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カテゴリ:櫻井秀勲の目
この1月の日本経済新聞「私の履歴書」は、世界的指揮者、小澤征爾が書いている。私がこれを読んでいて驚いた点は2つ。1つは驚くほどの記憶力の高さだ。もう1つは、こんなにも多くの人たちの世話になっていたのか、というエピソードだった。
私は小澤より4歳上だが、子どものときから世話になった人たちの名前など、どうやっても思い出せない。ところが彼は、いとも易々と、それも姓と名まで出している。それに放浪中のホテル名まで、きちんと書いているではないか! 恐らくこれは指揮者ならではの記憶力なのだろう。長い交響曲の指揮をするには、まず曲をすべて暗符するのではあるまいか? 仮に暗記力が衰えたら、指揮者の椅子を去らなければならないのだろう。もう1つ、小澤征爾には、数々の若い時代の成功談が伝わっている。日本を去ってフランスに渡り、かの地のコンクールで華々しくデビューしたと私は思っていたが、彼の履歴書を読むとそうではなかった。むしろ本当に多くの人々から援助してもらっている。 また彼も、それらの人々の名前を1人ひとり挙げているのだ。自分の力だけで成功したのではないことを、明らかにしている。ふつうだと、成功者ほど自分の力を誇示するものなのに、彼は違った。 お世話になった方々を無視する人も大勢いる。そういう風潮の中で、天才と呼ばれた小澤征爾は、むしろ多くの人々に世話になったことを、隠そうとしない。私にはこの姿勢が、とても快く思えるのだ。 いや快く思えるだけでなく、「人間はこうあるべきだ」と、かえって自らを反省させられてしまった。この姿勢を貫いているからこそ、小澤征爾は多くのファンに賛えられているのだろう。いい履歴書を読ませてもらった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014/01/23 05:41:38 PM
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