クリスマスの二週間前、タンバレイン家では盛大な舞踏会が開かれた。
何せ300人も招待したので、使用人だけでは足らず、タンバレイン夫人は配膳スタッフを100人ほど急遽雇う羽目になり、また人件費がかかるとパーティーが始まる数時間前にだれかれ構わず愚痴っていた。
「ウォルフ、お前も手伝ってちょうだい。」
「奥様、ウォルフ坊ちゃまは・・」
「お黙り、アーニー!さぁ、さっさとこれを着て厨房に向かいなさい!」
タンバレイン夫人は配膳スタッフの制服を投げつけると、くるりとウォルフとアーニーに背を向けてバール・ルームへと入っていってしまった。
「ウォルフ坊ちゃま・・」
「気にするな、アーニー。あの女が俺をどう扱うのか、想像がついたさ。」
ウォルフはさっさと腰に白いエプロンを巻くと、厨房へと向かった。
そこはさながら戦場のようで、料理長のリックが部下達にテキパキと指示を出していた。
「てめぇら、もたもたするんじゃねぇぞ!」
リックはグリルでステーキを焼きながら、入り口に立っているウォルフに気づいた。
「ウォルフ坊ちゃん、どうしてこんな所に?」
「あの魔女に体よくバール・ルームから追い出されたのさ。」
「そりゃぁ、可哀想に。じゃぁ、あそこにあるステーキを運んでくれませんか?他の者はバール・ルームで飲み物を配るのに忙しくて・・」
「わかった。」
数分後、ウォルフがバール・ルームへと行くと、そこには300人もの男女がダンスをしたり、シャンパン片手に談笑したりしていた。
「どうぞ。」
ウォルフが焼きたてのステーキを客のところに運ぶと、彼らはヒソヒソと何かを囁き合いながら彼を見た。
「ウォルフ、どうしたのその格好!?」
「厨房の人手が足りないからって、ピンチヒッターで給仕のバイトをしてるのさ。」
厨房へと戻ろうとしたウォルフを呼び止めたアレックスに、彼はそう言って笑った。
だがアレックスは、タンバレイン夫人のあからさまな嫌がらせに怒り心頭だった。
「酷いよ、あの人・・何もこんな・・」
「怒るな、アレックス。あいつらは俺の屈辱にまみれた顔を見たいんだろうさ。」
ウォルフが指した方向には、チラチラとこちらの様子を伺うタンバレイン夫人が招待客達と談笑していた。
「後で会おうね。」
「ああ。」
ウォルフと別れたアレックスは、何もすることがないので人気のないバルコニーへと向かった。
熱気あふれる室内から出て、アレックスは冬の夜風に当たった。
暫くバルコニーからライトアップされた庭をアレックスが眺めていると、背後から誰かが彼を抱きしめた。
「誰~だ!」
「もう、ビックリさせないでよ、ラリー!」
いつも美しく着飾っているラリーだが、今夜はいつにもまして美しかった。
白い毛皮のケープを羽織り、エメラルドのドレスを纏い、胸には赤ん坊の拳大位のアメジストのネックレスをつけていた。
「舞踏会、楽しんでる?」
「ううん。奥様は酷いんだ、ウォルフをこき使って・・」
「あの女は決してウォルフをタンバレイン家の一員だとは認めないよ、自分が生きている内はね。」
「ねえラリー、ママのことで何か知ってない?この前、競馬場で一緒に居た男性のことなんだけど・・」
「あぁ、あれはメグの実の父親さ。」
「え・・それじゃぁ、お爺ちゃんは?」
「なんだ、知らなかったの?メグはマックスの養女なのさ。」
「じゃぁ・・ママの本当のパパは?一体どこの誰なの?」
「それはね・・」
「ラリー、こんな所にいたのかい、探したよ。」
ラリーが次の言葉を継ごうとして口を開いた時、プールで見かけた青年・ジェフがバルコニーにやって来た。
「アシュリー、また会えたね。この再会を祝して踊ろう。」
「え・・あ、ちょっと!」
有無を言わさずアレックスの手を掴んだジェフは、踊りの輪の中へと加わった。
「あの、わたし踊れません・・」
「いいよ、僕がリードするから。」
ジェフはそう言って笑うと、アレックスと踊り始めた。
ラリーの特訓の成果か、ワルツのステップを優雅に踏みながらジェフのリードについていくアレックスを見ると、彼はくすくすと笑った。
「どうしたんですか?」
「いや・・君は可愛い子だと思ってね。」
ジェフはそう言ってグイとアレックスの腰を掴んで自分の方へと引き寄せると、彼の耳元でこう囁いた。
「君、男だろう?」
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