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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年11月08日
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   40. サン・プラの前から  ~淋しさ、風の様に~


── あの人の事など
    もう忘れたいわ
    だって どんなに想いを寄せても
    遠く叶わぬ
    恋だもの…

    気がついた時には
    もう愛していた
    もっと早く サヨナラ云えたなら
    こんなに辛くは
    なかったのに… ──


 世樹子は「片想い」と言う唄が好きだった。
「まあ、女の子に受けそうな唄では、あるな…。」
私は云った。

 10月17日の深夜、私は毛布を胸に抱いて、世樹子と三栄荘を出た。
「其れにしても、柳沢と香織ったら冷たいよな…。
コンサートには行かなくても、泊まり込みには付き合って呉れると、思ってたが…。」
「仕方無いわよ。
香織ちゃんは明日、大事なオーディションの日だし…。」
香織は翌日、劇団のオーディションを受ける事になっていた。
「もう夜は寒いわ。
誰だって、外に居たくは無いでしょう…。
鉄兵君だって、其の…、無理をして呉れてるのなら、いいのよ…。
厭だったら…。」
「アリーナでコンサートを観たいんだろ?」
「ええ…。
そうだけど…。
でもアリーナで無くっても、コンサートに行ければ充分なのよ…。」
「俺はアリーナで無くっちゃ、厭だぜ。
君こそ、無理せず部屋に居れば好かったものを…。
俺は1人でも泊まり込みに行くよ。」
「…そう。
じゃあ、鉄兵君1人じゃ可哀相だから、私も付き合ったげる。」
「悪いね…。」
世樹子は笑顔を見せた。

 サン・プラの前には、既に数人の人間が来ていた。
「浜田省吾のチケットですか?」
皆、若い女性だった。
「ええ。そうですよ…。」
私は彼女達の隣に、毛布を1つ敷いた。
「まあ、2枚も毛布を持って来るなんて、準備が好いのね…。」
一番側に坐っていた、赤いサテンのジャンパーを着た女が云った。
「そっちは、何も持って来なかったの?」
「お菓子とジュースだけ…。」
「夜明け前は、急度冷え込むぜ。
大丈夫かい?」
「大丈夫、気合入ってるもの。」
「ほんと、そうみたいね…。」
世樹子が感心した様に云った。
時計は午前零時を少し廻っていた。
中野サン・プラザの西側の非常口の周りは、通り行く人も無く、街灯だけがひっそりと佇んでいた。
唯、中野通りを行きかう、多くはタクシーであろう、車の音が途切れ途切れに聴こえて来た。

 午前1時を過ぎた。
向う側の何人かは、既に眠っている様子だった。
世樹子はサテンのジャンパーの女と、其の隣の薄いダウン・ジャケットを着た女と一緒に、浜田省吾やミュージック・シーンに関する話を盛んにしていた。
私は分けて貰ったお菓子をムシャムシャ食べていた。
「よお、生きてるか?」
顔を上げると、柳沢と香織が立っていた。
「凍死したら可哀相だと思って、更に毛布を持って来て遣ったぜ。」
柳沢は手に抱えていた毛布を、私の前に置いた。
「はい、差し入れ。」
香織がセブン・イレブンの袋を差し出した。
「サンクス。
丁度好かった。
毛布はあっちの彼女達に掛けて遣って呉れ。」
柳沢は再び毛布を抱えると、隣へ行った。
「二人限で凍えてるかと思ったら、何か随分賑やかね。」
香織が云った。
既に我々の反対側にも、人が沢山坐り込んでいた。
「香織ちゃん、有り難う。
でも早く休まなくて平気なの? 
明日のオーディション…。」
「まあね。
どうせ受かりっこ無いから…。」
「香織ちゃんは受かるわよ。
絶対…。」
「有り難う。
世樹子もね…。
あなたこそ、早く休んだ方が好いわよ。
其れにしても…、眼が冴えちゃって眠くならないのよね。
緊張しちゃってるのかしら…?」
「毎晩、俺達の所為で遅く迄起きてるから、急に早寝が出来ないんだろう?」
「其れは云えるわね…。」
柳沢と香織は暫く坐っていたが、やがて腰を上げた。
「じゃあ、お言葉に甘えて、帰って休ませて貰うわ…。」
「柳沢は俺達と一緒に泊まれば…? 
たまには外で寝るのも好いぜ。」
「ああ。
そうしたいのは山々なんだが、久保田を一人で帰らす理由には、いかんだろう…?」
「其れじゃ、頑張ってね。」
柳沢と香織は帰って行った。
「君も明日、何か有るのかい?」
香織の云い方が気になって、私は世樹子に尋ねた。
「えっ、…まあね。
そう言えば、英検を受ける事になってたかしら…。
でも私のは、どうでも好いのよ。
暇だったら受けようと思って、申し込んだ分だから…。」
「然し…、」
「チケットの方がずっと大事なのよ。
本当に、あっちはどうでも好いんだから…。」
「明日は、もう今日か…、試験を受けない積もりかい?」
「受けなくったって構わないわ。」
「検定料は支払ってるんだろ? 
よし、取り合えず送って行こう。
帰って休んだ方が好い。
場所は彼女等にキープして貰っとくから…。」
私は立ち上がろうとした。
「そんな事、いいわよ。
今夜は、此処に泊まりたいの…。」

 午前2時を過ぎた頃、聴こえていた周りの話し声もすっかり途絶えてしまった。
私と世樹子は胸迄同じ毛布に入って、寄り添っていた。
「もう眠った方が好い。
そして、今日はちゃんと英検を受ける事だ。」
「有り難う…。
鉄兵君は?」
「俺は未だ眠くないから。
環境の違う所為かな? 
でも、1人で妄想に耽って楽しめる体質だから…。
君は遠慮なく寝て好い。」
「私も未だ眠くないわ…。
少し環境が変わった位は平気な方だけど…。」
「そうだ、枕を持って来るのを忘れたな…。
頭、痛くない?」
「いいえ、平気よ…。」
「実は…、さっきから俺の左腕が君の身体に触れていて、感じてしまって仕方無いんだ。
上に上げても好いかい?」
「あ、好いわよ。
御免なさい…。」
世樹子は確りと寄り添っていた身体を少し遠ざけた。
「其れで、上げた此の左腕が邪魔だから、出来れば枕代りに使って欲しい。」
彼女は微笑んだ。
「じゃあ、使わせて貰おうかしら…。」
彼女は又身体を寄せた。
「痛くなったら直ぐ、勝手に腕を外してね。」
「うん、そうする…。」

 向かい側の低い建物の上に、静かな闇が広がっていた。
夜の空気は次第に透明になり、全ての物の真実の姿が視えて来そうな気がした。
「何故君は、誰とも付き合わないんだい?」
私は云った。
「誰とも付き合わない積もりなんて無いわ。
私だって、付き合いたいわよ。
相手さえ居れば…。」
「相手は幾らでも居るだろうに。」
「居ないわよ。
私は…、あなたと違って、相手は1人居れば充分よ…。」
彼女の「あなた」と言う言葉に、私は心を動かされた。
香織等は、誰に対しても此の言葉を使ったが、彼女が口にするのを聴いたのは其れが初めてであった。
「淋しくは無いかい?」
「淋しいわ。
いつも…。
部屋には香織ちゃんが居て呉れて、三栄荘に行けばみんなと夜を過ごせて…、でも、いつも心が、淋しさの上に浮かんでるの…。
身体の中をいつも、風が通り抜けて行くみたいなのよ…。」
「此の際、誰かと付き合ってみるべきだよ。
例えば、俺なんて、どう…?」
「鉄兵君と…? 
駄目よ。」
「矢っ張り俺じゃ、基準に合格しない?」
「…満点だけど、鉄兵君には香織ちゃんが居るわ。」
「そうか、合格してたか…。
嬉しいな…。
でも悪いね。
君や香織より先に、一人で合格しちゃって…。」
彼女は、遠くて柔らかな笑みを零した。
「私は、あなたの基準にどうなの…?」
「俺は基準を設ける資格の無い男だから…。
唯、恐れ多くも、理想を云わせて貰えば…、色が白くて、髪が割と長くて、瞳が綺麗で、名前が『世樹子』なんて言ったら最高だな。
そして…、」
彼女は懐かしそうに微笑んだ。
「未だ、有るの?」
「うん、もう1つだけ。
そして、唇の淋しそうな女の子さ…。」


── 淋しさ 風の様に
    癒されぬ心を 持て遊ぶ…

    あの人の微笑み
    優しさだけだと
    知っていたのに それだけで
    好いはずなのに
    愛を求めた  片思い ──


 私は「片思い」と言う唄に就いては、多くの批判を述べた。
然し、彼女は其の唄が好きだった。


                         〈四〇、サン・プラの前から〉


※引用:浜田省吾「片想い」






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Last updated  2005年11月08日 21時44分15秒
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