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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年10月24日
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   14.横浜花火大会   ~処女の香り~


 和代は始発が動き出した頃、何度も吐いた。
やがて東向きの窓から、朝日が部屋を照らし衝けて、宴会はお開きになった。
美穂と和代を残して、他の者達は帰って行った。
柳沢も「寝る。」と云って、自分の部屋へ戻った。
和代はぐっすり眠っていた。
「此の部屋も段々素敵に見えて来たけど…、唯、電話が無いのがいけないわ。」
美穂は、人が去ってガランとしてしまった部屋を、見廻しながら云った。
「学校で逢う以外は、此方から連絡が出来ないんだもの。」
私は、電話取付代として親から余分に貰っていた金を、4月中に使い込んでいた。
然し電話を部屋に付ける気など、私には初めから無かった。
「電話は嫌いなんだ。」
私は唯そう云った。
「処で、香織って人と付き合ってるの?」
急に私の方を向いて、彼女は云った。
「ああ。
付き合ってる。」
「そう…。
じゃあ、私とはどうしてるの?」
「君とは愛し合ってる。」
彼女は窓の外に視線を移した。
「私は別に、鉄兵が他の誰と付き合っていても構わないのよ。
唯これからも、私と逢って呉れさえすれば、それで好いわ。
約束して貰えるかしら?」
「勿論さ。
そうだ。夏休みになったし、二人で何処かへ行こう。」
「…私、鎌倉へ行ってみたいな。」
「鎌倉? 
もっと遠い処へ旅行しようぜ。
でも取り合えず、鎌倉へ行ってみるのも好いな…。
近い中に行こう。
いつにする?」
「そうね…。
23日はどう? 
木曜日。」
「OK。
決まりだ。」
「どうやって逢う? 
いつも鉄兵が私のアパートに来てるから、今度は私が此処へ来るわ。
それとも、私から逢いに来てはいけない?」
「どうして? 
いけない理由無いじゃん。
唯、こっちから行かなくて済むとなると、俺、安心して寝ちゃってるかも知れないぜ。」
「寝てて好いわよ。
起こしに来てあげるんだから。」
私と美穂も少し眠る事にした。
和代と美穂に布団を取られ、私は柳沢の部屋へ行った。
柳沢は布団の中で、気持ち良さそうに眠っていた。
私は勝手に押し入れを開け、彼の来客用の布団を引っ張り出すと、其れを敷いて横になった。

 昼過ぎに我々は眼を覚まし、4人で昼食に出掛けた。
和代は未だフラフラしていた。
「美味しい。」
「赤いサクランボ」の水を一息に飲んで、和代は云った。
「本当に御免なさいね。
見っともなく潰れて、おまけに布団まで使っちゃって…。」
「気にする事は無いさ。」
「ゆうべは、よく呑んでたみたいだね。」
柳沢が云った。
「誰かに呑まされたんでしょ? 
淳一君じゃないの?」
美穂が訊いた。
「そう云えば、彼奴完全に酔ってたな。」
「違うわよ。
私が自分で呑んだの。
ゆうべは久し振りに愉しかったわ…。」
「久し振りって、最近調子悪いのかい?」
私は訊いた。
「まあね…。
良くは無いわ。
何か、自分が意味の無い事許してる様な気がして、仕方無いの。
変でしょ…?」
「変かどうか分からないけど、ゆうべみんなで騒いだ事も、意味の無い事だぜ?」
「でも、愉しかったわ。
愉しければ好いって、云って呉れたでしょ。
私、其の通りだと思ったの。」
「大学生が、自分のしてる事に意味や価値を求め始めたら、大学は潰れるな。」
「誰も大学に行かないって事? 
向学心に燃えて通ってる人も、沢山居るんじゃない?」
美穂が云った。
「多くの学生に取って、今の大学はレジャー・ランドさ。」
「だけど運動家の奴等に云わせれば、そんなのは、政治家の思う壺って理由なんだろうな。」
「思う壺でも皿でも好いさ。
街を変える事さえ出来ないのに、国を変えるなんて、其れこそ意味の無い話だ。」

 7月20日、私はみゆきに逢い、其の夜、横浜花火大会へ行った。
山下公園には、既に沢山の人が集まって居た。
芝生の上はもう坐る場所が無く、海岸縁のアスファルトの上にハンカチを敷いて、二人で坐った。
出店で買ったフランクフルトを食べていると、一つ目の花火が上がった。
花火は、沖の船の上から打ち上げられた。
間近に視る打ち上げ花火は、かなり迫力が有った。
花模様を夜空に描いた後の花火の雫が、自分の顔の上に落ちて来そうで、怖かった。
実際は、我々が居る処よりずっと離れた海の上で、花火は光っているそうだった。
花火が光る度に、彼女の横顔が違う色に染まった。
暫くして、私は首が痛くなった。
然し、顔を真上に向けなければ花火は見えず、周りは人が一杯で身体を倒す事も出来なかった。
最後に一際華やかな水中花火を見せ、拍手と歓声の中花火大会は終わった。
「矢張り、花火は遠くで視るものだ…。」
立ち上がって首を押さえながら、私は云った。

 我々は、公園の側の海の見えるレストランで、食事をする事にした。
ボーイが、持って来たワインのラベルをみゆきに見せ、何か喋ってから、其れをグラスに注いだ。
未だ首が痛かった。
「随分痛そうね?」
彼女は云った。
「君は痛くならなかったの?」
私は不思議に思って訊いた。
「少し痛かったわ。」
彼女は、痛いのを我慢して尚視てる方が不思議だと、云いた気だった。
然し私は、首を温める為にホテルへ行く提案を、忘れなかった。

 彼女の肌は透き通る様に白かった。
「あれ? 
君は処女かい?」
行為の途中で私は云った。
彼女は眼を開けて、小さく頷いた。
「御免なさい…。」
「否、謝る事は無いさ。」
其の年、私は仲間内からバージン・キラーと異名を取る程、よく処女に巡り逢った。
私は、処女と非処女を分けて考える事は余りしなかったが、唯処女の香りを知っていた。
女の子の認識の違いに因って個人差は有ったが、処女の恥垢の匂いは印象深かった。
汗、体液、恥垢、トリコモナスと言った匂いが混じり合い、一種異様な香りがした。
小陰唇の裏側に、豆腐の粕の様な物がへばり付いている事も有った。
処女は、今まで腰に強い衝撃を受けた事が無い為、其のショックは大きく、女に拠っては発熱したり、時には吐いたりする者も居た。
みゆきは、額から、身体全体からジワッと汗を出した。
我々の格言に、「処女に頭の痛い思いをさせてはならない。」と言うのが有った。
彼女達は無意識に、ベッドの上へ上へと逃げて行った。
頭がベッドの端に当たって、もう其れ以上上へは行けないのに、板に頭を押付け尚も逃げようとした。
私はみゆきの身体を、何度もベッドの中央に引き戻しながら、行為を続けた。

 セックスの後、みゆきは未だ少し気が動転しているのか、シャワーへ行く余裕が無かった。
私はティッシュで彼女の粘膜を拭いて遣った。
部屋の冷房を弱くする為、私はベッドを離れた。
「処女は嫌い…?」
私がベッドに戻って煙草に火を点けた時、彼女は云った。
「どちらでも無いさ。」
「そう…? 
何か面倒くさくて、急度嫌いだと思ってた…。
でも嬉しい。
此れからは…。」
「女は10回目までは処女だと、俺は思ってるよ。」
「…。」
「処女とそうでない女と分けるのは、おかしいと思うな。
少なくとも、1回だけした娘と処女とは、何処も違わないさ。」
「そうなの。残念ね…。」
「次からは痛くないとでも、思ったのかい?」
私はニヤニヤしながら云った。
「そうは思ってなかったけど…。
じゃあ、早く10回やって頂戴な。」
私は煙草をシーツの上に落とした。

 翌日、三栄荘に香織とフー子が遣って来た。
2日前、二日酔いの和代を送って行った時、柳沢は急遽あさって帰省すると云い、帰省を1日見合わせたフー子と一緒に帰る事になった。
私と香織は、二人を上野まで見送りに行った。
夏の太陽が眩しく照り衝けていた。
「然し、お前も随分急だな。」
高崎線のホームで、缶コーヒーとお菓子を買い込んでいる柳沢に、私は云った。
「柳沢君も、早く彼女に逢いたいんでしょう?」
香織が云った。
「実は、其の通りだ。」
お菓子をフー子に手渡しながら、柳沢は云った。
「此れだわ…。
好いわねえ。
二人して愛する人の待つ処へ、帰って行けるなんて…。」
「あら、香織だって、東京で其方らの彼と夏休みを過ごすんでしょ? 
私達が帰ったからって、余り喜び過ぎてると失敗するわよ。」
「御忠告有り難う。
早く帰り為さいよ。」
「でも恋人に逢う前に、電車の中で新しいロマンスが生まれるんじゃねえか?」
私は云った。
「其れは、素敵だわね。」
フー子が云った。
柳沢は笑っていた。
発車のベルが鳴り、二人は電車に乗り込んだ。
車内は割合空いていた。
座席を決めてから、柳沢が窓を押し上げた。
「じゃあ。」
「又ね。」
「元気で。」
「バイバイ。」
電車はゆっくり、そして次第に速くホームを滑って行き、やがて小さくなった。
私と香織は、階段の方へ歩き出した。


                           〈一四、横浜花火大会〉





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Last updated  2007年02月12日 10時51分53秒
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