その送り主は、襄の孫娘・アリスからだった。
“祖父はあなた達にとても会いたがっています。是非来てください。”
手紙が届いてから4ヶ月後、巽達はボストンへと向かっていた。
「漸く会えるんだな・・」
「よかったね、お祖父ちゃん。」
巽の胸には、長兄・総司に対する申し訳なさと、襄に謝罪したい思いで一杯になった。
父・歳三は晩年総司と絶縁してしまったことをしきりに後悔していると呟いていた。
『何であんなつまらねぇ理由で息子を絶縁させたんだろう。孫が出来たと素直に喜べた筈なのに・・』
歳三は総司と和解できず、総司はアメリカで病死し、孫・襄とも会うことなく最愛の妻の後を追った。
巽はその父の代わりに、襄に会って両親の事や総司の事を話したかった。
そんな事を考えている内に、襄と会う約束の時間が迫って来た。
襄との待ち合わせ場所は、ボストン市内の公園だった。
5月の新緑に囲まれたそこは、家族連れやランチタイムのひとときを過ごすビジネスマンで賑わっていた。
巽はそっと、木製のベンチに腰掛けた。
メールでは会いたいと言っていたが、本当に襄は来てくれるのだろうか?
もし急に会いたくないと言ってきたらどうしようか―そんなことを考えている内に、巽はこちらへと近づいてくる老人に気づいた。
『あなたが、タクミ=ヒジカタさんですか?』
『はい、そうです。』
巽はベンチから立ち上がると、自分を見つめている老人を見た。
『あなたが、襄さん?』
『そうです。』
『済まなかった、襄!今まで連絡も取らないでいて・・』
『もういいんです、こうして会えたんですから。』
襄はそう言うと、巽を抱き締めた。
こうして2人は、82年振りの再会を果たした。
長い間彼らは互いの家族の事などを話しあった。
『これで父や母に良い報告が出来るよ。きっと総司兄さん達も天国で喜んでくださるだろう。』
『そうですね。休みが取れたら日本に伺います。その時までお元気で。』
『ああ。』
笑顔で襄と別れた巽は、天国に居る両親や総司は喜んでくれただろうかと思っていた。
瞬く間に5月の再会から半年が過ぎ、襄が家族を連れて来日し、宿泊先のホテルで襄と巽達は感謝祭を過ごした。
『見て、初雪よ!』
窓の外を眺めていた真由がそう叫ぶのを聞いた巽と襄が窓の外を見ると、そこには白い雪が舞い散り始めていた。
『父と母は、初雪が降った夜に出会ったんですよ。』
『そうですか。天国の二人がわたし達を祝福してくれたんでしょうね。』
『えぇ・・』
感慨深げに窓から初雪を眺めていた巽は、涙を流していることに気づいた。
(お父さん、お母さん、これで思い残すことはありません。)
巽と襄の交流は、2013年5月に巽が亡くなるまで続いた。
巽の部屋には、自分の家族と襄の家族が映っている写真と、両親たちと写真館で撮った家族写真が仲良く机に並べられている。
あの初雪の日―歳三と千尋が運命の出逢いをした夜から、100年以上の時を越え、断ち切られていた家族の絆は漸く結ばれたのだった。
―完―
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Last updated
2016.05.26 14:51:37
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