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カテゴリ:孤舟
「もう日が暮れまする。どうか、お戻りを」
側の草むらに跪いて、薄に引っかかっている髑髏を怖々眺めていた従者が、哀願するように少年に言った。少年はなおも名残惜しそうに延寿の顔を見ている。 「四宮様。また私が女院様にひどく叱られまするゆえ」 従者の困りきった顔を見ると、ようやく少年はしぶしぶ頷いた。そして、驚いている乙前と延寿に言った。 「それでは、これでさらばだ。延寿、構わぬから私を訪ねて来い。今は三条の待賢門院様の御所にいる。雅仁親王に推参を許されたと言えば、門番の武者も無碍に追い返しはせぬだろう」 そして、立ち去り際に乙前にも呼びかけた。 「いつかまた、お前の歌を聴けると良いな。いや、必ずそうなる気がする」 子供らしくもない大層自信に満ちた口調に、乙前は思わず微笑んだが、ただ何も言わずに頭を下げた。 少年は明るく笑って、延寿に手を振りながら去って行く。乙前は延寿と二人で少年の乗った牛車を見送った。 少年の残した袖の香が、まだあたりにほんのり薫っている。 辺りは宵闇に包まれて、もうすでにあの髑髏の姿も定かではなかった。 (終) ↓鴨川の川岸の薄。さすがに髑髏はないけど、白い鳥(鷺?)がいました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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