人間の心の内
平成30年3月20日(火) 午前4時起床。曇のち雨。気温が上がりませんでした。冷たい風が吹きました。出掛ける折り、コートを羽織らなかったので、帰り道は寒かったです。 今日は社の互助会を挙げての送別会でした。会費はサラリーから天引きです。互助会はそれを元手にいろいろな行事を組みます。今日もその一環でした。市内のホテル、大きな結婚式のできる間で数百人規模。毎年、この時期にあります。会費不要。なによりタダ酒の杣夫です。加えて普段話すことのない同僚と旧交を温めることも楽しみです。しかし、今年は欠席。野暮用がありました。真っ直ぐ帰宅。ノンアルの夕食を終えて着替えました。雨の夜道を妻の車を運転、出掛けました。午後10時を過ぎて終わりました。遅くにディスカウントショップや24時間営業のスーパー「イオン」を覗きました。アルコールを仕入れ、ついでに韓国海苔やソースカツ、チーカマ、チョコレートなんぞを見繕いました。これらは妻不在の時、即当てに便利です。店舗の籠を持ち、プラプラ商品の棚を見て廻りました。とその時、その「妻不在」が頭を過(よ)ぎりました。この春、私は還暦です。余命のことを考えて、もし妻が先に逝った時は男やもめ、蛆の湧く生活が待っています。こうして一人、買い物をするんだろうな。急に寂しくなりました。時刻が時刻でした。店内の客層はカップルや子連れのいるはずもなく、何とはなし、生活に疲れたように見える一人姿ばかりでした。私もその一人に見えているんだろうな。嫌だな。でもそこからがオメデタイ杣夫です。よし、その侘びしさを避けるにはただ一つ、妻より先に、だな。そう独りごち、酒を下げてそこを後にしました。 書くことがないので荒木虎美のことを。この名を聞いて嗚呼あの事件か。思い出す方もいるかと。読売新聞社西部本社編「物語の中のふるさと 九州・山口 物語の舞台を訪ねて」海鳥社1,700円を読んでいて見つけました。 先に余談を。この本、読売新聞が2003年から2年間の連載を束ねたものです。「小説やノンフィクションには必ず、題材となった場所があ」るという切り口で、作品の舞台となった土地を記者が訪ねて「作品が世に出るまでの足跡や逸話を聞き取り」記事にした内容です。全部で93の土地が紹介されています。例えば五木寛之「青春の門」の福岡・田川、下村湖人「次郎物語」の佐賀・千代田町、吉村昭「戦艦武蔵」の長崎、夏目漱石「二百十日」の熊本・阿蘇、川端康成「たまゆら」宮崎・大淀川河畔、向田邦子「父の詫び状」鹿児島・平之町、林芙美子「放浪記」下関市等です。 戻ります。中に佐木隆三「別府三億円保険金殺人事件」の舞台、大分・別府も含まれていました。事件は次のとおりです。 別府市・国際観光港関西汽船フェリー埠頭から乗用車が海に転落、男が海面に浮かび上がり助かる。女性と子ども二人が水死。死亡したのは市内の女性とその娘中学生と小学生。「生還」した男は47歳、女性と再婚した直後だった。翌日には死亡した子ども2人に多額の保険金がかけられていたことが判明。事故は事件になった。 その男の名が荒木虎美なのです。確か出自は佐伯だったような。事件性もさることながらルーツが私のまち、加えてテレビや新聞のふてぶてしい容貌でした。事件は高校生の自分に忘れられない印象を残しました。荒木は間もなく逮捕されました。大分地裁は死刑判決。福岡高裁も同じでした。最高裁へ上告中、癌のため医療刑務所で死亡。判決は確定しませんでした。被告は生涯、無実を主張しました。真相は不明の儘でした。凶器なし、物証もなし、加えて自白なし。真実は闇の中です。なくなった3人の無念はいかばかりか。不条理ではあります。 本のページをめくりながら、別のことを考えました。殺人に限らず、人の起こす事件には心証というものがあります。荒木も浮かび上がらず、水中でしこたま水を飲んで意識不明を救助されていたら、二人の義娘に保険金が掛けられていなかったら、疑われず、逮捕もなかったでしょう。状況証拠をして心証から犯人に間違いないということで逮捕されたのでした。翻って今新聞テレビを賑わしている改竄のことです。これを荒木事件に置き換えてみると、状況証拠は揃って心証も悪い。でも口を割らずです。人の心の内が判らない、どうしようもないという構図はどちらも同じです。人間の正体といいましようか、それを見通すのは容易ではありません。はやり浄玻璃の鏡が必要です。今日の一句夜の雨肩に重しと晩白柚今日のランなし今日の酒深夜燗酒1合 芋焼酎お湯割り5勺今日の写真はネタ切れのお助け猫です。腹が垂れています。