内閣改造が終わったと思ったら、取って付けたように出てきたのがアベノミクス「新三本の矢」である。先に出した三本の矢がどこに飛んでどんな結果になっているのか、まるで分からないのに今度は「新三本の矢」とは、まるで国民を馬鹿にした話であるが、東京大学名誉教授の佐々木毅氏は、11日の東京新聞で次のように論評している;
自民党の総裁選を受けて内閣改造が行われた。無投票で総裁再選という異例の事態になったが、それもこれも安保法制の難航の副産物といえよう。安保法制が総裁選での自由闊達(かったつ)な議論を事実上封印し、派閥の横並び的な支持は人事での不満という代償を伴ったといえそうである。「安倍後」に向かうエネルギーが自民党内でどれだけ高まるかば未知数である。
安保法制で支持率を落とした政権は再び経済に力点を置き挽回を図ることになる。過日明らかになった「新3本の矢」は第2ステージのアべノミクスを体現するとされる。内容は「希望を生み出す強い経済」(国内総生産600兆円の達成)、「夢をつむぐ子育て支援」(希望出生率1・8の実現)、「安心につながる社会保障」(介護離職ゼロの実現)である。
新3本の矢をめぐっては、まず第一ステージの3本の矢と比べ関心が低く、プラス評価がほとんど聞こえてこない。安倍政権はこれまでさまざまな政策目標を掲げてきたが、新3本の矢はその繰り返しの域を出ていないという見方が多い。最初の3本の矢は目標と具体策との関連がそれなりに見えていたが、新3本の矢は目標の列挙にすぎないという指摘は、その最たるものである。せめて第一ステージで何を実現し何がしなかったか、第二ステージの政策目標に変更があるのかを含め、政権が整理する必要があったが、総裁選の不発もあり素通りになってしまった。かくしてアべノミクスの性格がますます不明確になる。
あえて好意的に構図を描けば、「強い経済」の成果を子育て支援や社会保障の充実に充てる段階に入ったとのメッセージと解釈することが可能だ。この経済成長の社会的還元という方向は自民党の伝統的手法とほとんど違わない。このストーリーの最大の問題は日本が、こうした社会的還元にふさわしい強い経済を実現したかどうかである。これは第一ステージの実績に関わるが、残念ながら懐疑的評価は日増しに強まりつつある。日銀の異次元緩和に代表されるように、リスクをとりながら、いわば「最後」のチャレンジを敢行したのが第一ステージだったとすれば、結果責任は重大である。先に言及した政策の整理のうち、これは最も重要な整理問題である。そのこともあり新三本の矢は第一ステージの失敗を隠蔽(いんべい)し、目くらましを試みたにすぎないという厳しい評価が出てくる。
自民党内が静かなことから、参院選に向けて経済政策論争の主役は政権対野党の構図になる。民主党はアべノミクスを大企業重視で、格差拡大につながる政策であるという見方に立ち、自らは「分厚い中間層をつくる」ことを核とする経済政策を打ち出している。
2017年4月には消費税率の引き上げが待つ。これは景気条項なしで実施することを総選挙までして約束した経緯のある重い公約である。それがスムーズに実施できるかも注目点である。軽減税率問題の処理は与党間でも簡単ではないしマイナンバーなどと絡めれば話が混乱するのは目に見えている。さらに、環太平洋連携協定(TPP)の大筋合意というテーマが加わった。折から世界経済には「いやな感じ」が漂う。経済領域は課題山積で、アべノミクスの評価、さらには各党の具体策をめぐって批判に耐え得るような論戦が期待される。
(東大名誉教授)
2015年10月11日 東京新聞朝刊 12版 4ページ「内閣改造と経済論戦」から引用
アベノミクス「三本の矢」で「強い経済」という成果がでたから、これで子育て支援や社会保障を充実させるとは、まるで冗談かたちの悪いギャグである。保育所が足りないからといって規制を緩和し、民間企業も保育所を運営できるようにしたら、保育士の手が足りないからといって赤ん坊を毛布にくるんでヒモで縛る保育所がでてきたり、厚生年金の積立金の一部を株に投資したら中国経済の不調の影響で株価暴落、数千億円が消えて無くなったのも安倍内閣の仕業である。「強い経済」の結果は企業の内部留保が増えただけで、これがどういう仕掛けで子育て支援や社会保障に回ってくるのか、早急に臨時国会を開いて安倍首相に説明させるべきだ。