独特のにおいをもった作品というのがあり,そういうものに出会い,次作を読んだときに同じにおいを感じられるとほっとしてしまう。
自分がシリーズものを好むのはそんなところからもきているのだろう。
ロバート・ファン・ヒューリックの「五色の雲」
(Judge Dee at Work,1967,和爾桃子訳)
のかもし出す世界もそんな「独特」のにおいをもっている。
主人公のディー判事(知事のような役職)が唐の時代の実在人物なので,時代設定は「唐」なのだが,そこに描かれている中国には「明」の雰囲気がプンプン(著者は辮髪や煙草に関してそれが「唐」時代になかったと随所で断っているのだが,「清」を中国とは認めていなかったらしい)。
でも,そんなことはどうでもいいのだ。
「五色の雲」は短編8作からなり,これまで発表されてきた長編をつなぐ役割をしている(長編14作,中短編集2作中最後から2or3作目)。
古代中国にありながらあくまでも合理的な考え方をする(って,ここでも時代考証とかは抜きでOK)ディー判事は,奥さんを3人も抱え(4人までは公認),あっちこっちに飛ばされながら,それぞれの赴任地で合理的に事件を解決していく(実在のモデル「狄仁傑(ディー・レンチェ)」は最後は宰相(御史大夫?)と紹介されている)。
五色の雲」
香印(香時計)による
アリバイトリックと,自分から死亡時間をいってしまうことによる犯人の自滅を扱っているが,インパクトはイマイチかな。
なお,冒頭に登場する船主の伊聘(イーベン)は
「中国黄金殺人事件」(日記は
→こちらから)で,全体の事件の犯人かとディー判事から疑われていた人物。
赤い紐
帝国軍の対朝鮮前線基地のとりでの中の殺人事件をディー判事が解決。
書類の
不備から軍の砦に乗り込み,それをもとに,殺人の動機を推理するという設定がおもしろい。
常連の脇役である,馬栄(マーロン)と喬泰(チャオタイ)も無骨そうないい味を出している。
鶯鶯の恋人
質屋の老人が殺され,
疑いは漁師の若者にかかるが,実は老人の遺言をめぐる「財産」がらみの殺人事件であったことがわかる。
「小鳥のことで口論していた」という老僕の発言が事件を解決に導くことになった。
なお,この話で判事の第3夫人となった曹(ツァオ)さんは,
「中国黄金殺人事件」で,失踪して夫からも父親からも離縁された花嫁。
以上3話は,対朝鮮作戦の前線基地,はるか僻地の北東岸にある平来(ポンライ)を舞台にしている。
設定された時代は663年~,日本史では白村江の戦いの年として知られている。
著作3作目,事件の時代では最初にあたる「中国黄金殺人事件」の頃の話である。
その2に続きます。
本人による挿画もいいし,その他の作品を読んでいなくても楽しめるし,けっこうオススメな一冊です。
シリーズを読む順番や周辺知識については
「ディー判事シリーズについて」を参考にしてください。
時代,場所,登場人物などをフリーページのディー判事メモに簡単にまとめてありますので,ごらんください。
ロバート・ファン・ヒューリックの他作品についての日記は,フリーページ 読了本(海外) (ロバート・ファン・ヒューリック)からごらんください。
━Your Click Cheers Me Lot━━━━
このブログのRSSのURL →
RSS
━━━━━━━━━━━━━━━━
楽天ブックス
記事関連のオススメ日記
幸房さんの日々是読書|〃´△`)