「あの、土方さんって・・もしかして・・」
『ええ、歳三君の父親です。もう離婚して親子じゃありませんが。それよりも、千尋ちゃんの事ですが、彼女は今わたしと一緒に居ます。』
「え!?」
「何ね直子、そないな声出して。どげんしたと?」
澄が部屋から出てきて、直子を怪訝そうな表情を浮かべてみた。
「お母さん、何でもなか。」
「そうね。」
澄が部屋へと戻っていくのを見た直子は、慌てて受話器を握りなおした。
「もしもし、土方さん?」
『はい。少しお話したいことがありますが、今日はもう遅いので明日の朝、天神にある喫茶店で話しませんか?』
「はい、お待ちください。はい、天神の喫茶店・・わかりました、ご連絡くださってありがとうございました。」
隼人に指定された待ち合わせ場所の喫茶店の名前と住所をメモに走り書きした直子は、それを握り締めながら寝室へと戻った。
「千尋ちゃん、帰らんかったね。」
「あの子、歳三君のお父さんと一緒に居るって。」
「歳三君のお父さんって、離婚した?何で千尋ちゃんと居ると?」
弘志がそう言って直子を見ると、彼女は彼にメモを見せた。
「明日、そこで彼と会うことになっとうと。お母さんには知らせんでよ。」
「わかった。俺もついて行きたいのは山々やけど、朝早くに仕事が・・」
「心配せんでもよか。」
翌朝、直子は待ち合わせ場所である天神の喫茶店に入ると、そこには隼人と千尋の姿があった。
「千尋ちゃん、昨夜はどげんしたと?」
「伯母さん、心配かけてごめんなさい。わたし・・」
「すいません、朝お忙しいのにわざわざ呼び出してしまいまして。実は・・」
隼人はグラスに入った水を一口飲むと、直子を見て次の言葉を継いだ。
「昨夜、千尋さんを産婦人科に連れて行きました。」
「産婦人科?」
直子は千尋を見たが、彼女は唇を噛んで俯いている。
「大変言いにくいことですが、千尋ちゃんは学校で何者かに暴行されました。」
「暴行って・・警察へは?」
「本人が行きたくないと言ったので、行きませんでした。直子さん、女性としての尊厳を傷つけられた上に、警察にその時の状況を根掘り葉掘り聞かれることが、千尋ちゃんにとって大きなストレスになるか、お分かりでしょう?」
隼人はそう言うと、直子を見た。
「この事は、主人も母も知りません。千尋ちゃんは今までのようにうちで預かって・・」
「そうはいきません。落ち着き次第、彼女はわたしが養女に迎えたいと思っております。」
「え・・」
突然のことで、直子は混乱した。
「ご主人とお母様には、こちらが説明いたします。状況が状況ですし、学校も転校することになります。」
「そげな事突然言われても・・千尋ちゃんの気持ちを考えて・・」
「千尋ちゃんは、承諾してくださいました。もうお話は済みましたので、これで失礼を。」
隼人は一方的にそう言って椅子を引いて立ち上がると、千尋の手を引いた。
「千尋ちゃん・・」
「伯母さん、ごめんなさい。こんな形で別れたくありませんでした。」
千尋は直子を見ると、彼女は涙ぐんでいた。
「落ち着いたら連絡頂戴ね。待っとるから。」
「はい・・」
直子は千尋の姿が見えなくなった途端、その場で人目も憚らず嗚咽した。
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