。部屋は畳敷きで床間があります。古来、畳を敷かれた日本間は神聖な所であり、床間はその神聖のシンボルでした。すべての料亭は、この日本式を踏襲しています。今の料亭はグルメ指向の料理店ですから、料理店の店構えが簡素なものが多くなりました。ホテルの中に出店している料亭には、玄関もなければ曲がった廊下もない、和風食堂と同じです。しかし、グルメ指向の日本料理の食堂は、料理が美味しければそれでよいでしょう。むしろ料亭と称する疑似料亭の方に問題があります。戦前、料亭に似て非なるものに待合がありました。待合は、料理屋、芸者屋と連携して遊興の地を構成していました。それを三業地と云いました。戦後、多くの三業地の待合が料亭に変身したと云われています。待合は料理屋から料理を取寄せていたのですから、自前の料理の伝統はありません。待合は貸座敷業でしたから設備もそこそこです。料亭と云ってもピンからキリまであるのです。（以上）

2009.03.08

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銀座に季節を取り戻す和装

人は行く先によって服装を変えます。仕事には背広で、音楽会には洋装で、芝居には着物で、というように衣裳を状況に合わせます。また、歩く土地柄に合わせて、銀座にはこの身なりで、新宿にはあの身なりでと変えることもあります。ここ数年、銀座中央通に和装の人々が増えています。銀座商店街の旦那衆が休日に銀座中央通を和服で歩こうという運動をしていると聞きました。その所為か、銀座通には休日でなくても和装の女性をよく見かけるようになりました。昔から日本橋は粋で銀座はハイカラと云われていました。それは日本橋は伝統にこだわり、銀座は流行に敏感だったからです。銀座は洋風の若い男女の通行人が似合うところでしたが、横文字表記の看板が益々氾濫する銀座中央通に、最近は伝統的な衣裳の和服が進出し始めたのです。ビル街には季節感がありません。街路樹がない銀座中央通は、整然としてはいますが潤いのない通りです。豪華ですが暖かみがありません。そこを和装の婦人達が歩くと、和みが出てきます。何より銀座に季節感が戻ります。和装は洋装に比べて季節感があるからです。写真で銀座中央通の季節を味わって下さい。（以上）

2009.03.02

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隅田公園は沈下式庭園か？

明治以降、東京の街は近代化という西欧化が急速に進展しました。しかし公園面積に関しては、西欧の首都に比べて東京の公園面積はかなり少ないと云われています。都会の緑化を維持することについては、東京は江戸の遺産の恩恵を大いに受けています。それは東京の庭園の多くは、江戸時代の大名屋敷の庭園だったからです。昨年、このブログで東京の庭園シリーズを書きましたが、東京の庭園の殆どは江戸時代からの贈り物であり、明治以降新たに造成された公園は数えるほどしかありません。更に造園内容に関しても、明治以降造成された庭園は、江戸時代から引き継いだ庭園よりも質的に見劣りのするものです。偶々墨田区役所の上層階から隅田川を眺めていたら、眼下に墨田公園の緑が目に入りました。素晴らしい緑の森です。東京下町にもこのような緑が残されていたことに感激しました。しかし、この隅田公園は、周囲を高い工作物に囲い込まれて、沈んで見えました。墨田公園の東側には隅田川沿いの高速道路が走り、南側には東武伊勢佐木線の高架鉄道が走っています。隅田公園はまるで沈下式庭園のように見えました。（写真）都心の高層ビルには、沈下式の庭園を設けているところがあります。これは、近年、西欧の建築設計で採用されているサンクンガーデン（沈んだ庭）という方式で、空間の少ない都心部で、地下階を地上階と同じ条件で使用するため苦肉の策なのです。隅田公園は水戸藩の下屋敷があったところです。隅田公園の少し北に向島百花園があり、江戸時代に文人墨客が集る梅園でした。大正以降に墨東の地は工場地帯になりましたが、江戸時代には、この墨東の地は風雅を楽しむところでした。江戸時代に風雅を楽しんだ庭園は、今は都市内の沈下式庭園になってしまったとは情けない次第です。（以上）

2009.02.24

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コンクリート底露出の大横川

写真は、総武線錦糸町付近を流れるコンクリート底を露わにした大横川の姿です。名前は「大横川親水河川公園」と云いますが、ご覧のように水は流れていません。そしてだれも利用していません。もともとの大横川はこのコンクリートの下を暗渠となって流れています。大横川は江戸時代に湿地帯が埋め立てられたとき運河として開鑿された川です。この川のもう一つ東側に横十間川が流れています。これも江戸時代に開鑿された運河です。これらの川に「横」の文字が付いているのは、江戸城から見て横（南北）に流れているからです。江戸時代、大規模な水害対策として利根川の流れを東に向けて銚子沖へ流すようにしました。それまでは利根川は東京湾に注いでいました。ということは、東京の地勢としては川は北から南へ流れるのが自然なのです。従って、大横川も横十間川も隅田川と並行して流れる水量の豊かな運河だったと思います。大正、昭和と時代が進むと、墨田区、江東区は都市型工業の集積地となります。地下水の汲上げによる地盤沈下や工場汚水の流出などで、流れがよい筈の大横川、横十間川でも洪水や汚染が問題になりました。その対策として河川を暗渠とし、その上は綺麗な水を流して親水公園にしました。しかし二階建ての河川では無理があります。写真のように一部ではコンクリートの川底を曝した無様な水無しの大横川となりました。二階建ての暗渠は皇居の外堀、飯田濠でも見ました（「濠の上の濠はグロテスク」2008.6.8 ）。これでお濠の見栄えが良くなる訳ではありません。多額の工事費をかけて自然を破壊しただけです。大横川の暗渠も同じ愚を犯していると思います。陸地に架かった嘗ての橋と、何にも使われていないコンクリートの広場は異常な光景です。大横川は上流で北十間川につながっています。北十間川は隅田川につながっています。ですから大横川の水量は調節出来る筈です。大横川の暗渠の部分は開渠にして自然の姿に戻した方がよいでしょう。そうすれば夏は涼しくなり、冬にコンクリート面の埃が舞うこともなくなります。江戸の時代には豊かな水で風流だった墨東の地域を昔の姿に戻そうではありませんか？（以上）

2009.02.18

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新東京タワーの美観について

新しく建てられる東京タワーの名称が「東京スカイツリー」に決定したと昨年報じられました。現在の東京タワーは１９５８年（昭和３３）に電波塔として芝増上寺の墓地跡に建てられましたが、それから半世紀経って、それでは間に合わなくなり、もう一本の電波塔が必要になったと云うことです。海外の首都の電波事情がどうなっているか不案内ですが、東京圏の電波需要はそれだけ急成長を遂げているのでしょう。それにもう一つ、東京の高層ビル建設が急増し現在の塔では高さが足りなくなり、電波の伝達に支障が生じているので改善が迫られている事情もあるのでしょう。現在の東京タワーは形態がパリのエッフェル塔に似ています。パリのエッフェル塔が建設されるとき、これは伝統的か、街の美観を損なわないかパリ市民は大いに議論しましたが、当時の東京都民は美観について、これはパリの物真似だ、日本的でないなどと、余り議論をしませんでした。とにかくテレビ放映に必要なのだということで実用優先で急ぎました。また塔の高さが当時世界一ということが自慢で余り姿形を気にしませんでした。今回の「東京スカイツリー」についても、美観の話題は余り聞かず、話題を賑わしたのは場所の選定と、塔のネーミングでした。塔の建設位置やその形態が都市の美観にどういう影響があるかという議論は問題になりませんでした。電波塔の場所の選定は、狭い東京都市内に適地はあるのか、必ずしも東京都市内に拘ることは必要ではないとの議論は聞きましたが、結局は用地確保の容易さが決め手になったようで、隅田川近くの押上に決まりました。確かに塔の建設用地の確保は容易ではありません。しかし、電波という公共物を東京都民に満遍なく届けることが最優先の施設ですから、新しい電波塔の建設場所はその点をもっと議論して欲しかったと思います。東京の人口の重心（人口分布の最も多いところ）がどの辺にあるか、今後の人口移動の動向はどうか、などを論じて場所選定の議論をして欲しかったです。東京の人口の重心は明らかに下町から山の手に西進しています。東京都庁舎が東京駅から新宿駅方面に移転したのは、人口の重心移動を追認したものです。更に、電波塔は巨大な建造物ですから、その形態が都市空間にどのような影響を与えるかも議論して欲しかったと思います。東京港へのレインボーブリッジ、横浜港へのベイブリッジが如何に都市景観にプラスしているかを考えると、その検討が殆ど聞かれなかったことは残念でなりません。東京スカイツリーは高さが６００メートルを超える長大なものですから、もし都市中心部に建つとなれば、山手線沿線に続々と起ち上がっている超高層ビル群との関係で都市の美観が論じられることになったでしょう。しかし、今回決まった建設予定地は東京都市部の東北の端ですから、巨塔は都市中心部から孤立した形になり、都市空間の造形を論じるのはいささかピントが外れてしまいます。むしろ電波塔そのものの形態を議論することが中心になったでしょう。聞くところによりますと、構造的には五重塔をイメージし、中心に一本頂上までの柱を伸ばすことで耐震性を高めて、構造物の土地使用面積は高さに比べて極めて少なくするそうです。従って、現在の東京タワーに比べて、ずっと用地節約型の塔だそうです。新しい電波塔のネーミングについては公募を行い東京スカイツリーと決めましたが、肝心の塔のデザインについては、公開ヒアリングや設計コンペを行わずに、専門家だけで決めました。とにかく現状で一定範囲に電波が届けばよい、塔の建設会社と利用者のテレビ会社の採算がとれればよいというのでは、安易な結論でした。事業主体が東武鉄道が出資する私企業だからというのがその理由だそうですが、電波塔は公共的建設物ですから、たとえ民間プロジェクトであっても、世界のデザイナーに門戸を開げて、最高のデザインを求めるべきでした。都市景観を美しくすることに、日本国民も日本政府も関心が薄かった時代が続きました。その結果、東京の都市美は著しく低下しました。巨大建築物は造り直しが困難です。新しく建造するときに、実用性だけでなく、美しさを求めて投資をすべきだったと繰り返し悔やみます。これ以上の議論は東京スカイツリーが出来上がったときに致しましょう。さすが日本のデザイナーは素晴らしいということになるかも知れませんから。写真は、東武伊勢佐木線の業平橋から見た東京スカイツリーの基礎工事現場です。（以上）

2009.02.12

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変貌する大崎駅周辺　都心回帰の一翼

写真１　御殿山のマンション写真２　ゲートシティ大崎写真３　ゲートシティ大崎山手線は品川駅を南下すると間もなく大きく右へ急カーブをきって北上します。その曲がったところが大崎駅です。更に北上すると五反田駅に至ります。急カーブで方向を逆にしたため、これら三つの駅は極めて近接しています。そしてこれらの三つの駅に囲まれた三角台地には、江戸時代桜の名所だった八つ山と御殿山があり、今は高級マンションが建ち並ぶ住宅地となっています。（写真１）この三角台地の南端に大崎駅があります。大正時代に目黒川沿いに工場地帯が生まれたとき、大崎はその要になり、戦前から京浜工業地帯の一部を構成していました。戦後の復興期には大崎の立地条件の良さから、大企業、中小企業の進出が相次ぎ、業種も製造業から都市型産業に変身します。その流れを受けて、２０年ほど前（1987）に、日本精工大崎工場跡地の再開発が行われて、駅前にオフィスビルの「大崎ニューシティ」が誕生しました。続いてその隣に１０年程前（1999）、超高層ビルの「ゲートシティ大崎」が誕生しました。（写真２、３）大崎駅前に建設されたこれらの超高層の複合ビルは、品川駅海側の超高層ビル群と合わせて、東京南西部に、巨大な都市型産業の集積地を形成しています。都心部の容積率制限が緩和されて急速に建った東京駅、新橋駅、品川駅周辺の超高層ビル群のように注目を集めていませんが、大崎駅周辺の開発は静かに着実に進んでいます。山手線は都市部を環状に走る電車で、山手と下町を通ります。東京の都市部の発展に応じて、山手線の各駅周辺の発展ぶりも大きく変わります。山手線が環状に開通したのは大正１４年（1925）です。時代は江戸から東京になり、大正時代には地方から多くの人々が上京しました。彼らが東京に上京するときは、関西方面からの人は新橋で、東北方面からの人は上野で列車を降りました。従って、山手線の駅で最初に賑わったのは新橋駅と上野駅でした。その後、大正、昭和と住宅地が郊外に広がりました。私鉄が山手線の駅をターミナル駅として郊外に延びると、郊外の住人たちによって新宿、渋谷、池袋が賑わいました。戦後の高度成長期を過ぎると、新宿、渋谷、池袋の各駅の乗降客は、それまで賑やかだった新橋駅、上野駅を上回るようになります。山手線の山側（西側）が優勢になった象徴が都庁の東京駅から新宿駅への移転でした。しかし、今また都心回帰の流れが生じています。山手線の海側（東側）の東京駅、新橋駅、品川駅、大崎駅の周辺に続々と建つ超高層ビルがその象徴です。（以上）

2009.02.01

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明治神宮の初詣は変わった

西参道の行列本殿広場前本殿前に待つ表参道からの参拝者私は、毎年初詣の参拝者が全国で最も多いと云われる明治神宮に参拝しています。除夜の鐘がなる頃、西参道口から境内に入りますと、毎年のように参道の所々でカウボーイの若者達が半袖姿の軽装で篝火を焚いて参拝者を迎えてくれます。本殿に向かって参道を進みますと、既に長い参拝者の列が出来ていました。百年に一度の不況が襲いかかるというので、大企業は真っ先に解雇を発表するなど、人々は先行きに不安を感じているのでしょう、前年より長い行列でした。ご承知のように明治神宮は、日本の近代化を成功させた明治天皇陛下を祭る神社です。景気とか雇用とか、まして商売繁盛の神様ではありません。勿論、経済や産業が発展しなければ明治天皇が果たした国家の独立と繁栄はありませんが、夜中から境内に行列する参拝者の多くは、何か勘違いしているようです。元旦夜中の参拝者は、例年は表参道（原宿駅）、北参道（代々木駅）、西参道（参宮橋駅）の三方から境内に入れたのですが、今年は表参道と西参道の二ヶ所だけでした。参拝者が本殿前の広場へ一挙に入るのは危険を伴うので、例年のように大勢の警察官が参拝者の入場を整理していました。それでも参拝者の人数が多い表参道からは、入場を許されると、怒濤のように人並みが広場になだれ込み、お賽銭を投げて拝んでいました。本殿前は、参拝者の雑踏と、整理する警察官のハンドマイクの音声が入り混じり、深夜密かに神前で新年の決意を誓うには、誠に不向きな光景でした。しかし、天下国家とは関係ない個人の商売繁盛や雇用維持や給与確保をお願いする人達は、少しもそれを気にしていませんでした。参拝が終わり帰途につくと、本殿近くのテント小屋で、魔除けの破魔矢、おみくじ等を販売していましたが、その販売促進の宣伝マイクは大音量でした。明治神宮の森の木々は、夜中の騒音に驚いていたでしょう。明治神宮の初詣は参拝者の数では一番ですが、その中身は確実に変わりつつあります。明治大帝の御心は如何にと思うばかりです。（以上）

2009.01.01

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夜の日比谷公園

夜遅く、暗い公園内で撮った写真をよく見ると、夜空には仄かな明るさがあります。都会のビルの照明が空に反映しているからです。人工衛星でみる大都会の夜景は一際明るく光っています。昔は、都会でも不夜城と言われたのはネオン輝く特定の繁華街でした。今はオフィスビル街も不夜城です。その上、ライトアップとイルミネーションで至る所が明るくなりました。陽の落ちるのが早くなった初冬の夕暮れ、日比谷公園に行きました。日比谷公園は日本最初の西洋式庭園です。西洋式庭園には噴水が付きものです。黒々とした園内で冷たく光るのは噴水池の水面です。公園には人影は少なくなり、噴水の池だけが冷たく光っていました。陽が落ちても公園内は意外に明るいのです。池が光るのは、周囲に建ち並ぶ高層のオフィスビルの多くの窓が煌々と光を放っているからです。夜の明るさを避ける恋人達にとって暗い公園が望ましいのですが、今やその公園まで明るくなっています。（以上）

2008.12.27

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東京郊外の高層型団地の違い

高島平団地光が丘パークタウンの公園光が丘団地のショッピングセンターとゴミ焼却所東京の街は、中心部の高層化を抑制し、市街地を横に広げて発展してきました。都市住民の住宅は、山手線のターミナル駅を始発駅とする私鉄の延伸に支えられて郊外に広がりました。やがて郊外も住宅地を確保するのが難しくなり、郊外での住宅の高層化が必要となります。こうして生まれた郊外の高層団地に、高島平と光が丘の両団地があります。両方とも民間開発ではなく、政府の住宅公団が計画、建設しました。高島平団地への入居は昭和４７年（1972）に始まり、光が丘団地へは昭和５８年（1983）です。居住人口は高島平が２万人、光が丘が３万人です。交通の便は建設時に都営三田線が高島平に、遅れましたが都営大江戸線が光が丘に直接入っています。両団地とも郊外と言っても、その後に出来た多摩ニュータウンほど都心から遠くなく、都心への地下鉄で直結しており、また多摩ニュータウンのような丘陵地帯ではなく平坦な土地にあります。両団地とも諸条件は良く似ています。しかし、二つの団地には入居時期が約１０年の違いがあります。この１０年間に団地住まいのニーズを満たす方法について多くの前進があり、居住者のための利便性が大きく改善されました。その違いは、日常生活のためのショッピング施設、憩いの場としてのオープンスペース、共用できる文化施設などです。高島平団地が建設された昭和４０年代は、サラリーマンの住宅需給が逼迫していましたから、とにかく住むところを確保することが至上命題でした。こうして羊羹型の高層ビルが整然と、しかし味気なく建ち並んだのです。ショピング機能は出勤、帰宅のときに便利なように駅前に纏めて造られました。光が丘団地は光が丘パークタウンと称せられるように建設時から広大なオープンスペースの公園が用意されました。米軍住宅だったグランドハイツの返還時に建設されたのも幸運でした。地下鉄大江戸線が中心部に入り、そこにモダンなショッピングセンターも出来ました。ゴミ焼却所の煙突までが真っ白な貴婦人のようです。賃貸住宅の場合は居住者の若返りがありますが、両団地ともに入居者の高齢化が進んでおり、新しいニーズが出ています。その要請に添った団地機能の改善が望まれます。外国では大規模な住宅建設は公的機関でも行いますが、民間主導ですすめるケースが多くあります。英国では工場が郊外に移転すると鉄道沿線に従業員のためのニュータウンを造成するのです。米国の企業城下町は自動車社会ですから道路沿いに開発が行われました。欧米のニュータウンは日本のように密集せず、広域に広がっています。それだけ街としての機能をより豊富に備えています。それに引き換え日本の団地はベッドタウン型です。これからは、住むだけでなく、学び、交わり、働く機能を備えた街に変わる必要があります。遅れて開発された多摩ニュータウンではそのような動きが始まっています。（以上）

2008.12.21

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等々力渓谷　東京都区内の渓谷

写真１写真２写真３東京にも渓谷があるというと、奥多摩渓谷があるから当たり前じゃないかと云われます。しかし、２３区内にもあるというと驚く人が多いでしょう。それは世田谷区にある等々力渓谷です。武蔵野台地には川が削って出来た段落があちこちにあります。これを崖線（がいせん）と言い、その崖の所々に地下水が顔を出しています。これをハケと言います。井の頭公園、石神井公園の池はそのハケの一つから湧き出した水が池になって生まれました。その一つのハケが谷沢川の源流となり、南下して多摩川に注ぎます。その途中、等々力付近で国分寺崖線沿いに渓谷を刻み、それが現在でも手つかずで残っているのです。昔から等々力周辺は郊外の高級住宅地でしたから、早い時期から渓谷周辺の平地は住宅で埋め尽くされていましたが、渓谷のお陰で１キロメートルに及ぶ武蔵野の森が細長く伸びて残りました。渓谷の深さは１０メートルもあります。渓谷の斜面には、ケヤキ、ナラ、ヤマザクラ、カエデなどの武蔵野の木々が茂っています。渓谷内には不動の滝もあり、シダ類の湿性植物が生えています。（写真１）環状八号線をドライブする人は、等々力付近を通過するとき、一瞬左右に緑の森を見るでしょう。それが等々力渓谷をよぎる時です。その森の下は真夏でも涼しい渓流が流れています。場所は東急大井町線の等々力駅で降りて、歩いて数分のゴルフ橋袂の階段を下りれば等々力渓谷に入れます。なんと身近なところに夏の天国があったことかと驚き喜びます。（写真２）夏だけでなく秋も紅葉が美しいところです。等々力渓谷の高台にある等々力不動尊の境内は紅葉の名所です。（写真３）等々力渓谷は、庭園ではない自然の美しさが２３区内にも残されている唯一の場所です。（以上）

2008.12.14

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酉の市

参拝者は国際通りまで溢れる。境内の混雑ぶり大きな熊手が売れました。酉の市は１１月の酉の日に行われる鷲神社（おおとりじんじゃ）の祭礼です。酉の日とは、十干十二支を当てて定める日付け法で「酉（とり）」に当たる日を云います。酉の日は、１１月に二回乃至三回ありますが、今年は三回ある年でした。夫々を一の酉、二の酉、三の酉と云います。鷲神社は全国にありますが、東京では浅草の鷲神社が有名です。江戸時代から三の酉がある年は火事が多いと云われていますが、根拠はありません。しかし三の酉の日は最も賑わいます。本殿に参拝する人々は長蛇の列で、浅草の鷲神社が面する国際通りまで人が溢れていました。鷲神社の縁起は、遠く日本武尊（やまとたけるのみこと）の戦勝記念まで遡り、元々神道の祭りでしたが、江戸時代には、鷲神社のご本尊は鷲の背に乗った釈迦とされて、神仏混淆の信仰となりました。それが現在では商売繁盛の神様になってしまいました。現在の酉の市で売られる飾り物の熊手は、福を掻き込む縁起の良いものとされています。神社の境内は熊手売りの店でぎっしり詰まります。参拝客も帰りには熊手を買って商売繁盛を願います。境内は熊手を買う人々が一杯で、身動きが出来ないほどの人出でした。大きな熊手が売れると、売り手と買い手は三三七の手拍子で福が来るよう景気をつけます。事情通によりますと、買い手は熊手を値切り、値切った分はお祝儀として店の者に渡す仕来りがあり、そうすると手拍子が鳴るのだそうです。暫く見ていましたが、手拍子は鳴れどお祝儀を手渡す場面は見えませんでした。酉の市は本当に賑やかで明るい祭りです。新年に向けて元気の出る祭りです。信仰に関しては誠に日本人は自由奔放であり、酉の市は陽気この上ない祭りです。（以上）

2008.12.02

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帝国劇場は今も和洋の伝統で

帝国劇場という名前から想像して、国家権力が虚勢をはるため古めかしい劇場を建てたと思われるかも知れませんが、これは当時の財界人、渋沢栄一や大蔵喜八朗が中心になって造った劇場です。従って株式会社「帝国劇場」は官営ではなく民営でした。明治時代、近代化は即ち西欧化でしたから、演劇改良運動の一つとして洋式の帝国劇場が建てられたのですが、当時の流行語「欧化改良」という言葉がが示すように、西洋一点張りの西洋式劇場ではなく、和洋折衷の劇場です。外国人に歌舞伎などの日本の古典芸能を見せると同時に、日本でも西欧のオペラやシェイクスピア劇が上演できるのだという意気込みを示す劇場でした。また、劇場の運営方法もそれまでの芝居見物の方式を止めて、観客サービスを今様に切り替えた初めてのものでした。その帝国劇場は関東大震災で焼け落ちましたが、残った外郭を元に復旧し、間もなく演劇場として再開しました。しかし、昭和の初期から３０年代までは映画の上映館になりました。１９６６年に解体され新しい帝国劇場が誕生してからは、再び当初のように演劇場となりました。再開された帝国劇場でも「欧化改良」の精神は生かされています。その証拠に上演するものは今でも西洋演劇やミュージカルが多いです。新装再開されて間もなく上演された「屋根の上のバイオリン弾き」はロングランとなり、帝国劇場の存在を全国に知らしめました。来年は「マイ・フェア・レディ」「放浪記」と和洋取り混ぜて上演するところも伝統そのままです。劇場の入り口は横道にありますが、建物本体は皇居に向かってお濠の前に堂々と立っています。帝国劇場が面する内濠通りに立つビルは、風格のあるビルばかりです。米軍占領中に司令部が置かれた第一生命ビルや明治生命館（現、丸の内MAY PLAZA）などの西洋古典風のビルの合間に、谷口吉郎設計になるモダンな帝国劇場は建っています。（以上）

2008.11.14

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神田古書店街も進化する

古書探しは楽しいものです。仕事に必要で探す場合は追われている感じが強いですが、趣味の本を探すのは、発見できるか否かにかかわりなく、探すこと自体が楽しいものです。散歩していて通りすがりの古本屋で、探すともなく眺めていて、かねて探していた本に出会うと、これが運命だったかと思うように嬉しいです。神田神保町に古書店が集積した通りがあります。私は暇があると神田の古書街をよく散歩しました。昔は大抵の本屋は幅広い分野の本を取扱っていたので、満遍なく古書店に入って書棚を探しました。関心範囲が広い場合は、この方が変化に富んで楽しいです。しかし、忙しい世の中になって、取り扱う書籍の分野を予め特定の分野に集中した方が便利だということになったのでしょう。この頃は特定の分野に特化する本屋が多くなりました。文学、美術、歴史、哲学、宗教、社会科学、自然科学、演劇、洋書などに特化するのです。確かに、専門化した古書店ではその分野の古書情報は豊富であり、本を探す人も便利になりました。ある程度の専門化は昔も行われていましたが、最近は専門化の細分化が更に進んでいます。これは、古書をインターネットで探す人が多くなった所為だと云います。書店が専門的に分化すると、総合的に案内することが必要になります。神保町に古書店の案内所が出来ました。古書を効率的に探すのに便利です。神田古書店街も静かに進化しています。（以上）

2008.10.25

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危険な都市　東京

四谷消防博物館にて四谷消防博物館にて四谷消防博物館にて新聞報道ですがミュンヘン再保険会社の評価では、世界で危険な都市のランキング第一位は東京で第二位は横浜とのことです。そして東京では墨田区、荒川区、足立区が危険地域が多いとのことです。西洋の保険会社に云われるまでもなく、東京は江戸と云われた時代から危険な都市でした。密集した木造家屋の江戸の街では火事が頻繁に起きました。人々は逃げるための家財を小さくし数も余り持ちませんでした。火災が起きた時には消すことは諦めて、家屋を壊して延焼を防ぎました。幕末に来日した西洋人が消化用の機材を幕府に提供しましたが、それを大事にしまい込んで使わず、相変わらず破壊法で消火活動をしていたので、江戸時代を通じて消火技術が殆ど進歩しなかったと評しています。江戸時代はしばしば火災によって焼失したので、建築物の平均寿命は２０年に満たなかったと、建築史家の鈴木博之氏はその著「東京の履歴書」で述べています。寛永寺、増上寺、浅草寺はみな明治以降に建て直したものだそうです。また、東京は西欧の諸都市に比べて大地震に見舞われる頻度は確かに多いです。元禄関東地震（1702）、安政江戸地震（1855）、大正関東地震（1923）と約２００年間隔で大地震がありました。そしてその都度、壊滅的な被害と急速な回復を繰り返しました。それでも江戸は計画的な都市でした。東京をヨーロッパの首都、パリやロンドンと比較する議論が多いですが、人工的に造られた首都という意味で、東京はワシントンに似ているとサイデンステッカー氏はその著「東京、下町山の手」で述べています。しかし、人工的に造られた江戸の計画性は、東京となって近代化により無計画に変えられていきました。計画性の乏しい東京は、益々火災にも地震にも弱い都市になりました。江戸時代の下町だった墨田区、荒川区、足立区だけでなく、危険な木造密集地域は新宿区、杉並区などの山の手まで広がっています建築基準法が改正された昭和５６年以降の建築物は耐震性があると云います。東京の中心部の容積率が緩和されて都心のあちこちで超高層ビルが増えてきました。超高層ビルは建築技術は最新のものであり安全性は万全だとのことですが、果たして大丈夫でしょうか？数年前、高層ビルの耐震性についての討論会で、現在予想される地震の震度に超高層ビルが耐えられるかとの質問に、専門家の方が必ずしも保証できないと答えていました。建築物の破壊は、地震の強さ（大きさ）だけでなく地震の波長によるところが大きく、地震の揺れが建物の波動と共鳴すると予想できない力が働き、現在の超高層ビルが折れるということもあると発言した時には満場がシーンとしました。東京は江戸の時代から火災と地震で危険な都市でした。平成の今も危険が減ったという保証はありません。ミュンヘン再保険会社の指摘には耳を傾けた方がよいようです。（以上）

2008.10.19

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おばあさんの原宿　巣鴨地蔵通り

写真１　赤パンツ店には祖父母のために買物に来る若者がいます。写真２　祭日なので人通りは平日より多い地蔵通り。写真３　お地蔵様を洗う人は、やはり老人が多いです。巣鴨地蔵通りは人呼んで「おばあさんの原宿」といいます。年寄りが大勢集まる街という意味です。原宿の竹下通りに若者向けのファッション店が立ち並び、地方からも若者が買物に来るほど人気があることにあやかって名付けられたのです。竹下通りには派手な衣装を纏った若者たちで賑わっていますが、巣鴨地蔵通りに年寄り向けの商店が特別に多いわけではなく、年寄りが特に多く集っているわけではありません。年寄り専門の店は赤パンツの店くらいです。（写真１）巣鴨地蔵通りは、江戸時代には中山道という街道のあった道筋です。日本橋と板橋宿の中間辺りに位置する街道筋でした。大正時代に全線開通した山手線の巣鴨駅が近くに出来て街道筋に商店街ができました。偶々、道筋にとげ抜き地蔵があり、病気快癒の御利益があるというので、多くの参拝者が訪れます。老人には病人が多いので、この道で老人を多く見かけるのは事実です。言うなればこの通りは社寺の門前町のようなものですが、さりとて通常の門前街通りのような店がぎっしり軒を並べているわけでもありません。昔の街道筋の一部が門前町の役割を引き受けて少々賑やかになったというところです。（写真２）とげぬき地蔵は高岩寺のご本尊であり、秘仏として公開されていないので拝顔することはできません。代わりに境内にある仏像は水洗い観音と云われ、病める人が仏像の同じ部分を洗いなでると治ると信じられていて、参拝者が絶えない観音様です。偶々訪れた日は、水洗い観音の前に順番待ちしている人で列ができていました。一代目の観音様はタワシで洗い過ぎたので細ってしまい、この観音様は二代目だそうです。それで今はタワシの代わりに布でなでることにしたそうです。人々の願いはそれ程強烈であり、人気の高い観音様です。（写真３）街路のネ－ミングでは、嘗て全国的に何々銀座というのが流行りましたが、今は銀座という名前に人気がないようです。さりとて西欧のように有名な政治家の名前を付ける慣習のない日本では、巣鴨地蔵通りのように社寺に関わる名前が記憶され易く無難です。「おばあさんの原宿」というネーミングに惹かれて敬老の日（９月１５日）に尋ねてみましたが、面白さに走ったネーミングは実態から浮いた名前だと知りました。（以上）

2008.10.13

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もんじゃ焼で成り立つ街　月島

中央区の月島は埋立地です。もともとは海州であった佃島を含む一帯の浅瀬を埋めて造成した埋立地です。埋立地を産業用に使った残りは周辺で働く人たちの住宅地になりました。月島は麗しいその名前に反して、その生い立ちからも地味で静かな下町です。埋立地の中央を通る月島西仲通はその住宅地のメインストリ－トでしたが、近年、もんじゃ焼で有名な通りとして人々の注目を浴びています。現在、数十軒のもんじゃ焼屋が並ぶ月島西仲通りは、地下鉄有楽町線の月島駅から地下鉄大江戸線のかちどき駅の近くまで伸びています。夕暮れ時なると会社帰りの人々がもんじゃ焼屋に集まってきます。ウイ－クエンドには家族連れの人々で賑わいます。もんじゃ焼屋は供向けのおやつを売る店として浅草辺りで始まりました。それは駄菓子もんじゃ屋といわれていました。しかし、今は子供向けの駄菓子もんじゃは姿を消して、大人がビ－ルや酒を飲むときの料理となっています。もんじゃ焼に似たものにお好み焼きがあります。関西や広島のお好み焼が有名ですが、大抵は板状に硬めに焼き上げて食べます。しかし東京のもんじゃ焼は、鉄板の上で熱せられた料理が未だドロドロした状態で食べるところに特徴があります。喩えて言えば硬くまで茹で上げたゆで卵と、半熟のゆで卵の違いです。どちらが美味しいかは好みの問題ですが、半熟の方が味は深くて微妙です。もんじゃ焼きの料理方法は、小麦粉を溶いた汁でまぶした具を鉄板の上に輪中のように積み上げます。その輪中の中に味付けした汁を注ぎます。その汁が沸騰するところへ周りに積み上げた具を少しずつ落とし込んで食べるのです。その料理法はしゃぶしゃぶ料理に似ています。料理してから食べるのと、料理しながら食べるのとの差です。この辺がもんじゃ焼に人気がある理由かと思います。ところで、もんじゃ焼の店だけで月島の主要街路が成り立っているというのは街造りとしては珍しい現象です。このほかでは、一業種で街路が形成されているケ－スは神田の古書街くらいです。横浜の中華街も中華料理だけで街が造られていますが、料理の種類は多様です。たった一種類の独特の料理だけで街並みが出来ているのは、おそらく月島だけでしょう。貴重な東京の名所です。（以上）

2008.10.07

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外国人観光客が興味もつ街　新宿と渋谷

写真１　新宿の街全景　遠くの超高層ビルは池袋のサンシャイン・シティビル写真２　新宿通は新宿のメインストリート写真３　渋谷１０９ビルは若者のファッションビル写真４　新宿歌舞伎町から出てくる群衆写真５　渋谷センター街の夕方の賑わい写真６　渋谷駅前のスクランブル交差点写真７　文京区本郷の旅館へ向かう外国人旅行者日本を訪れる外国人観光客は年々増えて、最近は年５３０万人に達しています。彼らに日本の何に興味があるかと尋ねたら、日本文化体験が９０％強、日本の生活様式体験が８０％弱との答えが返ってきました。（日本政府観光局調べ）また、今年始め東京都が１０００人の外国人観光客に東京のどの街に興味を持ったかと尋ねたら、新宿、銀座、渋谷の順だったそうです。外国観光客が日本的なものが存在する所として、新宿、渋谷に注目していることは意外でしたが、よく考えれば当然かもしれません。これらの街は、江戸時代から栄えた下町よりは、現代の日本を代表している場所ですから。新宿と渋谷の街は、明治後期に地方から東京へ大量に人口が流入してきて、彼らの住宅地が市中から郊外に押し出される過程で誕生しました。大正１４年に山手線が開通すると環状線の内側より外側で人口増加率が高まったとの統計がありますから、新宿と渋谷が街として形成されたのは昭和以降のことです。そこには郊外電車のターミナル駅が次々と開業し、新宿と渋谷はサラリーマンの通勤経由地となりました。新宿と渋谷は、サラリーマンという現代的で平均的な日本人が利用して育てた街ですから、二つの街の賑わいは、江戸の文化とは関わりの少ない、昭和文化の産物なのです。その意味では、冒頭の外国人観光客が「現代」の日本文化というときには、昭和文化を指しているのであり、新宿と渋谷の街がその代表格なのです。新宿駅の東側（環状線の内側）の街には超高層ビルは見あたりません。渋谷の中心部にも超高層ビルは建っていません。昭和時代に成長した、複雑に入り組んだ平面的な街並みは、超高層ビルの建設で壊されることなく残っています。（写真１）最近開通した地下鉄副都心線は渋谷、新宿、池袋の街を環状線の内側で結んでいます。この地下鉄は、山手線一本では旅客輸送が間に合わなくなったので敷かれたといいます。この地帯はそのくらい活力の溢れたところです。いま昭和文化が築いた街が東京の繁栄を引っ張っているのです。最近、東京で続々と起ち上がる超高層ビルの内側は本当に綺麗で洗練されていますが、蒸留水のように皆同じであり、文化の味がしないのです。それに比して、新宿や渋谷には蒸留されない濁酒のような複合した街の面白さが満ちています。新宿にも渋谷にもデパート、ファッション、レストラン、酒場、映画館、劇場など街の全ての機能が揃っています。（写真２、３）しかも、それらはピンからキリまで色々のレベルで存在しています。新宿ならば歌舞伎町、渋谷ならセンター街には街の猥雑さが溢れており、人混みをかきわけて歩く楽しさがあります。（写真４、５）新宿と渋谷の街は常に道を歩く人々で満ちています。老若男女、昼夜分かたず街頭に人は繰り出します。新宿より狭い渋谷では駅前の交差点は信号待ちの人々で何時も混み合っています。（写真６）日本文化体験派の外国人観光客は、宿も西欧的なホテルではなく、日本式の旅館を好みます。彼らは畳に布団を敷いて寝たいというのです。そして山の手の閑静な路地裏で営業している古い日本旅館を見つけて、そこに泊まります。そこは日本の生活様式が未だ残っているところです。（写真７）東京を見る外国人観光客は、日本人が見捨てた古き良き日本を見つける鋭い目を持っていると思いました。（以上）

2008.09.22

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秋葉原　変わるもの変わらないもの

写真１写真２写真３時代の変化に応じて街は変貌するものですが、秋葉原ほど大胆に何回もその相貌を変える街は日本では珍しいでしょう。秋葉原が東西に走る総武線と南北に走る京浜東北線が交差する地点にあり、早くから人々が頻繁に交流し、情報に敏感な土地柄だったからでしょう。秋葉原繁栄の始まりは、敗戦後、総武線のガード下にラジオ組立用の部品を売る店が集まって開業したことです。当時、ラジオは情報と娯楽を提供してくれる必需品でしたから、この商売は繁盛しました。ラジオの完成品を売るだけでなく、組立てる部品も売るという組立型の商売がその後の秋葉原の性格を作り上げました。やがて高度成長時代には三種の神器の家電製品の街として秋葉原は全国に知れ渡ります。その品揃えの豊富さと値段の安さで海外からもお客さんが来るようになります。その家電製品がエレクトニクス製品に変わっても秋葉原の人気は衰えを知りませんでした。むしろ製品が高度化すれば組立型商売の力は更に発揮されました。組立型の商売はマニアックな人々を惹き付けます。「オタク族」と言われる人々は執着心が強いので安定した顧客となり、また好奇心が強いので品目は多方面へ広がります。エレクトロニクスはハード製品からソフト製品に広がり、理工系からアニメなどの文化系へ、更には風俗へと拡大します。（写真１）電気街の広告看板は、扱う商品の変化につれて変わります。それは秋葉原が常に新しい商品を試す冒険心に満ちた商店街だからです。ビル前面の広告はエレクトロニクス製品に代わってアニメ漫画で占拠されています。（写真２）ここ数年の間に秋葉原の街の姿は大きく変りましたが、それは戦前からあった神田青果市場跡地が秋葉原クロスフィールドとして再開発されたからであり、筑波学園都市と結ぶ「つくばエクスプレス」新線の始発駅が秋葉原に開業したからです。秋葉原駅周辺に林立した超高層ビル群には開発型企業が多数入居し、秋葉原に集まる人々の層に厚みが加わりました。秋葉原はアンテナショップと言われる市場の最前線です。開発の業務は最前線で行うのが有利ですから、開発型企業が行き着く先は組立型商売発展した秋葉原でした。突然の超高層ビルの建設で街が大きく変貌するケースは秋葉原以外にも幾つかあります。最近では汐留地区や品川地区が有名ですが、そこでは超高層ビルは既存の街とは関係なく忽然と縦型の街として出現しています。超高層ビル入居者と周辺の街の住人とのビジネス上の結びつきは希薄です。しかし、秋葉原では超高層ビルの入居者は既存の電気街との関係を維持しながら発展しています。それが街に奥行きを与える形で深化しています。大通りを歩いていると店舗の裏に超高層ビルが頭を出しています。他方では、大通りの歩道を歩きながら何時でも好みの店舗に入って商品を見ることができる電気街があります。（写真３）変わるもの変わらないものが混在する秋葉原ですが、その大胆な変貌を支えているのは新しいものへの好奇心と冒険心です。売り手も買い手も、秋葉原では知的実験を試みようという気持ちになっています。（以上）

2008.09.16

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旧中山道の板橋宿の今は

写真１写真２写真３おばあちゃんの原宿と言われる巣鴨のとげ抜き地蔵通りは、昔は中山道（なかせんどう）でした。旧中山道の役割は、現在は国道１７号が担っており、「白山通」とも言います。白山通は戸田橋で荒川を渡り埼玉県に入ります。旧中山道は、その白山通に並行して昔の道幅で残っています。江戸時代、日本橋を出発して旧中山道を往くと第一の宿場町は板橋でした。江戸には四つの宿場街（新宿、品川、板橋、千住）がありましたが、板橋宿はその中でも品川に次いで賑わった宿場町でした。江戸時代、京都、大阪の上方に往くには東海道と中山道の二本の基幹道路があり、大きな川を渡らない中山道は意外に多くの旅人に利用されていたからです。しかし、明治に入り最も早く衰亡したのは板橋宿でした。東海道、東北道、甲州街道に比べて、埼玉、長野、岐阜を経由する道路は重要性が低くなりました。宿場町の衰退を見る指標の一つは、宿場につきものの花街の衰退だそうです。関東大震災の前、明治初期の火事で板橋宿の郭（くるわ）が燃えて、その後の復活はありませんでした。近郊鉄道としてはJR 京浜東北線が北に走り、東武東上線が川越街道に沿って走りましたが、その間に位置する中山道（白山通）に都営地下鉄三田線が通ったのは戦後も大分遅くなってからでした。それだけ都心部に近い割には開発が遅れ、古い形の街並みも残ったのです。JR の板橋駅西口を出て駅前本通りを行くと間もなく高速中央環状線の下をくぐります。高速道路をくぐった先が板橋不動通り商店街ですが、ここから昔の中山道板橋宿に入ります。旧中山道の板橋宿は1.7 キロに及ぶ長い宿場町で、日本橋方面から平尾宿、中宿、上宿の三つに分かれていました。今は、平尾宿が板橋不動通り商店街となり、中宿が板橋仲宿商店街となっています。二つの商店街のうち、板橋仲宿商店街だけは賑わっています。商店街の裏側には古くからの住宅地が広がっており、そこからの買い物客が多いからでしょう。（写真１）板橋仲宿商店街はだらだらした下り坂となって、石神井川に架かる板橋まで続きます。当時は、橋は土造が多く木の板で造られた橋は珍しかったので、その板橋が地名になったのです。ここから道は上り坂となり上宿が始まりますが、そこには商店街はありません。改装された板橋だけが立派な記念碑として架かっています。（写真２）上宿で有名なのは「縁切り榎」の話です。今では小さな祠が祭ってあるだけですが、江戸時代にはここに大きな榎（えのき）の木が生えていて、その木の下を通る人は縁談が壊れると恐れられていた所です。（写真３）都営三田線が開通して、板橋は都心部から近い住宅地として便利になりましたが、都心部から同じくらいの距離にある甲州街道の幡ヶ谷、笹塚の街の賑わいには遠く及びません。さりとて板橋は嘗ての宿場町だった、品川や千住ほどの変貌も遂げていません。恐らく、昔の面影を最も多く残した旧街道でしょう。（以上）

2008.09.01

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東京の重心は何処に？

写真１写真２写真３住んでいる人口の大きさで東京の重心の位置を計るとすると、江戸時代の重心は江戸城と隅田川の間にあったでしょう。明治、大正、昭和と時代が進むに連れて重心は西へ移動し、今は新宿辺りが東京の重心かも知れません。東京都の庁舎が東京駅から新宿副都心に移転したのは重心の移動を追認したのでしょう。しかし、新聞情報によると、東京２３区の人口は、平成８年まで減少が続いた後、平成９年に上昇に転じ、それ以降は一貫して増え続けているそうです。そうすると、東京都心部への人口の回帰が進み、重心は再び東へ移動しているかも知れません。都心への人口回帰については原因が幾つか挙げられますが、第一に通勤時間を短くするため職住接近へ動きが強くなっていることです。郊外から超満員の電車で毎日出勤するのでは、会社に着いたときには疲れてしまいます。高収入の幹部社員たちは、郊外の一戸建てから都心に建つ高層マンションに引っ越しています。第二の原因は、都市のアメニティは都心部ほど充実していることです。医療、教育、福祉などの必需サービスから音楽、演劇、娯楽などの文化的サービスまで、都心に住めば手近なところで利用できます。人々との交流の場もホテル、レストランなど沢山あります。第三の原因は、人口の都心回帰を容易にしたのは都心部での超高層ビルの建設を容認した事でした。平成９年政府は制限していたビルの容積率を緩和しました。それから都心部の各地で超高層ビルの建設が相次ぎました。その勢いは今も止みません。そして、政府は超高層ビルに業務機能だけが集積することを避けるため、新築ビルの一定割合を住居用やホテル用にすることも義務づけました。都市の夜間人口を増やして、街をより人々に親しみやすくしたのです。これからも人口の都心回帰は暫く続くでしょう。最後に、都心人口の集中を促進している国際的要因として東京の国際化を挙げねばなりせん。東京は時差の開きがニューヨークと１４時間、ロンドンと９時間ありますので、東京は欧米とアジアを繋ぐ程よい位置にあります。成田空港など国際空港として不十分ですが、地球規模でみる東京の位置は人物往来にとって極めて便利なところなのです。今、東京都心部では欧米系資本の高級ホテルが続々と進出してきていますが、未だ不足とのことです。東京の交流人口が増えている証拠です。空港整備が進めば東京への外国客の来訪は益々増えるでしょう。都心部の定住人口に加えて、交流人口（ビジネス、観光）も増加する一途です。そのため都心部への人口集中は予想以上に進むと考えられます。西進した東京の人口の重心は、やや東へ戻しつつあります。中心部の地価の上昇が止まらないのがそれを示しています。写真は１．六本木ヒルズ、２．品川駅海側の超高層ビル、３．六本木の東京ミッドタウンです。（以上）

2008.08.18

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隅田川を往く神輿　佃島の夏祭

写真１　写真２写真３写真４写真５写真６写真７真夏には東京でも各地で伝統の夏祭が行われます。三年に一度は特に大がかりな行事が催される祭もあります。隅田川の河口近くにある佃島の住吉神社の夏祭もその一つで、その行事は全国的に見ても独特のものです。それは三年に一度、海中の泥土に保存してある数本の大幟の柱を泥土から掘起こし、街の各所に押立てるのです。江戸時代から続く行事ですが、海水中では柱は腐らないので百年以上も使われてる柱が何本もあるそうです。（写真１、２、３）次に、佃島の住吉神社の祭りの特色は、神輿が「船渡御」と称して隅田川を回遊することです。神輿が川や海を渡る「渡御」の行事は他の祭りでも見ますが、ここの祭では、隅田川に浮かべた鉄製の筏に乗った神輿が、行列して神社のある佃島を一回りします。（写真４、５）良く知られているように、江戸城を開城した徳川家康は、干潟を島にした佃島に大阪摂津の国から漁師を呼んで住まわせ、ここで江戸前の漁をさせました。その時、大阪の住吉大社から分社したのが今の住吉神社です。時代は変わり、今や周辺は超高層のマンションが建ち並ぶ近代的な街になりました。しかし、神社の辺りには漁師島だった頃の面影もあります。佃煮はこの地の海産物を保存するため醤油で煮詰めたものですが、いまは全国的な食品になり、何軒かの佃煮屋の老舗がこの島に残っています。（写真６、７）佃島に住む若者が少なくなり、神輿の担ぎ手が不足し、近くの築地の魚河岸から若手の応援を頼んで祭りが行われているそうです。そのため、「船渡御」の規模は年々縮小していますが、伝統の祭は末永く続くことを願っています。（以上）

2008.08.12

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自然が残る江戸川

写真１　三番瀬の海苔ひび写真２　旧江戸川の水門と閘門写真３　満々と水を湛える江戸川　写真４　河原は芦原で埋まる写真５　江戸川閘門で水位調整を待つボート江戸川は、その名と通り江戸経済を支える水運の大動脈でした。東北地方から米を始め色々の物資は直接江戸湾にも運ばれましたが、利根川を経由して江戸川の河岸に陸揚げされました。しかし、江戸川は、明治に入り鉄道、陸運が発達すると水運の任務は終わり、今は千葉県と茨城県との県境を劃する境界線となりました。江戸川もしばしば洪水を起こしたので、荒川放水路と同じく最下流は放水路として開鑿されました。放水路と分かれた旧来の江戸川は旧江戸川と呼ばれて南下し、途中で新中川と合流して東京湾に注ぎます。旧江戸川と江戸川（放水路）の河口には三番瀬と呼ばれる浅瀬が広がっています。三番瀬は江戸の海苔栽培の発祥の地であり、この地の海苔は江戸前として有名でした。品川の海苔は洪水で千葉から流れ出したものと言われます。品川では栽培できなくなりましたが、千葉の三番瀬の海苔は今でも立派に栽培されています。（写真１）それだけ江戸川は水質が未だ良いということであり、荒川に負けず水量も十分あります。映画「男はつらいよ」や演歌「矢切の渡し」の舞台である葛飾柴又付近の江戸川は川幅も広く洋々と流れています。更に上流には、東京都最大の広さを誇る「水元公園」があります。「水元公園」は江戸川と中川に挟まれた水郷地帯にあり、両河川の洪水に備えた遊水池だったところです。水郷公園と言われる所以です。旧江戸川と江戸川（放水路）が分岐する付近は、水門とダムがあり川の流れを抑えているので、特に川幅は広く、河原には緑濃い芦原が広がり、大都市の近くにこのような豊富な自然が残っているのに驚かされます。（写真２、３、４）旧江戸川と江戸川（放水路）の間には水位差があり、両河川を行き来する漁船、レジャーボートなどは江戸川閘門で水位調整を経て航行します。偶々通りがかったとき、沢山のレジャーボートが閘門内で待機していました。（写真５）東京の東の外れの江戸川は、これからも豊かな自然が残る行楽地として人々の愛されるでしょう。（以上）

2008.07.26

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中川は蛇のような長い池

写真１　左から隅田川、旧中川、荒川、中川、新中川、江戸川です。写真２　戦後の台風で洪水に見舞われ、中川の土手の上にコンクリート塀を築きました。写真３　工場が住宅に置き換えられる過程を見ることが出来ます。写真４　地方の田園風景をみるかのようです。写真５　下町も大きく変わります。中川は荒川の左右に分かれて横方向に蛇行して流れています。その姿は砂漠に生息する毒蛇ヨコバイガラガラヘビの歩いた軌跡のようです。（写真１）中川は、もともと利根川から分岐して東京湾に注ぐ川の一つでした。利根本流から切離されて水量は少なくなり、平坦な湿地帯を緩やかに流下するうちに蛇行をくり返して、日本の河川では珍しい形になりました。その形から江戸時代には曲金川と言われていました。荒川放水路が開鑿されたとき、中川は途中で二つにちぎられて、東側には荒川と並行して直線で流れる「中川」と、西側には蛇行する「旧中川」になりました。その後、台風により中川が氾濫したので、江戸川寄りに直流の中川放水路が作られ、今は「新中川」となりました。中川は合計三本あるわけです。（写真１）隅田川下流の江東区は海抜零メートル地帯と言われますが、中川が蛇行している辺りは、川面より周囲の地面が低いので、洪水を防ぐため両岸は高いコンクリートの堤防で護られています。従って、川面を見るには土手に登らねばなりません。（写真２）中川の流域は、江戸時代には市内への野菜類の供給地として開拓され、明治以降は中小企業の工場地帯になり、今は都心に近い住宅地として開発が進み脚光を浴びています。中川の川縁には工場から住宅に移り変わる途中の情景を見ることができます。（写真３）嘗て、工場地帯であった頃は汚れていた中川の水は確実に綺麗になっています。レジャーボートが水しぶきを上げて走り、釣り人が糸を垂れています。わざわざ遠くまで出かけなくとも都心近くに美しい自然が戻ってきました。（写真４）特に、荒川の西側に分断された旧中川は、川岸が公園のように整備され、水鳥たちは泳ぎ、子供達が遊んでいます。蛇行する旧中川は自然の川ですが、公園内を静かに流れる池のようです。川の周辺にはマンションが続々と誕生しています。（写真５）嘗て、洪水や工場公害に悩んだ中川流域は新しい住宅都市に生まれ変わりつつあります。（以上）

2008.07.17

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荒川は荒れ川だった

写真１　船堀橋から都営新宿線の鉄橋を臨む。写真２　足立区内を流れる荒川で水上スキーを楽しむ人々。写真３　川の見える野球場には家族連れの見物人。　写真４　都営新宿線の鉄橋で荒川の風景は変わった。写真５　東大島の荒川沿いのマンション群。荒川は秩父山塊に水源をもつ大河です。利根川がその出口を東京湾から千葉県の銚子に変えた後、東京湾に注ぐ最大の川となりました。大宮から浦和に至る荒川の河川敷にはゴルフ場が沢山ありますが、これらのゴルフ場は急激に川が増水したとき遊水池として役立つのです。広い流域を擁する荒川は、しばしば洪水を引き起こし、川筋を変えた川です。その名の通り荒れる川でした。明治４３年（1910）、長雨のため荒川とその下流であった隅田川は氾濫し、東京と埼玉に甚大な水害をもたらしました。そのため荒川の水を直接東京湾に注ぐ荒川放水路が開鑿されます。荒川放水路という名の荒川は、素早く水を東京湾に放流するため真っ直ぐ南下し、蛇行する中川を分断する形で造られました。荒川について洪水の被害ばかり強調されましたが、さいたま市の秋ヶ瀬取水堰に溜められた水は、東京都民の生活水の供給源として使われており、都民はその恩恵に与っています。また、荒川は、東京都を流れる川の中では川幅も広く水量も多いので、秋ヶ瀬取水堰付近までは海と内陸部をつなぐ水運にも使われています。しかし、内陸運送が発達したため今は水運の利用は少ないようです。荒川はいつ見ても閑散としており、過密の東京の中で唯一自然の豊かさを感じさせてくれます。（写真１）荒川は都市の河川としては水質は良くレジャーに好適です。水上スポーツを楽しむには格好の場所ですが、広大な川面に時々水上スキーや水上モービルを見かけるだけで、未だ十分に利用されているとは言えません。（写真２）また、荒川の広い河川敷はゴルフ場ばかりでなく、色々のスポーツを楽しめるところです。下流の河原には野球場などのスポーツ施設があり、休日には何時も野球少年で賑わっています。（写真３）しかし最近、荒川沿いで目立つ変化は、高層マンションが建ち始めたことです。その変化は、都心部を貫通した二本の地下鉄、都営地下鉄新宿線と地下鉄東西線が東に延びてきて、荒川の手前で地上に出て荒川を鉄橋で渡り、更に千葉県まで通じたからです。（写真４）荒川付近から東京都心へは２０～３０分で行けます。東京の西や北の既存の郊外住宅より遙かに便利な住宅地が生まれたのです。大きな工場地帯の跡地は大規模な再開発が可能です。大規模なマンション団地も生まれました。また大島小松川公園のようなレジャーと共に災害時の避難場所も確保されています。（写真５）今まで荒川を渡る鉄橋（常磐線、総武線、京成線、東武線など）は海岸より内陸寄りでしたが、ここ十数年で上記の地下鉄新宿線、地下鉄東西線、更にJR 京葉線の鉄橋が海岸寄りに架かりました。今まで公的交通機関が少なかった江東区と江戸川区の南部は、これから魅力的な住宅地に生まれ変わるでしょう。そのとき荒川の自然環境を維持し、隅田川のような余裕のない川辺にしない努力が望まれます。（以上）

2008.07.10

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原宿の脇役キャットストリート

写真１写真２写真３写真４東京地下鉄副都心線の開業で、いま池袋、新宿、渋谷の山手線内側の地域は沸き返っています。人の流れが池袋と渋谷から新宿に加速するとか、都心部のデパートは新宿西側のデパートに客を奪われるとか、乗客が素通りする池袋では長年のライバル・デパートの西武と東武が共同戦線を張るとか、新聞紙上を賑わしている話題です。しかし、地下鉄副都心線の開通で最も潤うのは、実は原宿地域だと思いますが、余り指摘されていません。原宿というと、先ず初詣ナンバーワンの明治神宮があることで有名でしたが、その後竹の子族、竹下通りなどの若者のイメージが強くなりました。更に、９０年代から明治神宮への表参道がファッション・ストリートとして注目され始め、２００６年に同潤会青山アパートの跡地に表参道ヒルズが改装オープンして、その流れを決定づけました。表参道の強みは表通り一本だけでなく、その裏側の小径にも随所に小型のファッション・ストリートを持っていることです。その代表格がキャットストリートです。この小径は、嘗て渋谷から表参道に行く住宅地内の抜け道でした。それが、いつの間にか小型ファッション・ストリートに変貌しています。（写真１）考えてみると、原宿は、世界ブランドがひしめく表参道を軸にして、嘗ての竹の子族が産んだ若者の街の伝統を維持しながら、自由が丘とか下北沢という街が持つ庶民的でお洒落と寛ぎのある裏通街も併せもっています。老舗の繁華街である日本橋や銀座とも違い、新興の高層ビル街の丸の内、汐留、品川とも違い、東京では最も質の高く心休まる街の中の街が原宿周辺です。そして、郊外電車の小田急線（千代田線）、田園都市線（半蔵門線）とつながり、今回は西武線、東武線（有楽町線）とつながりました。４年後には東横線ともつながります。こうして原宿は、千葉県、神奈川県、埼玉県とも直接つながりました。今回は、原宿の脇役としてグレードアップしたキャットストリートをご覧下さい。（以上）

2008.06.16

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エコビルが銀座通りに並ぶ時

六本木のグレースビル南青山の風花東京丸の内のビル街下町の路地裏都市中心部の気温が郊外より高くなる現象をヒートアイランド現象と云います。ビルが集中する東京の中心部ではこのヒートアイランド現象は早くから問題になっていました。今や都心部ではコンクリートの高層建築物が続々出現していますから、このヒートアイランド現象は今後も益々激化するでしょう。高層ビルでは多くの冷房装置を使い熱を排出しますから、その周辺の気温は当然上昇しますが、それ以上にコンクリートの建築物は、その屋上や壁面が昼間に太陽熱を吸収して蓄積し夜間にそれを放出するので、夏には夜でも都市の気温が下がらなくなります。ヒートアイランド現象の残熱が積み重なって、夏には熱帯夜（摂氏２５度以上）が毎夜続くことになります。そのため人々は夜も冷房を掛け続けますから夜間の気温が下がるのを遅らせます。こうして都市住民には眠れない夜が続きます。今やヒートアイランド現象は深刻な問題になっていますが、その有力な解決方法一つは、ビルに太陽光が直接当たらないようにすることです。東京都では既に自然保護条例を施行して、新規の建築に際して緑化計画書（地上部及び建築物上の緑化についての計画書）の提出を求めています。その中で屋上緑化を推奨しています。しかし、ビルが高層化すれば屋上よりも壁面の面積が大きくなり、屋上だけの緑化では間に合わなくなりました。そこでビルの壁面も緑化する動きが出ています。壁面を緑化する方法としては、ビルに蔦などを這わす方法が古くからありましたが、植物の根がビル本体を破壊する働きがあるので、それ程普及しませんでした。ビル本体を痛めずに壁面を緑で覆う工法も色々考案されていますが、工作物が露出したり、緑化の一区画が小さかったりして、外観が良くないことに不満が残っていました。ところが、最近、緑豊かな草地が壁面に垂直に立上がったかのような、緑化ビルを見つけました。六本木ミッドタウンの近くにあるグレースビルと南青山の小径にある風花東京のビルです。草花が地面から生えるように壁面にびっしり生えています。（写真１、２）丸の内のビル街にも緑化ビルは出来はじめましたが、大きなビルに小さな緑面で、生えているというよりも貼り付けたという感じで、未だ寂しいです。（写真３）勿論、これでもヒートアイランド対策として効くのでしょうが、六本木や南青山のように壁に草木が茂るという位に生やさないと、目には涼しくはなりません。このような緑の壁面を建設し維持管理するには、恐らくかなりのコストが掛かるでしょう。これが直ちに広く普及することはないでしょうが、建物のファサードにカネを掛ける余裕があれば、宣伝効果が抜群のエコビルを建てることをお薦めします。下町の路地裏では、昔から家の前に小さな庭を作る習慣がありました。この頃は家の前面に立体的な花壇が生まれています。（写真４）銀座通りのビルのファサードを緑の草花で飾るエコ運動を起こしては如何ですか？　実現すれば緑の中の銀ブラができます。（以上）

2008.05.23

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墓地の桜

写真１　青山墓地写真２　谷中墓地写真３　谷中墓地写真４　青山墓地上野の山、隅田川縁、飛鳥山は江戸時代からの桜の名所でしたが、隠れた花見の場所として墓地があります。その中でも青山墓地や谷中墓地は早くから桜の名所として知られていました。山本夏彦氏は、昭和５４年の「勲章」というエッセイで書いています。戦災の焼跡に家々が立ち並んだ昭和３０年頃、爛漫と咲き乱れる青山墓地の夜桜を仰ぎ見て、はじめて桜を美しいと思ったと。そして、墓地内を歩いていたら、墓の前に毛せんを敷いて老若が酒盛りをしているのを見つけ、彼らがひそひそと静かに話している様子から供養の花見と断じています。以来、氏は花見は墓地がよいと人に勧めています。墓前でご先祖様と飲食を共にして供養するしきたりは、韓国でも見たことがあります。家族総出で正月の祝宴を墓前で行っていました。孝を重視する儒教の教えは日本も韓国も同じだったのだと思いました。しかし、現代の墓地の花見は先祖の供養とは関係ないようです。上野、隅田川、飛鳥の花見場所が混み合うので、そこから溢れ出た人々が青山墓地や谷中墓地で花見の宴を開いています。昼間から墓地の隙間にブルーのシートを敷いて賑やかです。（写真１、２）青山墓地は明治政府が外人墓地として造営したものですが、谷中墓地も明治政府が天王寺の境内を没収して造ったものです。共に古い墓地で、そこに植えられた桜の樹も殆どが古木です。墓地内の狭い通路は古木の並木道です。（写真３）桜は花を愛でるものですが、黒々とした太い古木もいいものです。ソメイヨシノの花は白いので、樹幹の黒は引立て役になるからです。しかし、桜にも寿命があり、６０～７０年と言われています。明治に植えられた桜は既に二代目かと思いますが、二代目も既に老いて手当を受けています。（写真４）それはともかく、墓地で花見の酒盛りをされては、故人たちもゆっくり寝ておれなくなります。この世の混雑があの世の静けさを乱して、なおこの世の人々は気付かないでいます。（以上）

2008.04.12

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東京駅を取巻く超高層ビル群を概観する

写真１　八重洲口から見た二棟の丸ビル写真２　丸の内側から見た二棟のグラントウキョウ・ビル写真３　改築中の煉瓦造り駅舎写真４　旧大丸デパートとグラントウキョウ・ノースタワー写真５　八重洲駅前の雑居ビル東京で超高層ビル群が集中的に建設されたのは、１９６０年後半の西新宿副都心が最初でしたが、１９９７年に都市部の容積率を大幅に緩和されると、都心部で超高層ビル群の建設ラッシュが始まります。建設ラッシュは六本木、丸の内、八重洲口、汐留、品川などで行われ、今も続いています。これら超高層ビル群の多くは、鉄道用地絡みです。汐留、品川は嘗ての操車場跡地を利用しましたし、丸の内、八重洲口は東京駅の上空空間を利用しています。中でも東京駅を取巻く丸の内と八重洲口の超高層ビル群は、六本木、汐留、品川などを圧倒する大規模なものです。東京駅が全国交通網の基点であるという立地上の優位性があること、そして以前から大企業の本社機能の集積地であった実績があることからして、これは当然のことです。また、都心部の容積率の制限緩和は、都心部への住居回帰を促進するものでしたから、ほかの超高層ビル内には多くの高級マンションが作られましたが、業務機能が集中する丸の内と八重洲口の超高層ビルは、殆どが事務所スペースで占められています。そのためか、超高層ビル群の上層階には展望フロアーやレストランはなく、一般の人が東京駅周辺の都市風景を上空から眺望するには、上層階に入居したホテルのレストランに入るほか方法はありません。写真では、ここ数年間に生まれた東京駅を取囲む超高層ビル群をご覧に入れます。先ず、二つの丸ビルですが、「丸ビル」が「新しい丸ビル」（2002年）に、「新丸ビル」が「新しい新丸ビル」（2007年）になりました。戦前の昭和時代に建設された「丸ビル」「新丸ビル」は、上層階はオフィスでしたが、低層階はショッピングのフロアーにした当時としてはモダンなビルでした。その伝統は、今回の二棟の超高層丸ビルでも生かされていますが、今回は更にオフィス機能の重視は強まり、レストラン、ショッピングの多くは地下層に集中しています。この二棟の丸ビルのほか、東京駅の丸の内側広場に面しては、既に丸の内オアゾ、日本生命ビルがあり、現存の中央郵便局の低層ビルも近く取壊されて超高層ビルに再建されるでしょう。そうなると、東京駅の丸の内側に降り立つ人々は、ビルの壁で囲まれた広場を見ることになります。次に、八重洲口側に建設された二棟の超高層ビル「グラントウキョウ・ノースタワー」「グラントウキョウ・サウスタワー」は、東京駅八重洲口の北端と南端に立っています。丸の内ビルが突き立った東京駅の二本の角（つの）ならば、グラントウキョウ・ビルは大きく広げた東京駅の二本の両腕のようです。（写真１、２）考えてみると東京駅は不思議な発展を遂げました。最初から東京駅の表玄関は丸の内側であり、八重洲口側は勝手口でした。丸の内側に表玄関としての煉瓦造りの立派な駅舎が造られたのは、丸の内側が皇居に面しているということもありますが、三菱財閥が所有地の丸の内側を大規模開発したいということも影響したのでしょう。当初は東京駅の表裏の格差はひどいものでしたが、やがて大丸デパートが駅の勝手口に進出して商業機能を充実させ、江戸以来の伝統的商業機能の集積地、日本橋との間にビルも建ち、多くの中堅企業が立地するようになります。東京駅周辺の超高層ビルとしては、上記のビルの外に、北からサピアタワー、丸の内中央ビル、丸の内トラストタワー、パシフィックセンチュリー、東京ビルなどがあります。その他にもまだまだ超高層ビルは建ち続けるでしょう。辰野金吾が「中央停車場」として設計した煉瓦造りの東京駅は、当初は三階でしたが戦争中に焼けて二階となりました。いま、当初の原型に戻すべく改修工事中ですが、２０１１年に工事が完了する頃には、丸の内東京駅はビルの谷間の歴史的建造物になるでしょう。（写真３）また、八重洲口中央にあった大丸デパートは、既に「グラントウキョウ・ノースタワー」に引越して、既存の大丸デパートビルは取壊され、新しい東京駅八重洲口駅舎が建設されます。新しい八重洲口駅舎は、赤煉瓦造りの丸の内駅舎と同じ高さの三階建の低層にして、八重洲通りから入る海風を丸の内の行幸通へ通して、皇居へ流れるようにするとのことです。（写真４）東京駅周辺の開発は、首都の行政を預かる東京都と東京駅を所有するJR東日本の最大の関心事です。両者は開発計画の骨子について数年前に合意しており、その枠組みのなかでこの地域の不動産開発は行われています。最後に、八重洲口駅前には、原色鮮やかな看板で彩られた雑居ビルが建っています。街の色彩を統一して調和を図ることの希な日本の都市ではよく見るビル風景ですが、八重洲口駅ビルが新装なって完成したとき、その是正を求める声が上がることを期待しています。（写真５）（以上）

2008.03.03

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世界貿易センタービルから見た東京

写真１写真２写真３写真４写真５ニューヨークのワールド・トレード・センター（世界貿易センタービル）は２００１年９月１１日の同時多発テロにより崩壊し姿を消しました。もう一つの世界貿易センタービルは東京は浜松町に立っています。日本の戦後高度成長が終りに近づいた昭和４５年（1970）に完成しました。いま東京では超高層ビルが続々と立ち上がっていますから、現在は目立たない存在になりましたが、建設当時は、東洋一（152m）の超高層ビルと言われました。因みに東京の超高層ビル第一号は霞ヶ関ビル（昭和４３年1968）であり、世界貿易センタービル（昭和４５年1970）は第二号です。その後、新宿西口の超高層ビル群が続々立ち上がりました（1970年代～1980年代）。池袋ではサンシャインシティ（1978）も建ちました。世界貿易センタービルのある浜松町は、東海道品川宿と江戸城の間にあって、日比谷の入江埋立地に続く埋立地として開けたところです。１６世紀末、徳川家の菩提寺増上寺が建てられて、城下町として発展します。幕末に来日した西欧人が、近くの愛宕山山頂から撮影した当時の江戸の街は、黒い瓦屋根と白い塀が続く美しい街並みでした（その写真は江戸東京博物館で見れます）。しかし、それから百数十年後の東京の街は如何に変化し発展したかを眺めようと世界貿易センタービル４０階の展望室に昇りました。写真１　新橋方面を見ますと、右手に汐留超高層ビル群が目につきます。正面奥には日比谷公園の緑が僅かに見えますが、超高層ビル群は新橋から日比谷、虎ノ門へ向けて伸びています。JR 線路の右側手前は、大小様々の低層ビルで埋められています。これは混沌を絵にしたような光景です。写真２　左に目を移して遠方を拡大して見ると、超高層ビルが乱立している様が分かります。東京には都市計画がありませんでしたから、皆が建設できる土地を確保すると、夫々のビルを思いのまま建てた結果がこの姿です。新宿西口だけは広大な淀橋浄水場跡地を総合開発したので一定のまとまりを感じますが、その他の地域の超高層ビル建設では、空中における相互の風景的関係を考えた形跡は全くありません。欧米からきた建築のデザイナー達は、日本では殆ど制約なく思いのままの形態の建物が認可されるのに驚き、戸惑うそうです。写真３　更に左に目を移して広く眺めると、東京タワーと足下の増上寺が目にとまります。東京タワーの左奥の大きなビルが六本木ヒルズであり、右側の高いビルが東京ミッドタウンのタワー棟です。画面中央奥にかすかに見えるのが西新宿の超高層ビル群です。写真４　世界貿易センタービルには、羽田空港と都心を結ぶモノレールの始発駅があります。ビルが出来た頃は、羽田空港は国際空港でしたから、モノレールを使えば世界貿易センタービルは世界に直結するオフィスビルで、臨空オフィスとして注目を集めました。今でも国内各地に飛ぶのに便利ですが、羽田空港がアジアへの国際空港になれば、このビルは再び重要性を増すでしょう。写真５　世界貿易センタービルの足下に芝離宮公園があります。このブログ「江戸の遺産　海に繋がる庭園（08.01.13）」で既にご紹介したように、小さいけれど由緒ある庭園です。隅田川の河口に位置し、竹芝桟橋、即ち日本の主要な国際貿易港のひとつである東京港が直ぐ近くにあります。レインボーブリッジの見える広い隅田川河口は、世界貿易センタービルから見る風景の中で唯一心休まる景色です。（以上）

2008.02.15

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路地裏に作られた庭

路地裏と言っても路地は公的な道路であって私的な庭ではありません。しかし東京の下町では、しばしば公道の一部が個人の庭のように植木や草花で埋められているところがあります。そして、結果として路地が周辺住民の共通の庭になっています。江戸時代には、江戸の土地の７０％は武士達が使い、寺社と町人には夫々１５％位しか与えられなかったそうです。徳川家と各大名は江戸内に大きな屋敷を構え、武士達にもそれ相当の屋敷は与えましたが、町人達は僅かな土地に長屋を作って密集して住んでいました。従って、江戸の下町の路地は長屋の住人の広場であり、共有の庭でした。当時から何がしかの植木や草花が植えられ、路地には公私の区別など無かったでしょう。時代は東京に代わっても、路地が周辺住民の共有の庭だという習慣は生き続けました。下町では住宅が密集しているので、各自に自分の庭を持つ余地はありません。そこで家々では路地に面する玄関先に、おのおの鉢植えの植木や草花を並べています。共同で計画して一つの庭を作ろうという意識は希薄ですが、何時の間にか路地が細長い庭になるという具合です。都市計画で道路や公園を作る西欧人から見ると、この路地の庭は不思議な存在です。計画された訳でもないのに道路上に調和した庭空間が生まれ、そこの住人も外部の人も自由に出入りできると言うのは不思議なことなのです。しかし、下町に住む人々にとっては、この路地庭園は見慣れた光景です。毎朝毎夕、住人達はその路地庭園の世話をし、観賞して満足しています。通行人は質素で平凡な、しかし緑のある路地庭園を、当然のこととして通り過ぎていきます。住んでいる人も、歩く人も至極当然と思うこの路地庭園は、初めて見る西欧人には人間的安らぎがあると感じるそうです。大都市ではヒートアイランド現象と言って、夏に気温が高くなり、夜になっても温度が下がらない日数が増えています。しかし、この路地庭園には樹木や草花があり、それに水を打つことで、地域的にはヒートアイランド現象を緩和する効果はあるようです。昔からの智恵が今に生きています。小さな箱に庭の模型を造り楽しむ箱庭という趣味があります。また、小さな鉢に大木を縮小して生育させて楽しむ盆栽という趣味があります。これらの趣味は実生活の外で行われる趣味であり、実生活の場を飾る路地庭園とは異なるものです。しかし、箱庭や盆栽が路地庭園と混ざり合って、その一部を構成しているところもあります。路地庭園の中に箱庭や盆栽が埋め込まれているのです。そうなると、路地庭園は益々きめ細かく洗練された庭園に変化していきます。路地庭園も進化しています。（以上）

2007.11.07

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日暮里駅の東側の変貌

写真１　建設中の日暮里・舎人ライナー写真２　ビルに入った駄菓子屋写真３　日暮里繊維街風景先に日暮里は二つの顔を持つと紹介しました（「二つの顔を持つ日暮里」07.07.11 ）。そして駅の西側は歴史と伝統の街ですが、東側は明治時代に東北地方から上京した人々が住み着き、江戸時代とは異なった下町を形成したと述べました。今、その東日暮里地域が大きく変貌しようとしています。少し前までは、駅前には現代的にビルなど一つもなく、平屋の商店、町工場が連なる街でしたが、今は高層ビルが次々と建設されており、下町の風情は消えつつあります。それは「ゆりかもめ」のような高架軌道線、日暮里・舎人（とねり）ライナーの始発駅が駅東側に建設されているからです。（写真１）戦争直後、日暮里駅の直ぐ東側には闇取引の砂糖で作られた菓子を扱う商店が集まって菓子の問屋街が生まれました。やがてそれは日暮里の菓子玩具問屋街として成長しました。その後、駄菓子屋問屋街として人々に親しまれていましたが、つい最近、ライナー駅の建設のため取り壊されました。今は、二軒の駄菓子屋が少し離れたビルの中に残っているだけです。（写真２）駅東側のロータリーから東に延びる日暮里中央通は日暮里繊維街です。馬喰横山の衣料問屋街が江戸時代の流通の拠点に生まれた問屋街であるのに対して、この繊維街は明治時代の上京者により生まれた問屋街です。馬喰横山がファッション性のある商品を扱うのに対して、日暮里の繊維問屋街は庶民的な衣料、生地などの原材料を得意としています。この日暮里の繊維問屋街は、戦中戦後の一時期、使用済み衣料の再生品を取り扱うことがありましたが、今はファッション衣料も扱う店が増え、日暮里繊維街の街並みも整備されました。（写真３）これらの問屋街は、初めは業者相手の卸問屋でしたが、今では個人消費者にも売る問屋が多く、卸問屋と言っても一般消費者が沢山押しかけています。築地の魚市場に素人が通い、合羽橋の台所道具問屋街は素人で賑わうように、問屋街と言っても、上野のアメヤ横町や神田の古本屋街と変わりはなく開かれた商店街です。近く開通する日暮里・舎人ライナーは、尾久橋通りに沿って北上し、足立区の北部にある舎人まで伸びます。この地域は東北線と常磐線の間にあって、私鉄の東武伊勢崎線と埼玉高速鉄道線の利用にも不便であり、都内では鉄道便の悪い地域でしたが、このライナーの開通で都心へのアクセスは良くなります。ライナーのターミナル駅となる日暮里駅周辺は、今後、数年で大きな発展を約束されています。（以上）

2007.11.02

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変わる高層ビルの形

写真１　コレドビル写真２　品川インターシティビル写真３　愛宕グリーンヒルズ世界の大都市は何処でも高層化が進んでいますが、高層化の過程でビルの形にも変化が現れています。数年前、ロンドンやマドリッドの街でロケットのような形の高層ビルを見て、なんと奇抜な発想かと驚きましたが、今や、東京の中心部でも、円形や紡錘形のビルが目立ち始めました。人類が家というものを建てたときは四角形が原則でした。建築材料と建築技術の制約から、ビルは四角型という伝統は長い間続きました。建物の内部も四角形の方が使い勝手はよいので、経済性から見ても敢えて四角形を変える必要性はありませんでした。ビルの高層化は、この考えに変化を与えたようです。ビルが高層化すると遠方からその全貌が見えるようになり、人々は都市空間を意識するようになります。一本や二本の高層ビルでは感じませんでしたが、十本、二十本と似たような四角形の高層ビルが立ち並びますと、それらが作る空間造形は機械的で無機質で詰まらないものになります。また、数多くの高層ビルが密集しますと、人間の目に映る都会の空間は狭くなります。高層ビル群は、地上を歩く人々を押さえつけるような圧迫感を与えます。ニューヨークのマンハッタンを歩いたことのある人は、このことを実感したと思います。少し前から、東京の都心部に幾つかの紡錘形の高層ビルが建ち始めました。最初に人目を引いたのは有名な紡錘形の六本木ヒルズビルでした。丘の上の高いビルですから、四方八方から眺めることが出来ます。また、日本橋の東急デパート（旧白木屋）跡にコレドビルが建て替えられました（写真１）。東京の旧市街地のど真ん中ですから、直線だけのビル群の中で前面が曲線のコレドビルは目立ちます。品川駅の海側に数本の超高層ビルが建ちました。その中のインターシティ・ビルは楕円形のビルです（写真２）。同じ区域に同時に建てられたビル群の中でも際だったスマートな姿です。芝の愛宕山付近にも愛宕グリーンヒルズと言う紡錘形の高層ビルが二棟建てられました（写真３）。東京タワーに近いので、この付近の空間風景に綾を付けています。スカイラインは、高層ビルが形成する姿を遠くから眺めて見るものです。それは鳥瞰的風景として昔から話題になっていましたが、街路を歩く人々が空間の造形を話題にすることは、今まで少なかったと思います。これからは、都市の外形的個性を示すものとして、個々のビルの姿態も重要になっていくでしょう。（以上）

2007.10.27

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東京海浜のバードサンクチュアリー

写真１　レインボーブリジの近くに第６台場が残された。写真２　立入禁止となった鳥たちの浅瀬の入江　大井埠頭中央海浜公園写真３　入江の奥には小鳥たちを驚かせないための小鳥観察小屋がある。東京の開発は、内陸部から海浜部へ押し出すように進んでいます。これは近年始まったことではなく、東京は遠く江戸時代から海へ向かって広がる都市でした。江戸城が築かれた頃は、皇居前広場は海浜であり、日比谷は入江であったと言われます。徳川幕府は、城の前面に広がる湿地帯に水路を開削して水捌けを良くし、海には杭を打ち込み新たに土地を造成しました。そこに下級武士達を住まわせ、町人達に商売や漁業を営ませました。明治以降、東京の街も工業化の舞台となり、臨海部は大規模な埋め立てが行われて、製鉄、造船、石油精製などの重工業地帯が生まれました。やがて公害問題が深刻になり、昭和５０年代には重厚長大型の産業が撤退し始め、他方では、同時に東京港を整備するとき海底を掘削した土砂を使って広大な埋立地が造成されます。お台場はその埋立地の上にあります。この時期を境にして、臨海部の産業構成は大きく変化を遂げます。港湾業務に関わる流通産業は引き続き拡大しますが、新たに通信・情報産業、研究開発産業、商業・レジャーなどの第三次産業が主役として登場します。その際、臨海部の一部を自然のまま残す努力も行われました。先ず、砲台跡として唯一残された第６台場（写真１）はバードサンクチュアリーとして人間の立入禁止の地域となりました。また、品川寄りの京浜運河に面する場所にもバードサンクチュアリー（写真２）を設けました。これらは人間が近寄れない地域ですが、その他にも海浜部に鳥たちの森も整備されました。海浜地帯の小鳥たちの栖（すみか）としては、既に浜離宮公園があります。その公園の奥には自然のままの森林が残されています。このような自然の森林を東京湾の海岸沿いに大規模に造成していくと、東京の環境は大いに改善されるでしょう。（「森のお台場に」2006.05.10で既に述べました）２０１６年の東京オリンピックのデザイン全般を任された安藤忠雄氏は、昨年９月のテレビ放送で、東京リフォームには、全ての埋立て地を森に変え、現在と100年前とが同時に存在する都市にすると言っていました。そうする方が人間は精神的に落ち着くとも言っていました。バードサンクチュアリーは、鳥にとって落ち着ける場所です。臨海部に自然の森林地帯を取り戻して、人間も都市の近くに落ち着ける場所を設けたいものです。（以上）

2007.10.09

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高層ビル街の神輿　熊野神社

秋はお祭りの季節です。思わぬ所で交通渋滞に遭遇すると、その道の先で祭りの神輿が練り歩いています。神輿をかついでいるのは氏神神社の氏子（うじこ）たちです。氏神神社には氏子域（うじこいき）という縄張りがあって、その縄張りの中に住む者は皆その神社の氏子です。今も各地で盛んに執り行われるお祭りは、もともとは氏神に対する収穫感謝祭です。氏子に担がれた神輿は、鎮守の森に参拝して豊作に感謝すると共に、神社の神主から常日頃の罪や汚れの禊ぎを受けます。どこの祭りでも神輿を担ぐ人々の衣裳は、法被（はっぴ）と地下足袋です。収穫感謝祭ですから農作業の姿です。新宿の総鎮守である熊野神社の氏子域は、大変広くて、新宿西口方面だけでなく、山手線の内側の歌舞伎町にまで及びます。また、熊野神社は歴史も古く、室町時代に、紀州の熊野三山の御本体の全て、十二所をお祀りしたのが始まりです（この付近を十二社という由来です）。しかし、熊野神社の周辺は急速に開発が進み、東京では最初に超高層ビル群が建設されたところです。熊野神社の神輿はこの超高層ビルの合間を縫って行進します。神輿を担ぐ人達の衣裳は昔ながらの法被と地下足袋です。その伝統的衣裳は、確かに粋（いき）で格好良いのですが、高層ビルの街の中では異様に感じられます。最新の流行ファッションで着飾った大勢のご婦人が、田んぼのあぜ道を行進している風景を想像してみて下さい。何処かミスマッチだと思うでしょう。鎮守の森から生まれた神輿が、伝統的な衣裳の人々に担がれて近代的な高層ビル街を練り歩く姿は、そのミスマッチに似ています。考えてみますと、神輿は氏子が住んでいる村や町を練り歩くものでした。何故なら氏子が氏神様に対して感謝を伝えるのが神輿の行列でしたから。氏子が住んでいない超高層ビルの谷間を神輿が練り歩くのは、意味のないことです。このミスマッチ感は、伝統的な衣裳と高層ビルが不釣り合いだからではなく、信仰の精神に合わない所から生じているのです。個人商店街には氏子が居ますが、法人だけが入居している高層ビル街には氏子はいません。法人は寄付はしますが、氏子にはなれません。都市の超高層化は住居としての街を空洞化させましたが、同時に、氏神信仰をも空洞化させています。歴史の古さと氏子域の広さで東京でも屈指の熊野神社は、街の信仰の空洞化に悩んでいます。（以上）

2007.09.27

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東京で住みたい街　吉祥寺と自由が丘

井の頭公園の散歩道　写真１井の頭公園の池　写真２田園調布の並木道　写真３東京の何処に住みたいかとアンケート調査すると、２３区内と思いきや吉祥寺と自由が丘が断トツでトップを争う結果になるそうです。住宅地は都市の中心部よりも少し離れた周辺部に人気があります。吉祥寺と自由が丘の共通点をあげてみますと、奥さん方に必要なデパートや商店街があり、子供達のための幼稚園や学校が身近にあり、高齢者や緊急時のための病院が数多くあり、住宅地内に樹木が多く公園などの憩いの場所が近くにあることです。先ず吉祥寺ですが、その歴史は大変古く、水道橋にあった吉祥寺が明暦の大火で消失したとき、その門前町の住民達が武蔵野のこの地に移住して吉祥寺村は誕生しました。お寺そのものは近くの小石川に移転して武蔵野には来ませんでしたので、吉祥寺には吉祥寺という寺はありません。吉祥寺の街に隣接する井の頭公園には、武蔵野湧水が作った大きな池があります。神田川の水源ですから何時も満々と水を湛えています。移住してきた吉祥寺の門前町の人々は、この水源を頼りに農業を営んだのでしょう。井の頭公園は、今でも吉祥寺の街の住民にとって無くてはならない憩いの場所です。（写真１、２）国電の中央線は三鷹までは早い時期に電化されましたので、吉祥寺は都心へ行くのは便利でしたし、その後は、地下鉄東西線が中央線に乗り入れて益々便利になりました。また、私鉄の井の頭線は吉祥寺と渋谷を結んでいて、吉祥寺の都心へのアクセスは二重に確保されています。この交通の便利さは、吉祥寺に文化人や芸能人を住まわせる条件を作りました。やがて吉祥寺は武蔵野のサブカルチャーの中心地になりました。他方、自由が丘の歴史は吉祥寺よりは新しく大正時代になってからです。大正モダニズムの気風のなかで、関西では小林一三が箕面、千里山などで住宅地開発を進めましたが、関東では渋沢栄一が洗足や田園調布の住宅地の開発分譲を始めました。田園調布の街は、昭和の初めに目蒲線沿いの多摩川台付近に開発された、やや高級の住宅地として有名になりました。田園調布駅前の半円形のロータリーは、当時としてはモダンでした。駅前ロータリーから放射線状に伸びる、三本のゆったりした並木道路は、この地を住宅公園のようにしています。やがて扇状に広がる高級感のある住宅地区には有名人や芸能人が大勢住むところとなりました。（写真３）自由が丘の街は、田園調布の住人達のための商店街として成長してきましたから、二つの街は隣接していて一体です。二つの街は、私鉄の東急東横線の駅では隣同士です。東横線には地下鉄日比谷線が乗り入れ、続いて東急目黒線も乗り入れました。日比谷線は都心部を貫いて上野方面に抜けます。目黒線は地下鉄三田線および地下鉄南北線につながり都心部を通って巣鴨、駒込方面に抜けます。自由が丘と田園調布の街は、都心部に出るのに極めて便利なところとなりました。こうして見ると、住みたい街に吉祥寺と自由が丘が挙げられるのは、住環境に恵まれ、都心へのアクセスが便利であると言うことになり、当然と言えば当然のことです。しかし、街の住環境だけを見ると、吉祥寺や自由が丘の街よりも優れた街は外の地域に幾つもあります。都心へのアクセスの便利さを別にして、それでも人々がこの二つの街にこだわるのは、そこには人々が長年住み着いて生活した蓄積があるからです。それは街の歴史と伝統とでも言うべきものです。吉祥寺や自由が丘の街の個性が人気の秘密なのでしょう。（以上）

2007.09.21

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広告の美醜

和光ビルのショウ・ウインドウはミニ美術館銀座四丁目を闊歩する広告塔トレーラー東京の繁華街の目玉と言えば銀座四丁目の交差点です。その角に和光ビルがあります。昔は服部時計店という時計屋さんのビルでしたが、今は和光ビルと言い、時計だけでなく高級ブランド品を幅広く販売する東京ファッションの発信基地となっています。和光ビルのショウ・ウインドウは、商品の展示場というよりモダンアートの展示場のようです。定期的に装いを替えるウインドウ装飾は、道行く人々の目を楽しませてくれる小さなモダン美術館です。ですから銀ブラ族の待ち合わせの場所にもなっています。（写真１）ある日、私も待ち合わせのため和光ビルのウインドウを眺めていましたが、ふと振り向くと目の前一面は広告看板で埋まっていました。銀座四丁目の交差点が広告だらけだったのです。それは広告塔を載せた大型のトレラーが銀座四丁目の交差点を左折しているところでした。十数分後には同じトレラーが再び現れ、今度は右折していきました。（写真２）東京の繁華街ではバスの車体全体に広告を描くことに続いて、トラックやミニバンの荷台に広告塔を積んで走ることが始まりました。その広告車の走行は、ある時期までは渋谷の繁華街とどまっていました。しかし、今や、広告塔は大型トレラーの上に乗って銀座四丁目まで進出してきました。道路は人や物が移動するところであり、広告のための空間ではありません。広告塔を積んだ大型車の通行で繁華街の道路は一層混雑しますが、混雑して利益を得るのは広告塔を積んだ車だけです。道路に滞在する時間が長くなれば、広告効果はそれだけ大きいからです。銀座四丁目は、和光ビルの芸術的な広告と、トレーラー広告車の醜悪な広告とが同時に見られる不思議なところです。東京の美化運動は広告車の取り締まりから始めて貰いたいものです。（以上）

2007.09.09

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