しゃべりのプロを目指して
先生は、しゃべりのプロであるはずです。異論はあるかもしれませんが、少なくとも、しゃべってナンボのはずです。 でも、本当にそうでしょうか?と、寅さん自身が、反省したことがあります。 寅さんの科学実験は、できれば2時間欲しいのです。それでも、ときどき、いや、いつもオーバーしてしまう。常に反省の日々です。 「寅さんの実験は、たっぷり時間がなくちゃ、味わえないよ。」と自分で妙に納得なんかしていました。しかし、先日、テレビ・ラジオを舞台にしゃべるアナウンサーの話を聞きまして、いかに甘いかを感じました!プロのしゃべり手と一般の人との最大の違いは「時間」を念頭に置いてしゃべるかどうかだということです。 授業にも、もちろん、時間はあり、「おおよそこの時間感覚で」といった常識的な構想はもって臨んでいますよね。 しかしテレビ業界のように「残り8秒でまとめてください」とフロアーディレクターがいきなりカンペを出す、という切迫した状況はそうそうないはずです。 先日聞いた話では、出された指示が「今日の振り返りと感想トータル13秒で締めて!」。こんなことに驚いているようではテレビの仕事はできないのです。一方で、「中継先、準備が間に合わない。3分つないで!」という突然の注文もある。 もちろん、ただつなぐのでは視聴者が逃げるので、それなりに「ひっぱる(興味を引き付ける)話題」を繰り出さなければプロではない。逆に3分の予定が、1分しゃべったところで急に「現場OK、中継呼んで!」のカンペがカメラの横に出される、というのも日常茶飯事。「しゃべりの基本は起承転結です」などと、悠長なことを言っていたら、翌日から誰も仕事を振ってこなくなるんです。しゃべったその瞬間から興味をそそる話題を繰り出し、しかも長さは、いか様にも調整できなければならない。 「あと1分あればうまくおさまったのに」などという言い訳は、まるで通らないし、そんなたわごとを言うものは2度とテレビ局には呼ばれない。「おれの芸は最低10分聞いてもらわないと面白さが伝わらない」と言っていたら、今のテレビ業界でで起用される可能性は極めて少ないのです。話芸を育てるには、ヒドイ環境だ、と憤ることもあるかもしれない。でも、逆に、こういうシビアな中でこそ、話芸は磨かれてくるのかもしれない。学校の教室の「お客さん」は、寄席のお客さんでも、テレビの視聴者でもありません。逃げませんし、客は、黙ってこちらの話しを聞かなければなりません。そういう中で、話芸を磨くのは、逆に難しいのではないでしょうか?これを克服するには、「このことを生徒に話すのに、本当に10分も必要だろうか?」「生徒は10分間も飽きずに聞いてくださるだろうか?」「自分が聞かされる側だったら、退屈な部分はないだろうか?」というように、自問自答するしかない。先生は、授業で話しをする際、自ら制約を自分に課すしかない。「話とは、話し手の先生が納得するためでなく、生徒にとって理解しやすいように"伝導率"を高めるものだ」という意識を高める必要があると思います。 「授業とテレビの生放送を一緒にするな」と言う前に1度、生徒からアンケートをとってみてはどうでしょうか?とっても勇気の要ることだけれど、これをしなければ、教室の王様である先生に、裸であることを、指摘してくれる人はいないのだ!そして、意外にも、生徒は遠慮無く指摘してくれるもんです。プロはみんなキビシイ評価されてるんです。先生も今から、しゃべりのプロ目指して頑張ろう! 寅さんは、まず「時間」を意識したしゃべりを心がけてみます。その第一歩として、ストップウォッチを使ってみます。