(誰だろう、こんな時間に・・)
突然チャットルームにやって来た『ペガサス』というネットユーザーに不審を抱きながらも、フリードリヒは彼の真意を探るために、キーボードを打ち始めた。
【はじめまして、ペガサスさん。こんな朝早くからどうしましたか?】
【別に。それよりも噂のことについて色々と聞きたいな。君が知っている範囲だけでもいいけど。】
【う~ん、そうですねぇ。セーラ皇太子は僕の両親と姉を捨てて、自分だけ助かろうとしたんです。彼は卑怯者です。】
【そりゃぁ、誰だって自分の命と国、どちらかを取れと言われたら前者のほうを取るものさ。】
セーラ皇太子の肩を何かと持つ『ペガサス』に、フリードリヒは苛立ちながら人差し指で机の端を叩いた。
【あなたは、裏切り者を支持するの?それじゃぁあなたは裏切り者と同じじゃないか?】
【ひどいなぁ、僕は自分の意見を述べているだけなのに。どうして自分だけ違う意見を言ったらすぐに叩かれるんだろうねぇ?】
どう彼の言葉に変えそうかとフリードリヒが画面を注視していると、別のユーザーがログインしてきた。
“勝手なこと言ってんじゃねぇよカス、消えろ。”
【君は礼儀というものを知らないの?ああ、君はママからパソコンを買って貰ってチャットデビューしたばかりの坊やかな?】
“うるせぇ、殺すぞ!”
【死ね、殺せって、それしか言えないの?おこちゃまはこれだから嫌だねぇ~】
『ペガサス』はログインしてきたユーザーを軽くあしらうと、彼の言葉を完全に無視した。
やがてそのユーザーは何の反応もなくなって退屈してしまったのか、退室してしまった。
【ふぅ、やっとベビーシッターのバイトが終わったから、また君と話せるよ。】
【それはどうも。あなたはどうやら、大人のようですね。】
【どうかなぁ、それは。ママに色々と泣きつかないとインターネットもできやしない。実家住まいのニートってホント嫌になっちゃう。】
【僕だって親に勉強しろって言われてウンザリしてるんだよ。テストの成績が悪いと、インターネットの契約を切るって言われてさぁ・・】
暫くフリードリヒは、『ペガサス』と雑談を交わしてチャットルームから退室した。
「随分と楽しそうですねぇ。」
「まぁね。ネット上では僕が皇族だということは誰も知らないし、普通のティーンエイジャーとして振舞える。それに楽しいし。」
「それはよかったですね。でもあまりやり過ぎないようにしてくださいね。」
「わかっているよ。」
「まずまずってところだな。」
聖良はラップトップを閉じると、溜息を吐いた。
「まさか、相手がセーラ様とは向こうは思ってもみないでしょうね。」
「そりゃそうだろう。ネット上では誰でも嘘が平気で吐けるんだ。俺は実家住まいで30近いのに未だ独身のニートっていう設定だが、お前は何かとイタイ中学生か。もうちょっとマシなものを考えられなかったのか。」
「申し訳ありません、咄嗟に浮かんだ設定しか考えられませんでしたので。
罠に誘き寄せられ、標的はまんまと姿を現した。
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