1179182 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

炬燵蜜柑倶楽部。

炬燵蜜柑倶楽部。

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

カテゴリ

サイド自由欄


2005.06.30
XML
カテゴリ:本日のスイーツ!
やがて、ロブが言ったように、マフィアの内部抗争は、だんだん激しくなっていった。
 しかしまあ、オレにとっては、それからの日々というものは、「平和」そのものだった。
 と言うか、「平和」というのがどういうものなのか、オレはそこで初めて知ったと言ってもいい。
 それは、ごく他愛ないものだ。

 オレが住み着いて、半年くらいが経っていたある日のこと。
「おーい、なあシャノ、買いだし行こうぜっ買いだし」
 扉の開く音がしたかと思うと、ロブの嬉しそうな声が飛んできた。
 確か奴は今朝、画廊に行って来る、と出かけていた。
 ということは、売れたのか。それは良かった。
 しかしその時のオレは、今まさに、床にブラシをかけている時だった。
「えーっ? だってオレ、今さっき、掃除始めたばかりだぜ? あんた一人で行って来いよ」
 オレは小さな抵抗を試みた。だが。
「…おいおいシャノ、買い物に一人で行ってもつまらないじゃねえか。な、いいだろ?」
 そこで、そういう顔をするかなあ。はあ、とオレは内心ため息をつく。
 大の大人がさ、数枚の札が入った封筒握りしめて、顔全部で本当に嬉しそうに、へらへら笑ってるっていうのは、何と言うか。
 しかし奴は、そのオレのため息を了解と取ったらしい。
「よし決まりだ」
 問答無用で、奴は首に手を回した。ほとんどこれじゃあ拉致だ。
 オレも負けじと、モップを抱えて応戦する。
「…やなこった。だいたいあんたがまた昨日、解き油の缶こぼすから、オレ大変だったんだぜ?」
「あーごめんごめん。じゃあ市場でチョコレートを買ってやるからさ」
 ずるずる。
 …結局オレを拉致した腕、解く気はない訳ね。はあ。

 いや、行くのは嫌いじゃない。
 ただ、ロブときたら、行ったら行ったで、ガキのオレよりガキの様に、あちこちでこれがいいあれがいい、って金に限度があること忘れた様に買い込もうとする。さすがにそれに付き合っているのは気が気ではない。
「すみません、これ…」
 げげ。オレはいつの間にか横に居ない奴に慌てて振り返る。ちょっと目を離したらこれだ。
 何か、如何にも高価そうな果物を手にしている奴が目に入る。この星系にはない、濃い色の、甘い甘い匂いのする、中身も甘いらしい果物。
「あー、もう、だめだめだめだめ」
 オレは慌てて、林檎の山の方に手を伸ばした。
「おっさん、そっちは駄目! こっちね、こっち」
 そう言って、オレはぎっ、と奴をにらみつけた。
 八百屋のおっさんも、高い果物一個や二個と、林檎一袋ならまあいいか、という顔をして、クラフト袋にぎっしり詰め込んだ。
 林檎は量り売りだ。でかい玉がごろごろと中で押し合いへし合いしている。
「…あーあ、やっぱり付いてきて良かったよ」
 オレは頭を抱えた。
「へへへ、そうだろ?」
「そうだろじゃ、ねえってえの! …ったく、あんた一人で行かせたら、今月の生活費が、全部今日だけで飛んじまうじゃねえの!」
「そんなことは無いって」
「そんなことあるって!」
 現にさっきだって。
 だいたいオレが住んでるだけで、食費は以前よりずっと、かかってるはずなんだ。
 だからそのあたりはきっちり締めなくてはならない。それはもう、オレにとってほとんど使命感に近かった。
「あ、そう言えば、チョコレートチョコレート」
「…いいよ」
「まあガキは遠慮せずに」
「おい、変なところでガキ扱いすんなよ!」
 ぐい、とまた奴はオレの手を引いた。何だって画家がこんな力が強いんだよ。本当にこういう時、奴は強引だった。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005.06.30 20:18:08
コメント(0) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.