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言葉を“面白狩る”

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2006/11/05
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カテゴリ:カテゴリ未分類

「文政十三寅三月始
 一銀五百目 拾人講枕掛銀五拾目、半蔵(元人)
二番天保二卯二月朔日会
 一同三百九拾八匁 沢平吉落札 三拾八匁壱合弐厘
  (一口分掛け、尚元人返掛け五拾五匁)
三番辰二月朔日会
 一同四百拾九匁 兵四郎庄兵衛落札 三拾八匁(落札人の掛送り六十匁)
四番巳二月朔日会
 一同四百六拾七匁九分 小椿清蔵落札 四拾壱匁八分弐厘
五番午二月朔日会
 一同四百九拾目 長四郎林右衛門落札、四拾弐匁五分
六番未二月朔日会
 一同四百九拾四匁八分 甚助落札 三拾九匁九分六厘
七番申二月朔日会
 一同五百弐拾壱匁五分 狩留家村彦助落札 四拾壱匁六分三厘
八番酉二月朔日会
 一同五百三拾八匁五分 多十郎落札 四拾壱匁壱分七厘
九番戌二月朔日会
 一同五百五拾五匁五分 茂助嘉平落札 四拾目弐分五厘
十ばん亥二月朔日会
 一同五百七拾壱匁壱分落札 三拾六匁壱分
十一ばん子二月朔日乙会落
 一同五百九拾五匁」

これは、永井弥六『広島藩農村考』所載「頼母子の実例(19)」と題する頼母子の解説です。この事例をもとに、頼母子の姿を追ってみます。

頼母子講】たのもしこう。(『広辞苑』)
互助的な金融組合。組合員が一定の掛金をなし、一定の期日に抽籤または入札によって所定の金額を順次に組合員に融通する組織。


半蔵が、生活苦からか、銀500目を必要としているのを知った知人が世話人となって、半蔵(元人)の窮状を救うため、規約をつくり、頼母子講(因頼母子)を結成します。必要とする金額を少数の者が貸与えると、負担が重くなるので、講の人員を10人としました(拾人講)。

初会(文政十三寅年(1830)=天保元年)、各人が50目ずつのお金(枕掛銀)を持寄ります。10人で合計500目、これ(枕銀)を半蔵に貸付けます。「枕」は落語の“枕”と同じで、頭に付くもの、「初回」を意味すると思います。
借りた500目に50目の利足を付けて10年賦で返済しますので、半蔵の1回分の返済額(返掛け)は55匁です。

1年後(天保二卯年年(1831))、第二会(毎年二月朔日)が開かれました。もう半蔵を救済する目的は達しており、後は毎年利足を付けて返してもらうだけ……ではなく、「互助的な金融組合」ですから、この会から正常な運営が始り、以後10回、講の全員が融資を受けるまで続きます。
屋根の修理をしたいなど、差当たり資金の欲しい人は、貸して欲しい金額を入札します。最低金額の人が落札します。第二会は沢平吉が398匁で落札しました。落札者は次回から毎回60匁(掛送り)ずつを割賦返済する決りです。(自分の返済金額はここで計算できます。)
平吉に貸す398匁は、半蔵からの返掛け55匁を引いた残額を9人で拠出します。1人当り掛銀は(398-55)÷9=38.12匁です。

第三会は、419匁で兵四郎庄兵衛が落札しました。「兵四郎庄兵衛」はどう見ても2人ですが、それでも一人前として扱われます。
419匁は、半蔵の返掛け55匁・沢平吉掛送り60匁と残りの8人が出して、その1人当りの掛銀は(419-55-60)÷8=38匁です。

第十一会(最終会、天保十一子年(1840))では、前会までに9人が落札を済ませているので、最後の1人が今回の掛銀全て(55+60×9=595匁)を手に入れます。これでこの頼母子は完結しました。

元人の半蔵は、第2会以降、55匁ずつの返済ですが、他の講員は落札後60匁ずつを返済に充てているので、半蔵は低利で借りたことになります。
第二会落札の沢平吉は、398匁を長期間借りて、50+60×9=590目を返済しており、借りた金額より192匁多く返済しています。
第六会の落札者は、前半の5年は人に貸し、後半の5年は借金をしたので、掛銀と落札金額がほぼ同じです。
最終会の1人(名前の記入がない)は、10年間人に貸したことになるの、差引185.45匁の利足を得ています。
毎会、元人宅に集り、講のメンバーに御馳走が出されました。元人は金を借りた立場でありながら、招待した主人のように振舞うことができ、元人の面体をいたわる心遣いがされていたと、著者の永井弥六さんは指摘しています。

岩波文庫『塵劫記』(大矢真一校注)の注に「銀は百八十匁などのように十匁未満がないときは百八十目のように、匁のかわりにを用いる」とあります。また、計算の端数処理は表記の数に合わせました。






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最終更新日  2006/11/05 10:06:20 AM



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