エルジィの挙式から数日後、アイリスと椰娜(ユナ)は仲良く高校の門をくぐった。
「アイリス様、ユナ様、おはようございます。」
2人が教室に入ると、後ろの席に座っていた女子生徒達がそう言って彼女達に頭を下げた。
「おはよう。ねぇ、今日ここに転校生が来るって噂だけど、誰なのかしら?」
「女には間違いないわね。ここは女子校だもの。」
アイリスとユナは、取り留めのない話を友人達をしながら、転校生が来るのを待った。
やがて担任の教師が1人の少女とともに教室に入って来た。
「今日から皆さんとお勉強することになった、シャルロッテさんです。」
「初めまして、シャルロッテです。宜しくお願い致します。」
少女はセミロングのブルネットの髪を揺らすと、クラスメイト達に挨拶をした。
「ねぇお姉様、あの子誰かに似ていない?」
「気の所為じゃない? この世の中、他人に似てる人なんていくらでも居るわよ。」
アイリスはそう言いながらも、エルジィの結婚式で見かけたあの嫌な女の顔を思い出していた。
昼休み、彼女達がカフェテリアでサンドイッチを頬張っていると、トレイを持ったシャルロッテがアイリスとユナの前に立った。
「そこに座りたいんだけど、いいかしら?」
「あらあなた、目が悪いの? わたし達が座っているでしょう?」
ユナがそう言ってシャルロッテを見ると、彼女はユナを睨み返してきた。
「あなた達がどいたらいいでしょう?」
「まぁ、生意気ね。ユナ様に向かってそんな口を利くだなんて。」
ユナの友人が加勢に入り、シャルロッテを睨んだ。
「シャルロッテさん、とおっしゃったかしら? あなたこの学校に転校してきたのに、もう敵を作りたいのかしら?」
「もういいわ。」
シャルロッテは不快そうに鼻を鳴らすと、隅の方へと歩いて行った。
「おかしな子ね。」
「気にしないでいいわよ。向こうはどうやらわたし達と仲良くなりたくないみたい。」
アイリスはそう言って友人達とのおしゃべりに戻ったが、もやもやとした気持ちは晴れないままだった。
同じ頃、遼太郎達が通うギムナジウムにも転校生がやって来た。
「なぁ兄さん、昔兄さんのクラスにいたシュンって奴、憶えてる?」
「隼? ああ、あの子? 何だか窃盗事件で捕まって学校退学になって日本に戻ったって聞いたな。」
「もしかしてあいつ、此処に来るんじゃないかなぁ?」
「まさか。」
遼太郎がそう言って笑った時、ざわついていたカフェテリアが急に静かになった。
「どうしたんだろう?」
ちらりと遼太郎達が入口の方を見ると、そこには日本人の少年が入ってくるところだった。
少年の顔は、紛れもなく遼太郎のクラスメイトだった隼だった。
(何でこんなところに、彼が?)
「どうしたの、兄さん?」
「何でもない。」
さっと遼太郎は蓉へと向き直り、何事も無かったかのように残り少ないランチタイムを楽しんだ。
「じゃあね、兄さん。」
「うん。」
蓉とは部屋が違うので、遼太郎は学生寮の階段の前で彼と別れると、自分の部屋へと向かった。
部屋の前には、沢山の荷物が置かれていた。
(新しく誰かが入るのかな?)
遼太郎が首を傾げながら部屋に入ると、そこにはシーツを剥がされたベッドの端に隼が腰掛けていた。
「久しぶりだね、遼太郎。」
「まさか君と同室なんてな。もうとっくに縁が切れたと思ったのに。」
遼太郎は溜息を吐くと、自分のベッドに寝転がった。
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