ルドルフは準の言葉を聞き、瑞姫と再会できた喜びが瞬く間に消えていった。
彼が一体何を話すのかはわからないが、いい話ではないことは確かだ。
『わかりました。』
『ではこちらへ。瑞姫さん、健診までまだ時間があるからね。』
準に連れられたのは、病院内のカフェだった。
『お話とは?』
『瑞姫さんがお腹に宿しているあなたの子を、養子に迎えたいと思いましてね。』
『養子?』
ルドルフの美しい眦が上がるを見た準は、次の言葉を継いだ。
『実は彼女の妊娠が判った時、父から不妊検査をするように言われまして・・その結果、わたしが無精子症だと判りました。』
『つまり、自分には子どもが出来ない身体だからミズキとわたしとの間の子を欲しいと?』
準は溜息を吐いてコーヒーを飲んだ。
『わたしにはこの病院に勤務している兄が居ますが、兄嫁との間には女児が1人居るだけです。父は早瀬の血を受け継ぐ男児を望んでいます。瑞姫さんがあなたの子を妊娠したと父に伝えた時、“他の男の子でも、籍を早瀬に入れれば問題ないだろう”と。』
なんて自分勝手な考えなのだろうか。
跡継ぎが欲しいからと、自分と瑞姫を引き離そうとする聡一郎の企みを準から聞き、ルドルフは彼に殺意を抱いた。
『あなたはそれを承諾したのですか?』
準はルドルフの言葉に静かに頷いた。
『わたしはミズキとも別れませんし、彼女が宿している子を彼女と共に育てます。』
ルドルフはそう冷たく準に言い放つと、乱暴に椅子から立ち上がってカフェから出て行った。
「ルドルフ様、準さんと何を・・」
「お前は知らなくていい事だ。それよりも経過は順調なのか?」
ルドルフはそう言って瑞姫の下腹をそっと撫でた。
「ええ。つわりはもう治まりましたし、運動もしてもいいと助産師さんが言ってくださいましたし。性別は今日辺りで判るようですよ。」
「そうか。」
数分後、瑞姫の健診に付き添ったルドルフは、そこで初めて胎児の心音を聞いた。
小さな鼓動は、力強く逞しいものだった。
「赤ちゃんは男の子ですよ。」
「そうですか。」
「そちらの方は?」
助産師がそう言ってルドルフを見た。
「わたしの恋人です。両親学級に参加しようと思うんですけれど・・」
「来週の日曜にあるので、是非参加してください。初めてのことばかりだから不安でしょう?」
「ええ。嬉しいんですけれど、ちゃんと産めるかどうか心配で・・」
「大丈夫ですよ。」
瑞姫と助産師の会話を聞きながら、ルドルフは超音波検査の画像を見た。
そこには瑞姫の子宮の中で元気に動いている胎児の姿があった。
(やっと、やっとお前に会えるな・・)
その日の日曜日、瑞姫とルドルフは両親学級に参加し、授乳や沐浴の仕方、おむつ替えなど基本的な知識を知り、そこで会った先輩ママ達からのアドバイスを聞いて瑞姫は初めての出産や育児への不安が少し軽くなったと感じた。
「瑞姫、元気そうだね。」
両親学級が終わり、瑞姫とルドルフがカフェへと向かうと、そこには亜鷹が笑顔で2人に向かって手を振っていた。
「兄様、どうして東京へ?」
「お前とルドルフの赤ちゃんの為に色々とベビー用品を買ってね。右手の傷は?」
「ええ、もう大丈夫です。でも兄様、わたしはルドルフ様とは・・」
「結婚の事は真宮のお父さんをわたしが説得して折れてくれたよ。何だかんだ結婚を反対していても、初孫の顔は見たいようだ。」
亜鷹の言葉に、ルドルフと瑞姫は苦笑した。
「瑞姫さん。」
瑞姫が振り向くと、そこには聡一郎が立っていた。
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