小さな田舎町を揺るがした殺人事件は、ジェフ=ハノーヴァーの逮捕により更に報道が過熱し、世界中から観光客が押し寄せるようになり、その結果町の経済は一時的に潤った。
ラリーの顧客情報ファイルはハッカーによって世界中に発信され、ハノーヴァーは殺人罪で有罪となっただけでなく、その財産も没収、長年築き上げてきた政治家としてのキャリアを失った。
事件の被害者であるラリーの墓には、彼の死を悼んで観光客達からの花束が絶えることがなかった。
殺人現場となったクラブ『ジャーヘッド』は、ラリーの友人・アレンがオーナーとなり、ダイナーとして生まれ変わった。
ラリーの死により、この町が隠していた秘密が次々と暴露され、その中にはジョージ=タンバレインが過去に犯した数々の不祥事が明らかになった。
「これからどうなるかなぁ?」
「さぁな。良い方向にも悪い方向にも変わっていくだろうよ。」
そういいながら、ウォルフはクッキーを頬張った。
「そろそろ時間だな。」
「そうだね。」
彼らは長距離バスのターミナルに居た。
アレックスは第一希望のカルフォルニア大学への入学を果たし、LAに移住することになったウォルフとともにLA市内のアパートでルームシェアリングすることになっている。
「LAはエンターテイメントの街っていうけど、どんな所なのかなぁ?」
「ホットでクールな場所だから、きっと気に入るぞ。」
「そうかなぁ・・」
LA行きのバスに乗りながら、アレックスは次第に遠ざかってゆく母の故郷を窓から眺めていた。
一年後。
『アレックス、どうだ大学は?』
「うまくやってるよ。おじいちゃんのほうこそ、大丈夫なの?」
『ああ。メグのほうはこっちに戻ってるぞ。アレンのダイナーで働いてる。少しでも自立したいって言ってな。タンバレイン家はどこかに引っ越したよ。』
「そう。ママとアレンに宜しくね。」
『わかったよ、お休み。』
「うん、お休み。」
祖父との久しぶりの会話を楽しんだアレックスは、スマートフォンを充電した。
「マックスは元気にしてたか?」
「元気にしてたよ。ああ、ルナのこと言いそびれちゃったよ。」
そう言ったアレックスは、ゲージの中に居る愛猫のほうを見た。
ラリーの事件で二人が忙しくしている間、ルナは近所の野良猫と懇(ねんご)ろになり、アレックスがウォルフと共にLAに移住した後6匹の子供を産んだ。
まだ目も開いていない子猫たちは、必死にルナの乳首に吸い付いて母乳を吸っていた。
「どうしよう・・」
「子猫の貰い手を探すしかないな。ネットで探すのもいいし、大学の掲示板に張り紙を貼るのもいい。」
「じゃぁ、今からつくろうかな。ウォルフ、悪いけど手伝ってくれる?」
「ああ、わかった。」
メグはアレンのダイナーで働きながら、ふと壁に掛けてあるカレンダーを見た。
今日は長期休暇を利用してアレックスとウォルフが帰ってくる日だった。
「メグ、今日は早めに上がりな。久しぶりにアレックスたちが戻ってくるんだから、親子水入らずの時間を過ごしなよ。」
「悪いわね、アレン。」
「いいってことよ。」
メグはエプロンを外すと、息子達が乗っているバスを迎えに行くためダイナーから飛び出した。
―完―
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