ニイハオ。どろぼうおじさん。
中国は北京に行ったときの話。昼、おなかが空いたので中華料理屋に入る。(というかほとんど中華料理屋だけど)みっちりつまった店の、小さな円卓に座り注文をする。すると知らないおじさんが、かってに合い席してくるではないか。中国では、合い席はごく普通のことなのか。「郷に入ったら郷に従え」だが、やっぱり、ゆるせない。にらんでやる。するとおじさん、隣の大家族の椅子に座る。いくらなんでも、家族の席に座るか、と思ったが、当の大家族、話に夢中でなんとも思っていない。「ふーん、やっぱ合い席ありか。」おじさん、おもむろに自分の上着をぬいで、夢中でしゃべっているかっぷくのいいお母さんの椅子にかける。相変わらずずーずーしいやつだ。注文したものがきて、食べていると、今度はおじさん、上着をとり、何にも注文せずに立ち上がる。おまえ何がしたいんだよと、またにらんでやると、一瞬、目を奥でにやりと笑ったような気がした。そして、店を出ていった。「何してんだろ。中国にはいろんな人がいるなー」家族が食べ終わり、今度はおばさんが大きな声で叫びだす。「どうした?」と思っていると、殺気だった目で、椅子にかけてあるバックの中を探している。こちらをにらんでもいる。店の人も来る。どうやら財布がないようだ。「なんか私たち疑われてない?」「ちょっと、待てよ。さっきのおじさんが盗ったんだ!」「そうか、まちがいない」カミさんも合点がいく。けたたましいサイレンとともに、警察がやってくる。泣きながら状況を話すお母さん。しょぼんとしている子どもたち。「言った方がいいか、言わない方がいいか」と迷いながら、どう考えても自分が見た状況を説明できる自信がない。いいわけしてるようで、へたすると自分たちが疑われるかも。とにかく、ここは何も知らないという感じで出るしかない、冷や汗もので会計をすませ外に出た。今でも不適に笑っていた目が不気味に思いだされる。「おまえにこの国の何がわかるんだ。」そんな風に言っているようだった。