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やっぱり読書  おいのこぶみ

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2005年10月06日
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カテゴリ:読書感想
家の本棚にあるおびただしい本は私の本ばかりではない。ふと見つけたこの本、「鉛のバラ」で一読した作家である。「おや?」と思い、すぐには手離せなくなるほど夢中で読んでしまった。

『何事であれ、知らずに通り過ぎるようなことを、私は他にも沢山やっているのだろう』

とは北村薫の『六の宮の姫君』の一節。

ラインE

「カラチ」「海」「月と花火」「夜釣り」「イヌワシのように」の5短編集。

自己確立の希求とそれにともなう孤独。それを激しく求めるあまりに怠惰がほの見えてくるのまで感じられる。
しかし、厳しく自己と向き合い、諦めたくないという気持ちがこんなに込められている文章を私は外には知らない。

どれも一人称で語られ、「私」や「ぼく」に名前はついてない。


たとえば「月と花火」(唯一『わたし』の性別が女性だが)

盆地にある温泉郷で生い立った『わたし』はもうじき出て行こうと決心している。このままいれば適当な人と結婚させられ、この閉塞感いっぱいの地で老いてゆかねばならない。

この地最後の記念に花火見物をしようと、ひとり『二本松の丘』に登ってきた。猥雑な土地人や両親とは『混じりたくない。』みんなは祭りだ。一張羅を着込み、ご馳走を飲み食いし、騒ぐ。突っぱねなければ、何を強いられるか!

その最後の花火見物に、今年は近所の『ヨネさん』という、寝たきりでしばらく会ったこともなかった老婆を預けられた。重箱のご馳走とお茶を前にしてリヤカーの上に毛布にくるまって身動きもせずいる『ヨネさん』。

『わたし』は『ヨネさん』のようにはなりたくなかったのだ。盆地の外へ出たこともなく『働いて働いて歳をとり、ある日倒れ、誰からも見限られてしまう』

呆けている『ヨネさん』は『わたし』のみはり役で置かれたのではないだろう。しかし、花火が始まり、ばか騒ぎがはじまり、露骨な性的興奮に包まれると、死んだようになっていた彼女が盛んに飲み食いし、歌いだし、踊りだすではないか。これはなんなんだ!

驚いたものの『わたし』はそれを受け入れ、決心はしたのに踏み出すことに怖気づいている『わたし』を恥じる。『わたし』に出来る!という力を与えるものが存在し始めたのだった。

花火が終り静まって『ヨネさん』も静まり、ただ月の影がススキの原を占めているのだった。『わたし』は疲れた。


とここで終わっているのだが、諦めたくない、翔びたいとの強烈な余韻が残る。他の4編もテーマは同じだ。

そういえばこのテーマではエリカ・ジョングの「飛ぶのが怖い」もあったっけと思い出し、「鉛のバラ」はその航路の果ての物語なのではないかとも思う。読み返したい本である。ドキドキハート





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最終更新日  2005年10月06日 12時19分08秒
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■コメント

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Re:「イヌワシのように」丸山健二(集英社)1981年出版(10/06)   tuitel さん
丸山健二の本は一冊だけ。それも、小説の書き方のような本で、ひたすら熱かった。
怖くて、小説は未読。
>エリカ・ジョングの「飛ぶのが怖い」
なつかしい。大学の頃に読んだけど、多分、読めてなかったでしょうね。
今まで、ホントに、飛ぶのが怖かったけど、ホントに飛ばなきゃ、今生のうちに。 (2005年10月07日 01時29分14秒)

tuitelさんへ Re[1]:「イヌワシのように」丸山健二(集英社)1981年出版(10/06)   ばあチャル さん
>丸山健二の本は一冊だけ。それも、小説の書き方のような本で、ひたすら熱かった。
>怖くて、小説は未読。

小説を読んでもそうとう情熱的で厳しく追求しているのが感じられますからね(笑)なおのこと姿勢はおっかないですよ。

>今まで、ホントに、飛ぶのが怖かったけど、ホントに飛ばなきゃ、今生のうちに。

私も何度、怖い思いをして飛んだことか!一生そうでしょうよ。 (2005年10月07日 13時22分05秒)

Re:「イヌワシのように」丸山健二(集英社)1981年出版(10/06)   alex99 さん
この本、魅力的なようですね。
読んでみたい。
注文しよう。

北村薫の『六の宮の姫君』
こんな本は普通買わないんですが、変な弾みで買ってしまったんです。
面白いですか?

(2005年10月08日 02時05分36秒)

Re:「イヌワシのように」丸山健二(集英社)1981年出版(10/06)   alex99 さん
通販書店で注文しました。

本の題名は「イヌワシ讃歌」ですね。
文春文庫

(2005年10月08日 02時11分23秒)

alex99さんへ Re[1]:「イヌワシのように」丸山健二(集英社)1981年出版(10/06)   ばあチャル さん
>本の題名は「イヌワシ讃歌」ですね。
>文春文庫

今、アマゾンで調べたらそれはどうも違うんじゃないかと…。私の読んだ短編集は1981年版の単行本でしたのでもう版がないらしいですよ。

もう注文されてしまったのですねぇ。

他作品と一緒に「短編集の集成集」に収められていました。目次を調べたら、

「月と花火 」 丸山健二全短篇集成
文芸春秋 ; ISBN: 4165023507 ; 第5巻 (1994/10)
に「海」「月と花火」「カラチ」「夜釣り」があり、

丸山健二自選中篇集
文芸春秋 ; ISBN: 4163125507 ; (1991/06)
に「イヌワシのように」がありました。

しかもこれらは在庫切れでした。残念!
「六の宮の姫君」は芥川龍之介の謎解きで、すごく面白いです。感激してます。 (2005年10月08日 07時49分17秒)

Re:「イヌワシのように」丸山健二(集英社)1981年出版(10/06)   alex99 さん
ありがとうございます。
そうですか。
安い本ですから、それでも結構です。
丸山健二は一度読んでみたかったから(その生活ぶりから)。

でも、よほどイヌワシが好きな男ですね。

中島みゆきの「空をとびたい」と言う歌が好きなんですが、何か潜在意識的に共通するものがあるのかもしれません。
現状から逸脱・逃走したいというような。


(2005年10月08日 15時07分16秒)

alex99さんへ Re[1]:「イヌワシのように」丸山健二(集英社)1981年出版(10/06)   ばあチャル さん
>でも、よほどイヌワシが好きな男ですね。

イヌワシは誇り高く、群れない性質を持っているそうです。でも、なぜか生まれたところ(巣)へ一度戻ってくるらしいのです。
そんなところに共鳴したのかもしれません。「イヌワシ讃歌」になにかがあるのでは…。

>中島みゆきの「空をとびたい」と言う歌が好きなんですが、何か潜在意識的に共通するものがあるのかもしれません。
>現状から逸脱・逃走したいというような。

それは濃さはいろいろでしょうが、まさにありますね。それがなくなったら老いたということでしょう。 (2005年10月08日 21時51分22秒)

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