「瑞姫、何処へ行っていたの? 早くこちらに来なさい。」
そう言うと継母は瑞姫を睨んだ。
「病院に行ってました。部屋で休ませていただきます。」
瑞姫の言葉に、継母の美しい顔が怒りで歪んだ。
「少しでも顔を出して頂戴。」
継母と口論する気力がない瑞姫は、渋々とダイニングへと入った。
そこにはフランス料理のシェフが招待客達に料理を振る舞い、客達はシャンパン片手に談笑していた。
「瑞姫さん、お久しぶりだこと。そちらの方は?」
ルドルフとともに入って来た彼女を見て、1人の女性がそう言って瑞姫に話しかけてきた。
「この方は、わたしの恋人ですわ。」
瑞姫はわざと継母に見せつけるかのように、ルドルフと腕を組んだ。
「まぁ、素敵な方ね。お似合いのカップルではなくて?」
「本当ねぇ。」
「お式はいつなの?」
婦人会のメンバーに質問攻めにあい、瑞姫は少したじたじとなったが、ルドルフがにっこりと彼女達に笑顔を向けて英語でこう言った。
『まだ彼女は学生ですし、彼女の母親が結婚を反対なさっているんですよ。わたしとしてはすぐにでも結婚したいところですけれどね。』
「まぁ、そうでしたの。」
「顕枝(あきえ)さん、瑞姫さんのご結婚には反対なさっているとか? ルドルフさんは素敵な方なのに・・」
メンバーの1人にそう言われて話を振られた瑞姫の継母は、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「まだこの子には結婚は早すぎますし、この子はまだ世間というものを知りません。」
「わたくし、これでも家事全般は出来ますわ。だから安心なさって、お義母様。」
「何故なの、瑞姫? 何故その男でないといけないの? 亜鷹さんはどうなさるおつもりなの?」
「亜鷹お兄様とはお別れしました。お兄様はわたしとルドルフ様の事を祝福してくださいました。わたしは彼と共に生きていきたいんです。」
「あなたは、この家を捨てるつもりなの? 母親と同じ過ちを犯すつもりなの?」
「母様は命を賭けてわたしを産んでくれました。その母の命を次代に繋ぐ為にわたしは彼と夫婦になりたいんです。お願いです、お義母様、わたし達の結婚を許してください!」
瑞姫はそう叫ぶと、継母の前で土下座した。
「瑞姫、お顔を上げなさい。あなたと彼との結婚は許してあげます。」
「お義母様・・」
「但し、お父様にもちゃんと許可を得るのですよ。これはわたくし一人では決められませんからね。」
「ありがとうございます。」
瑞姫はそう言うと立ち上がり、ルドルフに抱きついた。
「ルドルフ様・・」
「やっと一緒になれるな。」
継母は客達の手前、瑞姫と自分との結婚を許しただけではないのかとルドルフは思っていた。
その証拠に、彼女はああ言ったが目が笑っていないではないか。
(何か、ありそうだな・・)
嫌な予感を感じながらも、瑞姫の前では作り笑いを浮かべた。
瞬く間に時間は過ぎ、除夜の鐘が108回撞かれた後に新しい年をルドルフは日本で迎えることとなった。
「ん・・」
「新年明けましておめでとうございます、ルドルフ様。」
「おめでとう、ミズキ。」
真紅の振袖を着て、漆黒の髪を結い上げた瑞姫は、どこかなめまかしかった。
洋館に隣接する武家屋敷に用意された部屋で眠ったルドルフは、瑞姫によって黒紋付羽織と鼠色の袴姿となり、鏡の前に立った。
「良く似合ってますよ。」
「何だか変な感じだな。」
部屋から出て2人は一族が待つ部屋へと向かった。
「遅くなりました。」
瑞姫が襖の前で正座してそう言うと、中から父の声がした。
「入りなさい。」
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