本のタイトル・作者
ハイヒールを履かない女たち 北欧・ジェンダー平等社会のつくり方 [ あぶみ あさき ]
本の目次・あらすじ
はじめに―――ハイヒールを履かない女たち
ノルウェー政権交代のあらまし
1 街に出て、いっしょに平等を叫ぶ人たち
街に出て、多様な性を祝おう!プライド・ウィーク
プライド広場で性について議論する
ノルウェー独特の「言ってはいけないこと」「本音を言えない」カルチャーとは?
首相や有名な政治家にひょっこり出会える場所
「怖がるあなたの代わりに私たちがパレードに参加する」首相に呼びかけ
人々をプライド・パレードに向かわせたオーランド銃乱射事件
妊娠中絶法が昔に逆戻り?怒る女性たちが国会前で大規模デモ
「女性の日」をきっかけに政治を前に一歩進める方法
批判や不満だけではなく、「おめでとう!」の言葉と笑顔で溢れる日
「脅迫されるから」移民女性が社会議論に参加できない女性の目
1台のベンチに眠る差別の歴史 同性愛の平等を進めたノルウェー人女性
北欧と日本の「決定のテーブル」の形の違い
2 ガラスの天井はまだ破れない。ノルウェーでの#MeToo
ノルウェーでの#MeTooのはじまり
女優たちがセクハラ被害を共同告発
ノルウェー労働組合員らが告発。「罪と恥の意識を返却します」
テレビ番組でセクハラ被害を話したブルントラント元首相
ノルウェーで#MeTooは起きないはずだった?
労働組合と平等・差別オンブッドがセクハラ対策案を発表
未来の首相候補にセクハラ疑惑
「部屋に酒という名の象がいるよ」各政党がセクハラ防止で酒の無料提供を停止へ
ノルウェー首相、自身の党のセクハラ問題に謝罪。青年部元代表に告発が続出
「先人が残すセクハラ文化」に若い世代は我慢の限界。ノルウェーで起きる変化
3 押し付けられるイメージに抗う若者たち
SNSが原因?「夏のボディ」美化にうんざりする女性たち
ノルウェーの若者を「みじめにさせるメディアと広告」金賞は?
「#理想の夏ボディ」、体系への社会的圧力にノー!
人気インスタグラマー、「価値を決めるのはあなた自身」
インフルエンサーは若者に悪影響な、産業界の金のなる木か
公共局がカメラの前でセックスするカップルを一般募集
4 自由で開かれた、ノルウェーの政治の世界
政界に女性がいることは重要なロールモデル
若い政治家のフェミニズム勉強会
格差を減らし温かい社会を目指すフェミニスト政党SV
政治参加の難しさに悩む人へ。初の元女性首相の言葉
党大会で首相の膝の上に子ども
青年部らと投票で政策を決める保守党の総会
性的少数者の人権を守ろう。右派・左派は関係ない
おわりに
引用
この「個人の生き方を責めるのではなく、そう生きることを強いる社会システムを批判する」という考え方は、ノルウェーの各政党が頻繁に主張することだ。この基本を忘れると、自分たちの生き方を政治家に非難されていると、人々は苛立ってしまうだろう。
感想
2022年277冊目
★★★
ノルウェー。
「ジェンダー・ギャップ指数2021」で世界3位の国。
1位はアイスランド、2位はフィンランド、5位はスウェーデンと上位を北欧が占める。
(ちなみに4位はニュージーランド。)
→男女共同参画局
「ジェンダーギャップ指数(2022)上位国及び主な国の順位」
日本は、116位/146国中。
115位のブルキナファソと、117位のモルディブの間。
男尊女卑でジェンダー平等が進んでいないイメージのある韓国でさえ、99位だ。
さて、この日本の絶望的状況から見たら、ノルウェーは夢の国のように見える。
この本のあらましによると、ノルウェーに初の女性閣僚が登場した1945年(内閣の女性割合7%)から、1981年には初の女性首相が登場(同割合24%)。
女性閣僚が過半数を超えたのが2007年(53%)。
日本がこの状況になるのに、あと何年―――何十年、かかると思う?
そんな、「夢の国」ノルウェー。
みんながみんなハッピーに暮らしているのかと思ったら、そうでもない。
ということがよくわかる一冊。
著者は、鐙麻樹(あぶみ・あさき)さん。
1984年生まれで、ノルウェーを中心に北欧情報を発信している方。
個人的にはプロフィールの「多言語学習者(8か国語)」が気になる。
たとえば、ノルウェーで公的機関で働く男女の割合。
2020年の調査では、男性29.9%:女性70.1%。
職場の理解や法的保護の観点から、子供が多い女性ほど公的機関へ転職する。
これは北欧の平等政策が上手く行っていない典型例(職域の男女分離)として長く批判されているそう。
あるいは、ジェンダーギャップ指数には、移民や先住民が入っていないという指摘。
ノルウェーでもフルタイムとパートタイムでの労働参加率は、男女に差がある(女性の方がフルタイムについている割合が低い)。
ショッキングだったのは、「おわりに」にあった、2022年8月にノルウェーの緑の党の党首バストホルムさんが、「幼稚園に通う2人の娘の母親・党首・国会議員の役割の両立に限界がきたから」という理由で辞任したとあったこと。
彼女は、36歳。私と同い年。
ノルウェーの人はみんな女性も性別なんて関係なくバリバリ働いて生きていくし、それをもろともしないのだと思っていた。
違うんだ。
同じなんだ、まだ。
「夢の国」に至っても、なお。
その事実に、愕然とする。
先日から私は、急なトラブル対応で残業が続いている。
重要な打ち合わせの途中、長引いて終わりそうになくて隠れて夫にメールする。
「今日お迎えに行ける?」
終わって戻ったら部下から新展開の報告を受ける。対応、対応、対応。
仕事を切り上げてお迎えに行ってくれた夫に平謝りで電話する。
「ごめん、帰れそうにない。お米だけ研いであるから、ご飯は適当になんとかしておいてくれる?」
帰宅する。子供はもちろん寝ている。晩御飯はレトルトカレーにしたそうだ。
昨日も帰れなかった。明日も帰れないだろう。夫は不機嫌だ。
お風呂に入り自分はカップラーメンを食べて、洗濯をして真っ暗な外に干す。
真夜中に次の日の夕食の用意をする。
せめて、チンするだけで食べられるように。
何やっているのかな、私。
その時思う。
「私はママなのに」
これって、なんというか、なんていえばいいのだろうな。
「女だから」許される、免除されることに期待している自分に気付いて嫌になる(私が男であっても同じこと=配慮?を周囲に求めた/求められただろうか?)。
しかし同時に「いや、でもこの状況で小さなこどもがいる人は働けないよね?」とも思う。
これは男女に関係なく、そういう問題なのではないか?
夫が昇格していったら、どうなる?
二人とも管理職をして、どう家庭と仕事を両立させていける?
旧態然とした働き方、なかなか変わらない人の意識。
もうやめよっかな、と思う。
役職付を、あるいは今の仕事を。
でもそれって、何かに負けたみたいだ。
―――何に?
現状は変わらない。世界は遅々として変わらない。
もうこれは私が国政に打って出るしかないな?!と思ったりもする。笑
夢の国、北欧。
そこで私の目からすると遠い未来のように見える「当たり前のこと」、そしていまだに時代遅れなままの私の日常と同じ「当たり前のこと」。
それでも私たちは変化の途中にいる。
先陣を切っただれかの、踏み固めてくれた轍の後は、歩きやすい。
でもそれはまだ、ぬかるんで足を取られる。
電車を待っている間に、ダバダバ涙が出てきて思う。
わたし、なにやってるんだろ。
ズビズビ鼻を啜りながら電車に乗る。
滂沱の涙を流しながら、少しずつ強くなる。
私の足元は、彼女たちと同じスニーカー。
いつでも走れるその靴で。
どこまで行けるのかな、と思う。
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