セザンヌ パリとプロヴァンス
国立新美術館の『セザンヌ パリとプロヴァンス』に行きました。12時過ぎに着き、並ぶことなく入れました。展示は6つの章に分かれていました。1初期初期の中では、やはり四季の連作が一番良かったと思います。ルネサンスのような感じで、ボッティチェリが描いたような印象でした。誰の作か知らずに観たら、きっとセザンヌの名前と顔は思い浮かばないのではないでしょうか。2風景セザンヌの風景といえば、やはりサント=ヴィクトワール山。中でもフィリップス・コレクションの『サント=ヴィクトワール山』は割りと有名だと思うのですが、まさか日本で観られるとは思いませんでした。それほど濃い色彩では描かれておらず、観ていて清々しい感じがあり、手前の松が安定感と遠近感、そして臨場感を醸し出していて、いつまで観ていても飽きませんでした。パソコンなどの画像で観た時は割りと良い風景画という程度に思っていましたが、実際に目ににすると本当にいつまでも観ていたくなる名画でした。3身体水浴の作品もありましたが、小品で些か物足りなさがありました。この企画展で唯一“もっと良い作品を持って来てほしかった”と思ったところでした。4肖像肖像画で一番惹かれたのは、『アンブロワーズ・ヴォラールの肖像』でした。セザンヌの個展を開いた、セザンヌにとって意味があるヴォラールという人なので、観ていていてしみじみと感慨が深くなり、そして描かれているヴォラールが実に渋くて素晴らしかったです。椅子に座り脚を組んでいるヴォラールが描かれていますが、濃い茶系の色彩で、顔の描写は細かくないのですが、それが逆になんともいえない作品としての魅力がありました。画像や印刷物で見ると普通の肖像画ですが、実際にはやや大きめの作品で、これほど渋い肖像画は他には無いのではと思うほどでした。その他では、『坐る農夫』が良かったです。素朴でありながらも温かみが感じられ、大きく描かれた手が農夫を象徴しているようでした。5静物この企画展で最も楽しみにしていたのが、オルセー美術館の『りんごとオレンジ』。この作品が日本に来るとは夢にも思いませんでした。静物画なので、動くはずがないのですが、今にも動き出しそうなりんごとオレンジで、敷かれた白い布は滝のようです。観ている人たちに流れに合わせて少しずつ正面に移動したのですが、不思議なことに、真正面に立ったその時、今まで意識してなかった画面の真ん中にあるりんごが急に視界の真ん中にはっきりと浮かび上がり、それが視線を固定したかのような感じになりました。まるで、“私はこの位置でカンヴァスに向き合い、意図的にりんごを真ん中に描いた”とセザンヌに囁かれているようでした。今まで動的な印象だった絵が、急に観る“軸”のようなものを発見したようで、“動”から“堅固”に印象が変わりました。実に不思議な感覚でした。様々な角度から観てみましたが、この軸は真正面から観ないと不思議な感覚は現れませんでした。今はインターネットで名画ならほとんどネット上にありますが、実際に目の前で絵を観ないと感じ得ないものがあるのだと改めて思いました。6晩年この章には、アトリエが再現されていて、なかなか面白かったです。作品は、『庭師ヴァリエ』が実に素晴らしかったです。これも椅子に座って脚を組んでいるのですが、気難しいセザンヌが気分良く描いたのではないかと思える筆使いと色彩で、描かれているヴァリエも飾らないところが格好良く見え、これほどシンプルで清々しく格好良い肖像画は他に無いと思えるほどでした。この絵はセザンヌの代表作ではないですし、知っていたという人もほとんどいないと思いますが、セザンヌの作品ベスト5に入れたいくらいに気に入りました。ほとんどどの章に物凄く気に入る作品が2つ3つあり、特に『りんごとオレンジ』では不思議な感覚を味わい、これほど満足度の高い企画展はめったにないと思います。『サント=ヴィクトワール山』『りんごとオレンジ』、その他、初期から晩年までの作品を集めたのですから、キュレーターは本当によく頑張ったのだと思いました。最も印象に残った『りんごとオレンジ』を次はオルセー美術館で観てみたいです。セザンヌ パリとプロヴァンス