軽い音がグラスから立てられ、シャンパンの泡の中では瑞姫がはにかんだような笑みを浮かべながら向かい合わせに座る夫の姿を見ていた。
「誕生日おめでとう、ミズキ。」
「ありがとうございます、ルドルフ様。」
高級ホテル内にあるイタリアンレストランで、ルドルフは瑞姫と2人だけで彼女の20歳の誕生日を祝っていた。
ルドルフと出逢い、愛し合い、夫婦となり子を授かったこの2年間は慌ただしく過ぎてゆき、待望の長男・遼太郎を出産してからの半年間は家にこもりきりでこうして夫婦2人で食事をしたり、デートをしたりすることはなかったし、夜の営みも無かった。
妊娠前の激しいルドルフとの営みは常に瑞姫にとって激しい快感となり、彼の愛撫によって何度スパークしたか知れない。
だが遼太郎を妊娠中は早瀬聡一郎のことで精神的ストレスが溜まり体調を崩しがちだったし、安産とはいえ産後の肥立ちも余り良くなかった為、ルドルフとの営みを敬遠するようになってしまった。
初めての育児をルドルフとともにし、遼太郎が日に日に成長する姿を夫婦で見守りながら、次第に瑞姫は彼と愛し合いたいと思い始めるようになった。
そのルドルフが自分の誕生日を夫婦で祝う為に、エステが付いた宿泊プランとイタリアンでのディナーを密かに予約したことを知ったのは、誕生日であるバレンタインデー当日のことだった。
「プレゼントは気に入ってくれたかな?」
「ええ・・とても嬉しいです。去年も一昨年も色々とあったから・・」
ルドルフはそっと瑞姫の顎を持ちあげると、彼女の唇を塞いだ。
「ん・・」
久しぶりの、夫とのキスに、瑞姫は酔いしれた。
「今夜、いいか?」
ルドルフの問いに、瑞姫は静かに頷いた。
レストランを出てエレベーターで部屋へと向かう中、瑞姫はルドルフと互いの唇を貪り合った。
「もう部屋まで我慢できない・・ここでするか?」
「そうしたいけれど、ここでは・・」
ルドルフの手がそっとドレスの中へと入り、内腿を這っている感覚がして瑞姫は思わず声を上げてしまった。
「はぁんっ」
その時軽い音がしてエレベーターのドアが開いたので、ルドルフは瑞姫のドレスの裾をそっと直した。
「続きは部屋で。」
甘い声で彼女の耳元に囁くと、彼女は静かに頷いた。
やがてどやどやと観光客らしき外国人の団体が入ってきて、俄かにエレベーター内は彼らの話し声で賑やかになった。
ドイツ語で今日の観光のことを話す彼らの様子を傍で聞きながら、瑞姫はそっと隣に立つルドルフを見た。
彼は何処か、遠くを見つめているようだった。
故郷から離れた遠い異国での生活に順応しているとはいえ、時折ルドルフは遠くを見つめるような目で空を眺めていることがあったが、やはりウィーンが恋しいのだろうか。
「ルドルフ様・・」
そっと瑞姫がルドルフの手を握ると、彼は蒼い瞳で瑞姫を見つめた。
「すまない、少しぼうっとしていた。」
「ウィーンが、恋しいですか?」
「恋しくない、と言えば嘘になるかな。」
やがて観光客達が降りて、再びエレベーター内が静かになった。
エレベーターを降りて部屋の前でカードキーを挿し込んで中に入るなり、ルドルフは瑞姫の唇を貪ると、素早くドレスのチャックを下ろし、首筋を吸いあげた。
「ああんっ」
下肢へと手を伸ばすと、そこは既に濡れていた。
「いつから濡れていたんだ?」
「レストランでキスしてから、ずっと・・」
はじらいながらも自分の愛撫を受け入れてくれる瑞姫を堪らなく愛おしく想いながら、ルドルフはそっと彼女の胸に唇を落としていった。
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