精霊の愛し子。
転がり込んでしまった異世界で、母譲りのハーブの知識を活かし、人々を癒す物語。精霊が人々を守護している世界は心優しくて、突然現れた主人公を、「迷い込み」と受け入れる。英国人でハーバリストの母から得ていた知識のお陰で、村の薬師となり、やがて、その国の王弟殿下と出会う…牧歌的で穏やかな物語。他国からの陰謀が起こるものの穏やかに解決して、王弟殿下との仲も穏やかに深まる。最早数え切れないほど存在する異世界トリップものだけど、巧い書き手さんの作品だから、読み心地も良く十分に愉しんだ。主人公は素直で、意思を貫く凛々しさがあって、影を纏う王弟殿下は、淋しがりで一途。脇の人々も魅力的で、王は病に臥せってはいても格別な存在感だし、大神殿の大神官長は飄々とした味わいだし、風の民の長はヤンチャだし、それぞれに物語を感じて、もっと読んでみたくなる。そもそも異世界に転がり込んでしまったキッカケも、ちょっと気になる。あの忘れ物は何だったのか、忘れ物をした人物は誰だったのか、扉を開けようとする主人公に、声を上げた母は何を察知したのか…もしかしたら、どこぞの世界の危機を救う為、適材適所に誰かを送り込むそんな役割の者が……とか、そんな想像を愉しんでしまった。