吊ふ
天明戊申四月二十三日 昼過、江戸芝神僊坐(新銭座)を出立して金川(神奈川)に至る。其日曇て雨なし。……吾此度の旅行はじめてなり。是より肥州長崎の方、其外諸国を巡覧して、三年を経ざれば帰るまじと思ひ立しにや、又は宿に妻子を置きたる故にや、胸塞気分あしく、夫故金川(神奈川)に滞留して、河内屋善三郎と云人を吊(訪)ふ。(東洋文庫「江漢西遊日記」)天明八年四月二十三日 昼過、江戸芝新銭座を出立して神奈川に至る。その日は曇るが雨は降らない。……私にとって此の度の旅行は初めてで、これから肥州長崎の方やその外諸国を巡覧して、三年経たなければ帰るまじと決心して出発したが、宿に妻子を置いてきたせいか胸塞がり気分あしく、それで神奈川に滞留して、河内屋善三郎と云う人を訪問した。編者は、「善三郎と云人を吊ふ」と書いて「吊ふ」を「訪ふ」と注記しています。吊(『広辞苑』)〔音〕チョウ〈テウ〉〔訓〕つる・つるす〔意味〕①つる。つるす。ぶらさげる。「懸吊」②ぜにさし。あなあき銭千文せんもんまたは百文をひもに通してつるしたものを一吊という。 もと、「弔」の俗字だが、「吊」を「つるす」意味に用い、「弔」はもっぱら「とむらう」意に用いる。とぶらう【訪ふ・弔ふ】トブラフ(『広辞苑』)(後世トムラウとも) ❶《訪》①案じて問い聞く。心配して聞く。②おとずれる。見舞う。機嫌をうかがう。③詮索する。尋ね求める。❷《弔》①人の死をいたんで、喪にある人をたずねて慰める。弔問する。②亡き人の冥福めいふくを祈る。法要を営む。「吊」の文字は、「弔」だけでなく「訪」にも使うようです。