Matt DavisによるSUBARU BRZ試乗記、それでは完結編です。 そして、これをもって書き溜めた日記も一応、終わりとなります。 実に長い間、『あっしだけの日記』をご愛読いただき、重ねてありがとうございました。
《RZのブレーキ、エキゾースト、そしてホイールとタイヤのカスタマイズでアフターマーケットが賑わうだろう》 ブレーキはごく普通のディスクとキャリパー(フロントは直径11.6インチ2ピストン、リヤは11.4インチのシングルピストン)だが、ブレーキ力には全く問題がなかった。スロットルをすばやく戻すと、かなり効率良くエンジンブレーキが効いたことも一因だろう。それでもブレーキやエキゾースト、ホイールとタイヤのカスタマイズをするオーナーは多いだろう。よく出来ているからこそ、走りの楽しさをより感じられる車にしたいと願うからだ。 自然吸気のボクサーは、低回転域ではポート噴射を用いるが、高回転域ではトヨタ由来の直噴も併用している。この機構では、エキゾーストはかすれ気味のテノールとなってしまう場合が多い。しかしBRZでは吸気バルブと一体となった4-2-1の排気レイアウトの採用により、スバルらしい、よりハスキーなサウンドを聞くことができた。(STIやイギリスまたは日本の特別スペックモデルを除いて、これほど気持ちのいいサウンドを楽しんだ覚えがない)。 もちろん、テールパイプが迫力のサウンドを奏でるには、回転数を上げることも必要だ。私は最高のパフォーマンスを得るために1日中、高回転域をキープしていたので、サウンドもそれに相応しいものになっていたのだろう。 BRZと86について、出力やトルクをもっと上げられなかったのか、という議論が上がるのは当然だろう。しかし、5速に入れても、頭打ちにならずに加速し続けてくれる性能を持ちながら、リーズナブルな価格を持ったBRZに「もっとパワーを!」というのは無い物ねだりだ。BRZのマニュアル車の燃費は、都市部と高速道路の平均値がリッター10.6km(AT車はリッター11.9km)。私と相棒は1日中かなり激しいドライブをしたが、なんとか平均でリッター6.8kmを達成することができた。
《ヒール&トウにピッタリのペダルポジションを備えたMT車は群を抜く魅力を放っている》 私はAT車も試してみたが、マニュアル車ほどの満足感は得られなかった。AT車の変速比1:1は4速だという点が、私にとっては論外なのだ。スポーツモードでの走りはかなりいいが、ヒール&トウにピッタリのペダルポジションを備えたMT車は群を抜く魅力を放っている。
《「将来的には、284psまで上げようと考えています」》 これから2年半か3年後に、BRZがターボチャージャー付きのSTIモデル風にチューンされる可能性について、増田氏に単刀直入に聞いたところ、彼の口に上った数字に私は度肝を抜かれた。「将来的には出力を284psまで上げようと考えています。ターボチャージャー付きも十分あり得ると思います。」それならば最大トルクは34.6kgmくらいまでいくのだろうか。増田氏は否定も肯定もしなかったが、そのようなモデルが完成してもSTIの名は冠さないだろうとは言っていた。 装備面で残念なのは、私が試乗した欧州仕様車に取り付けられていたデュアルテールパイプは、北米仕様車では、安全基準の関係でリアバンパーの下に隠されてしまう点だ。その他、欧州仕様車との違いは、スペアタイヤの追加、サテライトナビゲーションシステムの標準装備、そしてフルフロアアンダーカバーのオプションがないことだ。更にテールライトのアウターリフレクターは赤になり、ヘッドランプ内のインナーリフレクターはアンバーになる。最後に付け加えておくが、リヤシートは一体可倒式となっていて、これは少々不便かもしれない。 全体的に見れば、BRZはかなり魅力的な車だ。90年代後半のトヨタ「セリカ」とオペル「GT」のオリジナルモデルのファンである私の好みにピッタリ合っている。ボディーカラーと同色のリアスポイラーも申し分ない。これはリミテッドでは標準装備で、プレミアムではオプションとなる。シルバーとブルーのBRZを一日中眺めていて、唯一気になったのはテールライトの形がシボレーと似ていることだけだった。 今後、サーキットでのテスト走行でタイヤやトルク、ブレーキに関する様々な意見が飛び交うのは目に見えている。しかしBRZはレースカーではなく、あくまでクラシックなスポーツカーなのである(1970年代中頃までポルシェが提供していた廉価モデルに類する)。北米に投入される2グレードの価格はプレミアムがおよそ2万5000ドル(約205万円)から、リミテッドは2万7000ドル(約222万円)程度となる見通しだ。オプションやアクセサリーは今のところほとんど存在しない。AT車の生産は初注文の3割のみで、価格は3万ドル(約250万円)ほどになるだろう。しかし600店のスバルディーラーがあるアメリカに投入される台数が月にたった500台であることを考えると、その争奪戦はすさまじいものになることは必至だ。BMW「1Mクーペ」のように入手困難なスポーツカーとなることも十分予想される。スバルにはディーラー価格のつり上げに十分注意を払って欲しい。 トヨタ・スバルの軽量かつコンパクトな2+2シーターの3モデルが北米でもかなりの反響を呼ぶことは間違いない。中でも、私はこのBRZをお薦めする。何といってもスバルのFA20水平対向4気筒を搭載するオリジナル・モデルであり、生産がスバルの工場で行われるからだ。BRZの性能のみならず、特徴のひとつひとつや、手頃な価格設定、入手の困難さが相まって、販売はかなり勢いづくことが予想されるがスポーツカーファンにはぜひ手に入れていただきたい1台だ。