どですかでん。
写真を撮っていて思うのだが、いつもなかなかいい色が出ないと反省する。いい色が出ないというよりは、どうも実際の目で見ている日常風景以上の色が出ないわけだ。だから、つまらない写真になる。そう考えるとモノクロ写真はいい。日常にある色を極限まで取り除くことにより非日常的な空間が生まれる。普通にとってもモノクロにすると「特別な写真」に見えてしまう。だからこそ、当面はモノクロ写真をやらないようにしている。(なんか自分の実力を誤解してしまいそうで…)これは、映画でも言える。モノクロ映画はそれだけで非日常的で、主題が限定され、観客を引きつけることができる。カラー映画になると、リアリティが出る代わり、主題が拡散し、観客を閉じこめるような別世界感を創りだすことが容易ではない。そんな中で、カラー映画で特別な感覚で思い出されるのが黒沢映画の「どですかでん」だ。なんと黒沢カラー作品第1号らしい。その映像の斬新さ。パレットにある原色を塗りたくったような色彩感覚。人々の狂気を色で表現するとこうなるという映像だ。(この映画を見て思い出したのがピンクフロイドの70年代の名作アルバム「狂気」だった。)黒沢映画はあまり共感を覚えていなかったが、この作品によって「やっぱり世界のクロサワ」の底力を思い知らされた。この映画を見ると、カラー写真だとなかなかテーマのある作品が撮れない、といいわけしている自分が情けなくなる。あの「色」はクロサワの目には日常の中に見えていたに違いない。